第4話 お助け幼馴染キャラの味覚が心配です
「お助けキャラ:ジルフォード・ノルトランド。病弱で性格に難はあるが、味にはうるさいらしい、料理スキル強化人材?」
私は手元のノートに最新情報を更新した。今までは、仮の攻略キャラしか記載していなかったが、ついに!!固有名詞が出てきた!
運命の恋愛ドラマに向かって、ようやく一歩進んだ気がする。私は部屋で高笑いをした。
「ふっふっふ〜!待っててね!私の運命の方!明日から、あなたのために、ジルフォードと頑張りますからねー!」
えいえいおー!と叫んでノートを閉じる。
夜空には、そんな私を祝福するように、一番星が輝いていた。
ーーーーーー
「味にうるさいって言うなら、まずは料理スキルから磨こう」
翌日、台所で私は一生懸命クッキー用の生地を混ぜていた。
最後にチョコチップを入れて、再度かき混ぜる。その後、棒状にして、適切な厚みに切っていく。天板にそれらを並べて、オーブンに突っ込んだ。
「っふう!完璧ね!」
チョコが入ったお菓子は、乙女ゲームの定番だ。
チョコと言えば、前世で言うところのバレンタイン!好きな人にチョコをあげて好感度を上げたり、自分に不満を抱いている男性にチョコをあげて、彼のストレス指数を低減したり、と、イケメン攻略において、食べ物以上の価値をもつ奇跡のお菓子である。
「側から見れば、ただのクッキー。でも、未来の私の恋愛にとっては、大きな一歩となるのよ!」
ニンマリと笑っていると、侍女から「ノルトラント・ジルフォード様がお見えになりました」と声がかかる。
なんて!完璧なタイミング!
「おい、リエラ嬢。人を呼びつけるとはいい度胸だな」
ジルフォードが不満げにキッチンに入ってくるが、その鼻はピクピクと動いていて、嬉しそうに甘い香りを嗅いでいる。
「ジルフォード様、ようこそいらっしゃいました」
「……仕方ないから来てやったぞ」
侍女が差し出してきたパイプ椅子に、彼が腰掛ける。パイプ椅子に座っていても絵になるなんて、イケメンはお得だ。
「ごめんなさい、初めて作ったものだから、ぜひあなたに食べて欲しくて」
「まぁ……別にいいが」
ジルフォードが私から目を逸らし、オーブンに目を向ける。
ふむふむ。さすがお助けキャラ。作る工程からしっかりチェックをしてくれるのね!
……だが、その頬が少し赤いのが気になる。
「呼んでおいなんですが、体調大丈夫ですか?」
「……何の話だ?」
「頬が赤いですよ?熱があるのでは?」
そっとジルフォードの額に手を伸ばすと、彼はふいをつかれたのか、焦ったように立ち上がる。
「なっ……!何をするんだ!」
「え、熱をはかろうと思って」
「大丈夫に決まっているだろう!!お前が思っているほど病弱じゃない!」
「えー、でも…..」
ジルフォードの言葉に意を唱えようとしたら、ちょうどオーブンから音が鳴った。
「――あ、焼けたわ!」
慌ててミトンをはめて、オーブンからクッキーの乗った天板を取り出した。ふわりと香ばしい匂いが、キッチン中に広がる。クッキーを冷ます間に、手際よくアイスティー(まだ6歳だからノンカフェインだ!)を入れると、ジルフォードが感心したように手元を覗き込んでくる。
「はい、どうぞ! 感想もお願いします!」
余熱が取れたクッキーを2枚、お皿に乗せてジルフォードに差し出す。私も、自分の手元の同じものを用意した。
彼は、さっきまでのツンツンしたのから一転……頬をほころばせた。
「……ふん、お前の作ったものは食べる約束だからな。食べてやるよ」
そう言って一枚手に取ると、ぱくりと口に運んだ。
もぐもぐと、クッキーを噛む音がキッチンに響く。
私は、緊張しながらその様子を見守った。チョコレートのお菓子を作るのは、初めてだ。彼の感想次第で、これからの私のお菓子作りの方向性が決まる。
「……」
「ど、どう?」
しばらく黙り込んでいたジルフォードは、やがて、ぽつりと呟いた。
「……悪くない」
「ほんとに!?」
「ただ」
彼は、もう一枚クッキーに手を伸ばしながら、続けた。
「――甘さが、足りないな」
「え?」
まさか砂糖と塩を間違える、なんてベタなことしちゃった!?
