第6話 お茶会イベントが発生するようです
誤字脱字、王子の年齢設定修正しました
やっと、やっとこの日が来た。
12歳。社交界デビューの歳である。
「……準備は万端よ……!王子でも宰相の息子でも騎士でも、ドーンと来い!!」
私、リエラ・アーヴィングは、自室の鏡の前でぐっと拳を握りしめていた。
転生に気づいて、はや9年、私は一度たりとも努力を怠ったことはない!
家庭教師には巻きで勉強を教えてもらい(前世の知識のおかげで勉強は早く進む!ありがたやー)得意でないダンスは、お父様にお願いしてレッスンを増やしてもらい、美容に詩歌に乗馬、果てはお菓子作りまで、イケメン攻略のためにありとあらゆることをやってきたのだ。
お助けキャラ・ジルフォードのアドバイスに従い、ジルフォードの毒舌に耐え、ジルフォードの嫌味に、淑女らしく反論し……。本当に大変だった。心折れそうになることもあった。だが、その甲斐はあった!!この私に、死角などない!!
今までが準備期間だとすると、ここからが本番である。
おそらく、メインストーリーが始まるのは、私が学園に入学してからーーつまり3年後にスタートするが、それまでに、メインキャラ達との接点をもつイベントが発生するはずである。
私は机の引き出しをそっと開けた。ボロボロになったノートを開くと、ヒロインに必要なスキルと、そのスキルを得るための努力が書かれているが『将来の運命の人♡候補一覧』は、ほぼ白紙である。「幼馴染キャラ」のところに削除線があり、それ以外には「王子様?騎士?」など走り書きしかない。
「うーん。そろそろこのリストを更新していきたいのよね……」
唸っていると、部屋のノック音が聞こえてくる。
「お嬢様、ご当主様がお呼びです」
「……お父様が?」
子煩悩のお父様は、執務中でも寂しくなったら私の部屋に問答無用でやってくる。
それが、わざわざ執務室に呼びつけてくる、となると……これは、貴族イベント発生なのでは?
ーーーーーー
慌てて身なりを整え、執務室へと急ぐ。
「お父様、お呼びと伺いましたが……あら、ジルもいたのね」
「呼び立ててすまないね、リエラちゃん」
父上は書類の束をひとつ手に取ると、私に向き直った。
「リエラちゃん宛にルシファー殿下主催のお茶会への招待状が届いたんだ。まさかリエラちゃんにも声がかかるとは思わなかったんだけど……まぁ、気を張らず楽しんでくるといい」
「ルシファー殿下……って第一王子の!?」
「そうだ、温厚な方だと聞いているし、リエラちゃんに限って……と思っているが、くれぐれも失礼のないようにね。ルシファー殿下とジルフォード殿は懇意にされていると聞いている。彼にもアドバイスを色々ともらうといい」
「……ノルトラント様、どう考えても、リエラ嬢には心配な部分しかありませんが……」
「何言ってるのよ、ジル!どう考えても、私ってば完璧でしょう!」
ジルは眉を釣り上げてコチラを見ているが、そんなの無視だ。
(ついに来たわ!!イベント発生よ!しかも、どう考えてもメインイベント!やったーーー!)
思わず両手を突き上げてしまい、父上が驚いた顔をする。ジルは「言わんこっちゃない」とコチラを冷たい眼差しで見てくる。全く、お助けキャラなのに、のんびりさんね!
「……ジル、あなたの私を助ける、という役回りも、ここから本格的に始まるのよ……。覚悟はよくて?」
「お前は伯爵令嬢、俺は公爵家の後継ぎだからな?伯爵に頼まれたからここに来ただけで、俺がお前を助ける謂われはないんだよ、間抜け」
「何よ!私を助けてくれるって幼少期に約束したでしょう!?」
「……お前の作った菓子に感想を述べてやると言っただけだ、拡大解釈するな、バカ」
「何ですって〜〜〜〜!!」
ジルといつものやり取りをしていると、お父様の咳払いが聞こえる。
っは!しまった!淑女の仮面が取れていたわ!
「お父様、お仕事中に失礼しました。アーヴィング家の名に恥じぬよう、お茶会に参加いたしますわ」
「……うん、普段通りにしてれば、リエラちゃんは大丈夫だから……ジルフォード殿相手のような、気軽な振る舞いだけはしないでね……」
「もちろんです!」
私とお父様とのやりとりに、ジルがあからさまにため息をつく。
全く!お助けキャラとしての自覚が足りないんだから!!
ーーーーーー
「……で?アーヴィング伯爵に呼ばれたから俺は来ただけなんだ。もう帰るぞ」
「待って待って!帰らないでジル〜〜〜!!殿下のこと教えてよ〜〜〜〜!!」
「面倒だから嫌だ。自分で調べろよ」
「お父様にお願いされてたでしょう〜〜〜」
「伯爵には恩義があるが、お前にはない。お前の手伝いをする理由がない、よって帰る。以上」
「無駄に三段論法とか使わないでよ〜〜」
私の叫びも虚しく、ジルがスタスタと出口に向かっていく。こうなったらしょうがない!
「今度、黒糖プリン作ってあげるから!!」
ジルの足がピタリ、と止まる。もうひと押しだ。
「しかも、普段作るやつじゃないから!ジルのためだけに作る特別なやつ!」
「……本当だろうな?」
「もちろん、すごく甘めに仕上げるから!」
ジルの足が、スタスタと私の方に向かっていく。
ふっ!普段スカしていても、ジルが甘いものに弱いの、私はちゃーんと知ってるんだから!
「……何が知りたいんだ?」
「殿下の好きな食べ物、好きな女の子のタイプ、好きな花……殿下にまつわる全てよ」
「……プリンとクッキーで手を打ってやる」
こうして、私とジルの「殿下攻略⭐︎ドキドキ勉強会」がスタートした……の、だが……
「な、な、何で〜〜〜〜〜!」
毒舌・ジルとの勉強会は、初っ端からつまずいた。というか嘘でしょう……
「え、殿下って9歳じゃないの?」
「……お前は簡単な引き算も出来ないのか?ルシファー殿下は19歳だ」
「王暦の下2桁、ずっと読み間違えた……そんなバカな」
「バカはお前だ、間抜け」
19歳って、私より7つも年上じゃん。
というか19歳と12歳の恋愛って、成立するの?大人になればOKなんだろうけど、この年でイベント発生したら不味くない?王子ロリコンじゃん。
学園でめくるめくラブロマンス展開の予定だったのに、7つも違ったら、学園で一緒に過ごせないじゃん。
「え、第一王子が隠しキャラって、そんなパターンある?」
「……ルシファー殿下を隠そう、なんてお前、王家に楯突くつもりか?」
「いや、そんな話してないから」
まずい、まずいぞ。なんかこの流れはおかしい気がする。え?私、なにかミスった??
「ねぇ、殿下ってどんなお人柄なの?」
「国民を愛し、国民を守るためなら、臣下に厳しい決断を下すことも厭わない、そんな方だ」
「……立派だ」
「まぁそうだな、そんな立派な方だから、7つも年下のお前とも、一度接点を持とうと思ったんだろう。ありがたく思え」
「はいはい、わかりましたよ。ちなみに、外見はどんな方なの?」
「赤みの混じった茶髪に、榛色の瞳だ」
え、なんか地味。
思わず、心の声が漏れそうになるが、グッと我慢する。さすがにその発言は、不敬だろう。
というか……え、第一王子って、乙女ゲームのセンター飾るような人じゃないの?
なんか、前途多難な感じするんですけど……




