第7話 攻略キャラの王道は、王子様じゃないんですか!?
お茶会当日、私は完璧な淑女スマイルを顔に貼り付けて、ルシファー殿下主催のガーデンパーティー会場へと足を踏み入れた。
(事前準備は完璧!……殿下の年上・地味設定には疑問があるけど、やるしかない!!)
これは、私の運命を切り開く大事な一歩である。
意を決して会場を見渡すと、色とりどりのドレスに身を包んだ令嬢達が、優雅にお茶を楽しんでいる。
私が足を踏み入れると、みなさん気づいて笑顔を向けてくださる。
(おぉ〜〜〜〜!!これぞお茶会!感動だ!!……にしても、年上女性ばかり、ね?)
ニコリ、と笑みを返し、カーテシーで返すと、赤いドレス、金髪碧眼の美女が「はじめまして、あなたは?」と声をかけてくれる。あれ?空気が硬くない?
「お初にお目にかかります。アーヴィング家のリエラと申します」
「私はエリザベート・フォンテーヌと申しますの。まだ殿下はいらしてませんわ、どうぞこちらへ」
フォンテーヌ家といえば“侯爵家“だ。粗相は禁物!
にしても、このエリザベートさんを中心に、席次が決まっているようである。何というか殺伐とした空気が漂っている……しかも、案内された席、末席だし!!
「……恐れ入ります」
「あなたも大変ね、お若いのにお茶会に呼ばれて。でも安心なさって、殿下も、一度はアーヴィング伯爵のご令嬢を呼ばないと体裁が悪いでしょう?だから呼ばれただけで、一度顔を出せば、もう大丈夫よ。今日だけと思って、気を抜いてくださってね」
「殿下と話も合わないでしょうけど、今日だけですから」
おほほほほ ……!と、参加者のご令嬢たちが親しみを込めて言ってくれるが、めっちゃ牽制されている!
お前なんか殿下に相手にされないぞ、と明らかに言われている!!
こ、怖い……!
だが私はヒロイン、負けるもんか!
にっこりと笑って「ありがとうございます、せっかくの機会ですもの、私も背伸びして色々学んできました。今日は、私も殿下と楽しいひと時を送れれば、と思っておりますの」というと、空気が凍りついた。
(え、殿下とまだ会ってないのに、もう私やらかした!?)
焦ってエリザベートさんを見ると、彼女の目は笑っていなかった。彼女が口を開こうとした時、私の対角線上の位置から、声が上がる。
「エリザベート様、殿下がそろそろいらっしゃいますわ」
「……そうでしたね、マリア。ありがとう」
「いえ。それにしてもエリザベート様、本日のドレスも素敵ですわね」
エリザベートさんの意識が、私から逸れた。
(た、た、助かった〜〜)
ほっと息をつくと、話を逸らしてくれた令嬢が私を見てそっと微笑む。
見たところ、私と同い年くらいなのに….やり手だ。
というか、まっすぐに伸びた銀色の髪、瞳もサファイヤのような青い輝きで、めっちゃ美少女だ。思わず見惚れていると「殿下のお越しです」と声がかかる。
(でた!いよいよ、攻略キャラのお出ましね!!)
ゴクリ、と息を呑むと、王城から現れたのは、スラリとした青年。白い衣装を身に纏い、その服にはさりげなく刺繍が施されている。ぴんと背筋を伸ばし歩くその姿は、その赤茶色の髪と榛色の瞳と相まって……
(めっっちゃ地味じゃん!!)
街で歩いてたらちょっとイケメンかな、と思うような、普通の青年だった。
つまり、ヒーロー的カリスマ性、ゼロ!!!
(そ、そんなバカな……!)
私が思わず驚いていると、殿下が着席し、お茶会がどんどんと進んでいく。
流行りの小説、オペラの話から始まり、殿下は令嬢達から領地の状況をさりげなく聞いてくる。彼女達は、世間話をするふりをしながら、自領の自慢を繰り広げ、片時も油断できない時間が流れていく。
(こ、こんなの私の思ったお茶会じゃない!!)
