第8話 運命の人には条件があります!
お茶会の翌々日ーー
私は、約束の黒糖プリンとクッキーを持って公爵家を訪問した。
「ジルー!これ食べてー!そして私の未来に向けた感想をよろしくねー!」
応接室に通されてすぐに、バスケットを掲げて言うが……何だか、ジルはご機嫌斜めなようだ。
「ジル、どうしたの?いつもプリンを見たら口元緩ませるのに…..顔怖いよ??」
「……お前、この前のお茶会どうだったんだ?」
「どうって……しっかりこなしてきたよ?あ、お友達が出来たの!」
ジルの口元がヒクヒクと震える。
おかしいな?初対面の時から、だいぶ体力もついてきて、最近のジルは体そこまで弱くないはずなのに、体調不良?
「……目当ての殿下との対面はどうだったんだ?」
「いい人だった。緊張してるならあんまり喋んないでいいよ、ってクッキーくれたんだよ。優しいよね。しかも美味しいし」
「……それで、運命の出会いは無事果たせたのか?」
ジルが、声を落として言う。
そうよね、第一王子の運命の人は、臣下として気になるよね。
「いやー、殿下はいい人だけど、運命の人候補には入らなかったね」
「……はぁー!!?何でだよ、第一王子だぞ!」
「そうなんだけどさー。こう、ビビっと来なかったの」
ジルが「頭痛い……」と言いながら、額を押さえている。え、本当に大丈夫?
「不敬だろ……というか、今更だけど、お前の運命の人って一体どういう条件で決まるわけ?」
全く、ジルったら、お助けキャラなのにわかってないわね!ヒーローの条件なんて、決まっているじゃない!
「まず、顔よ」
「……一番言っちゃダメなやつを最初に言ったな。お前、人間としてそれどうかと思うぞ」
「言わないだけで女性はみんな思ってるよ。大事じゃん!!」
「……あとは?」
「あとはカリスマ性、というかオーラ?なんか、かっこいいセリフ言った時に、エフェクト飛びそうな人」
「エフェクト?」
「こう、背景に華がぐわっ!と咲いたり、キラキラ〜って星が飛びそうってことよ」
「……そんな人間、いねぇよ」
「......あとは私のことをちゃんと見てくれる人かな」
ジルが大きなため息をついてる。
「……殿下から、俺にも手紙が来たぞ」
「え、なになに!?もしかして、私見初められちゃった!?」
「『ジルも苦労するね……。君が振り回されたいタイプだなんて、知らなかったよ』だとよ」
「あれ?ジルもお茶会に関わってたの?苦労してるんだ、大変だね」
何の話をしているのかわからない。こう言う時は流すに限る!
目の前にある紅茶を飲むと、格調高い香りがしてうっとりしてしまう。
ジルが、またため息をついた。幸せ逃げないかな、心配だ。
「……で?今回できたお友達ってのはどんなやつなんだ?」
「ジルの知ってる人だよ。マリアって、ジルの遠縁なんでしょ?」
ジルがガバリ!と頭を上げた。今度は目を見開いてる。忙しいな。
「は?マリア嬢と話す場面があったってことか!?お前、絶対お茶会で問題起こしただろ」
「失礼な、そんなわけないでしょ。にしてもマリアって切れ者って感じだよねー!可憐な見た目なのに鋭利な雰囲気で、ギャップがあって素敵だった!」
「今度一緒にカフェに行く約束したの」と教えてあげると、今度は天井をじっと見上げてる。今日は首のストレッチをしたい気分なのか?
「……俺も、ついてく」
「え?」
「マリア嬢とお前が話すと、ろくなことにならない気がする。俺も行く」
「えー!いやだよ、女同士の話があるんだから。っていうか、しっかり者2人が揃って、何かあるわけないじゃない!」
ジルが大きく項垂れていたので、そっと黒糖プリンを目の前に置いてあげた。
うん!ツヤツヤしてて、我ながらいい出来だ!!