慌てて私もクッキーを食べるが……うん??ちょうどいい甘さで美味しいんだけど。
「……甘さ、足りないですか?」
「圧倒的に足りない。チョコももっと入れた方がいい」
彼はアイスティーに手を伸ばすと、それを飲んで再度一言。
「これにも、蜂蜜を足してもいいな」
ジルフォードが、真剣な顔でいう。
(え?え?待って……こいつ、お助けキャラじゃないの?もしかして、ものすごい甘党??)
私の運命の人に向けた大きなる一歩は、踏み出せないかもしれない。
キッチンを包む沈黙に、私はどう対応すればいいのかわからなかった……。
ーーーーーー
夜、自室のベットに寝っ転がって、頭を整理していた。というか、ジルフォードの甘党説が衝撃すぎて、眠れない。
考えられるパターンはいくつかある。
その1:ジルフォードはお助けキャラでも何でもない。だから、甘党だし、料理のアドバイスも役に立たない(ついでに性格も悪い)
→(反論)でもあいつ、顔だっていいし、頭もいい。モブとは思えない存在感を放っているから、流石にヒロイン(私のことね!)と全く関係ないキャラだとは考えられない。よって、却下
その2:この世界のヒーローは、みんな甘党。ジルフォードは、私にそれを教えてくれるために存在するお助けキャラ
→(反論)いやいや、それはない!というか、甘党ヒーローしかいない世界とか嫌だし!どんな作品!?「甘々メモリアル〜あなたと私の甘ーいひととき〜」みたいなタイトル??ダサい!寒い!……非現実的だし、却下
その3:ジルフォードはお助けキャラだけど、料理担当お助けキャラだけ別にいる。だからジルフォードの料理アドバイスは役に立たない
→(反論)そんな面倒な設定に、普通しなくない?却下
その4:攻略キャラの1人、例えば、隠しキャラだけ甘党。そういう対策も含め、ジルフォードがやってくれている
→(反論)……思いつかない
「これだ!!」
私は叫んで、ベットから飛び起きた。ありうる!ありうるよ、これ!
であれば、ジルフォードのアドバイスにきちんと従おう!
明日は、めーっちゃくちゃ甘いクッキーを作ろう。私は硬く決意した。
それにーー
あいつは、キッチンに来た時は元気そうだけど、途中からほっぺたが赤かった。本人は否定してたけど、もしかして具合が悪かったのかもしれない。
それでも、わざわざ私のクッキーを食べるために、来てくれたんだ。
性格悪いと思っていたけど…..意外といいやつなのかもしれない。
そんなジルフォードのアドバイスには、きちんと向き合いたい。
無理して付き合ってくれたジルフォードに、美味しいものを食べさせたい。
だから!
「待っててねー!運命の人ー!私、がんばるよーー!」
大きな声で叫ぶと、扉がノックされた。
「リエラ様……もう、就寝の時間ですよ」
「……ごめんなさい。ジルフォードに食べさせるクッキーについて考えていたら、つい」
言い訳がましく謝ると、入ってきた侍女が、生暖かい目をしながら笑ってくれた。
「ノルトラント様に夢中になるのもわかりますが、ほどほどにしてくださいね」
「……わかっているわ、美容のためにも、しっかり寝ます!」
侍女が、そっと笑って、部屋を退出した。
よっし!明日も、頑張るぞー!