存在感を消して、出されたお菓子をそっとつまむ。美味しいんだろうけど、緊張して味がしない!!
困っていると、ついに殿下に声をかけられてしまった。
「初めまして。リエラ・アーヴィング嬢だね?」
「……は、はひ!本日は、お招きいただきましてありがとうございます!!」
しまった!噛んだ!!
恥ずかしくて俯くと、隣の令嬢が蔑むように「クスクス」と笑った。し、仕方ないじゃん!あんた達、怖いんだよ!!
「ジルから話を聞いているよ、なかなか面白い令嬢だ、とね。一度お会いしたかったんだ」
「こ、光栄でございます……」
「……少し、緊張しているのかな?」
「え、ええ…..そうですね。初めて殿下とお会いするのでおそれ多くて……」
「そうか、無理して話してくれなくて構わないよ。ジルから、チョコが好きだと聞いている。これでもお食べ」
そう言って、殿下がチョコレートクッキーを差し出してくれる。
や、優しい……。優しいお兄ちゃんだ。でも、ときめかない!!これじゃラブロマンスは発展しない!!
しかも、やっぱりなんか、殿下地味だし、取り囲むご令嬢は怖いし、お姉様達の社会も出来上がってる感じする。
こ、これはもしかしなくとも……イベント、失敗?
その考えが頭をよぎり、ふるふると首を振った。
(そうじゃない!きっと、この人は攻略キャラじゃないんだ!だから、そもそもイベントが存在しないんだ!)
そうに決まっている、だって、冷静に考えて、7つも年上の地味な第一王子なんて、乙女ゲーム的にありえないもん!
であれば、もうここにいる理由はない!
だって、怖いし。怖いし……。
ちらり、と周囲を見渡せば、みんな私への興味はなくなり、違う話に花を咲かせている。
(…..今よ!)
小さな声で「ちょっとお花摘みに行って参りますわ」と言って、私はそそくさとお茶会から退散した。
これは決して、逃げではない!!
戦略的行動だ!!
ーーーーーー
「うわ〜〜!!綺麗なお花〜〜!」
お助けキャラ・ジルは、普段は嫌味だけど、なんだかんだありがたい存在である。
王城で出てくるおすすめのお菓子や、招待客が出入りを許されている場所、その中で花の名所を色々教えてくれた。
(……あれ?あいつ、ルシファー殿下の話は全然してくれなかったのでは?)
一瞬頭によぎったが、まぁ今回はいいだろう。なにせ、殿下は攻略キャラじゃないのだから!
せっかく王城に来たのだから、お花見を楽しもう。
ピンク、黄色、白……色とりどりの花がバランスよく庭に植えられて、見事である。
「……お花見するってわかってたら、お菓子くすねてきたのに」
ポツリ、と呟くと後ろから「クスクス」と笑い声が聞こえた。振り向くと……さっき私をエリザベートさんから助けてくれた美少女が立っていた。
「あ……」
「こんにちは、アーヴィング様」
「あなたは確か……」
「マリアと申します。リュクス伯爵家の長女ですわ」
ニコリ、と微笑む姿が、何とも美しい。
にしても、マリアって……こっちの世界だと違うけど、聖母の名前じゃない。なんか、似合う……。
「私はリエラ・アーヴィングです。先ほどは助けてくれて、ありがとうございました」
「いえ、ジルフォード様に頼まれていたので」
「ジルから?」
「はい、私とジルフォード様は遠縁でして……『リエラが失礼なことをしないよう見張っておくように』と言われておりましたの」
「おぉーー!!さすが『お助けキャラ』!」
「あ、それも言っていました。ヒロインとかお助けキャラとかイケメン、なんて謎な発言をし始めたら、割って入れって」
「あいつ、性格悪いと思っていたけど、案外いいやつじゃない……!!」
私が驚きの声を上げると、マリアさんは目を見開いて、笑った。
「ふふふっ!アーヴィング様って、ジルフォード様が言ってた通りの方なのですね」
「え、あいつなんか言っていた?」
「はい、思ったことを素直に言う、変わった方だって」
「……え??」
「相手の立場を気にせず、言いたい放題の迷惑な女だ、とも言ってました」
「あ、あいつ……」
「でも、裏表がなくて、気がおけないって。お人よしで憎めない女だとも」
マリアさんがニコリと笑うが、私は騙されない。あいつ、めっちゃネガキャンしてるじゃん!!