ーーーーーー
「え!?ジルフォード様って、リエラに対してそんなに過保護なんですか!?」
「っていうか、ケーキが食べたかったんじゃない?あの人甘党だし」
たっぷりクリームの乗ったケーキを頬張る私を、マリアは楽しそうに見ている。
「リエラって、かなり感性ズレてますね」
「そんなわけないじゃない!......あ、でもヒロインって天然設定多いよね?……うん、そうなの!私天然だから!」
紅茶を飲んでるマリアに満面の笑みで伝えると、マリアがむせこんだ。肩も震えている……すごく、見覚えのある光景だ。
「......マリアもジルと一緒で体弱い人?大丈夫?家系なのかな?」
「そんなわけないでしょ......私もジルフォード様と一緒で、変人に惹かれてしまうたちなの」
「うわー……男の趣味悪いと、人生狂うよ?気をつけてね?」
「リエラは、一体いくつなの??そして、あなたは嫌味通じない人ね?」
マリアがこっちを睨んでくるけど、美人の睨みはご褒美だ。美しい。うっとり見ていると「ダメだこりゃ」みたいな顔をされた。その表情も、何だかとっても見覚えがある。
「……あら?」
2人で楽しくお茶をしていると、後ろから声がかかった。振り返ると、茶髪縦ロール、吊り目、なんかドレスが豪華な令嬢が立っていた。
(おぉ……!これで金髪なら、間違いなく悪役令嬢だ!)
「あら、マリア様じゃないですか」
「ごきげんよう、クラリッサ様」
(名前も悪役令嬢っぽい!)
もしかして、この人がヒロインの私の生涯のライバル!?と意気込んで見つめていると、ジロリ、と睨まれた。
うわ〜……怖い。
「ピンクの髪に水色の瞳のふざけた見た目……あなた、リエラ・アーヴィング様でして?」
「あ、はい。そうです」
「そう……あなたが、噂のジルフォード様にまとわりつく女、ね」
「……はい?」
「とぼけても無駄よ。ジルフォード様と屋敷が近いことを理由に、淑女教育も放り出して、屋敷に通っているそうね、いい迷惑よ」
「え、いや、それは……」
「しかも、ジルフォード様の遠縁であるマリア様にまで擦り寄って……恥を知りなさい!!」
え、急に怒られたんだけど。びっくりして彼女を見上げると、その瞳を大きく釣り上げ、コチラを指さしている。
普通に失礼だ。
「あの、別に我々は幼馴染でして……」
「この年にもなって、幼馴染なんて通用しなくてよ!今日はあくまで忠告です、ジルフォード様にこれ以上馴れ馴れしくしたら、容赦しませんことよ!」
そう言って、彼女は後をたとうとするのを、マリアが止めた。
「お待ちください、クラリッサ様」
「あら、マリア様。どうされたの?」
「リエラ様は私と、ジルフォード様の大切な友人です。何も知らずに今の言いよう……我が一族の人選に疑問がある、と受け取ってよろしいですか?」
マリアがカップをわざと音を立てておき、クラリッサ様に微笑む。気づけば、女の戦いが始まっていた。
「そんな……私はただ、お二人が言いにくいだろうことを、代わりに……」
「我が家や公爵家が、アーヴィング家の令嬢にものひとつ言うこともできない、と思ってらっしゃる、ということですね?」
「あっ……、決してそのような……」
「……そうですか、どうやら、私の勘違いのようですね…..お引き止めしてしまい、申し訳ありません」
話はここまでだ、と言わんばかりに、マリアが笑うと、クラリッサ様なる人物は、逃げるように立ち去っていった。悪役令嬢、というか、なんか子悪党、って感じだ。
でも今は、そんなことより……
「……マリア」
「……何ですか?」
「あなた、女王様みたいね」
「……何よ、それ……」
マリアが力を抜いて、深いため息をついた。でも、その口元は少し笑っている。
「……あなたこそ、難癖つけられたのに元気そうね?」
「マリアが庇ってくれたからね……でも、女王様に庇われるのは、ヒロイン失格よ!」
「……何の話?」
今まで、運命の人攻略に向けたスキルアップばかりしていたが、ヒロインに必要なもうひとつの要素を忘れていた!それはすなわち!運命の人を巡っての、女同士の戦い!!
今後も、ああいう悪役令嬢キャラに絡まれる可能性がおおいにある!
と言うことは……武道を極めないといけないわ。
「……ねぇ、マリア。強くなるには、まずフェンシングかしら?」
「……あなた、人の話聞いてる?」
マリアが困った顔をしている。「ジルフォード様、どうしましょう……」とうめいているが、大丈夫、あんな甘党を呼ばなくても、あなたの余らせたケーキは、私がしっかり食べてあげるわ。
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