「私、あいつの言うよな、そんな失礼な女じゃないですから!!」
「あら?公爵家の嫡子であるジルフォード様にその言いよう、十分失礼だと思いますが?」
「いや、それは……あいつは幼馴染だし ……」
言い訳がましく言うと、マリアさんの目が刺すようにコチラを見てくる。
え、なんかまずい感じ?
「今までは幼馴染で良かったかもしれませんが、もうリエラ様も社交界デビューされるお年です。身の程を弁えた方がよろしいのでは?」
「……身の、ほど?」
「はい、ジルフォード様とは適切な距離感をとるべきなのではないでしょうか」
それは、挑発だった。
だが、彼女の言うことはもっともだ。
普段忘れがちだが、あいつはいいところのお坊ちゃんなのだ。とはいえ……
ジルは確かに公爵家の長男だけど、私から言わせれば、ただの性悪甘党男だ。
面倒見がよかったり、人の悪口を平気で言ったり……普通の12歳の少年だ。
それを今更「ジルフォード様〜♡」と他人行儀な距離感で接することなんて、私には出来ない!!
「……ご忠告、ありがとうございます。でも、お断りします」
「…..と、言いますと?」
「ジルの立場はわかっています。それでも、彼は私の幼馴染です。本人がいいと言っているのであれば、私は今後もーーあいつとは幼馴染として、友人として接していきたいです」
「……友人のフリをしてまで、公爵家に取り入りたいのですか?」
「まさか!!あんな性悪に取りいっても、何の得にもならないし!」
「……はい?」
「あいつは、ただの幼馴染で友人でお助けキャラです。私が今後攻略しないといけない、運命の人はジルフォードじゃないんです!!」
私が叫ぶと、マリアさんは大声で笑った。
「うわ〜、ジルフォード様が気にいるだけあるわ!アーヴィング様、すごく面白い!!」
「私、面白いです……?」
「えぇ、ジルフォード様にそんな態度、普通ありえませんよ。でも失礼じゃない、憎めない。それはきっと、あなたがジルフォード様を尊重しているからなんでしょうね」
「尊重……??」
私が首をかしげるのを、マリアさんは面白そうに見ている。
「もう!ジルフォード様だけ、アーヴィング様を独り占めしてたと思うと腹立ちますね!」
「あ、わかります?あいつ、基本腹たつ男なんですよ」
「……そうじゃないんですが……まぁいいです。アーヴィング様、私とお友達になってくれませんか?」
「え?」
「私もきっと、あなたの『お助けキャラ』なるものになれますよ?ファッションの話とか、美容の話はやっぱり女性同士じゃなきゃ!もちろん、恋愛トークも」
マリアさんが、にっこりと笑う。
か、可憐だ……。
こんな美少女がお友達になってくれるなんて!私は嬉しくて、大きく頷いた。
「はい!よろしくお願いします!」
「私のことは、マリアとお呼びください……リエラ様、とおよびしても?」
「もちろんです!むしろ呼び捨てで大丈夫ですよ!」
こうして、第一王子攻略の道は無くなったが、私には、初めて女の子の友達ができたのであった。
めーっっちゃ嬉しい!!ジルに自慢しよーっと。
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マリアは前作で名前だけ出てきた子です。リエラのマリアへの呼び方が変わってますが、そこはスピンオフということでご了承ください。




