第3話 やはり幼馴染は、攻略対象キャラではないようです
「『幼馴染キャラ』は退場、っと」
ペンを手に取り、「幼馴染」の文字にビーッと削除線を入れた。
このページには『将来の運命の人♡候補一覧』が記載されている。
「残るは……やっぱり王道の王子様と騎士、宰相の息子あたりよねー」
でもこれだけだと、3人しかいない。だとしたら、他に考えられるのは、第一王子と第二王子、とか?
あとは辺境伯の息子とか、か……?隠しキャラは、学園長とかなのかな……
うーん、と唸っていると、部屋の扉がノックされた。
「お嬢様、ノルトラント・ジルフォード様がいらっしゃいました」
「……え、なんで?」
思わず自分の耳を疑った。
応接間に降りていくと、そこには、神妙な顔をしたジルフォードが、行儀よく座っている。
「この前の、礼を言いに来た」
「え、幼馴染キャラはもう強制退場したんだけど」
「……お前、何の話をしているんだ?」
私とジルフォードの間に、謎の沈黙が生まれる。
(いや、性悪幼馴染は攻略対象にならないから)
喉元まで出かかって、ぐっと我慢。大きくため息をついて、ジルフォードの前にあるソファに座ることしか、私には出来なかった……。ジルフォードは、疑問な顔をしつつも、立派な包みを差し出した。
「うちの領地で取れる果物だ、礼として受け取れ」
「はぁ、ありがとうございます」
そっと包みを受け取ると、重い。
え、どれだけ詰め込んだわけ?思わず開けたくなるが、令嬢として我慢。あとで開封させていただくとしよう。そんなことより……
「これだけのためにわざわざ来たの?」
ちょっとした疑問を口にすると、彼は眦を釣り上げた。
「……僕が来たらまずいのか?」
「いや、普通に使者の方にお願いすればいいじゃない」
「お前が前に言ったんだろう、幼馴染になりなさい!と。勝負は僕の勝ちだが……仕方ないからお前の幼馴染になってやる。だから、これからもたまには屋敷に顔を出してやらんこともない」
ふん!という言葉が続きそうな雰囲気でジルフォードが顔を背ける。その耳が、赤く色づいている。
「ねぇ、耳赤いけど、体調大丈夫?……体、弱いんでしょ?」
一応心配して問いかけると、彼は心外だ!と言わんばかりに目を見開き、体をプルプルと震わせている。
え、大丈夫?倒れない?
「大丈夫に決まっているだろう!!バカにするな!」
「いや、バカにしてないし。森で倒れるくらい体弱いから、心配してあげただけじゃない」
「倒れてない!少し休憩していただけだ!!」
怒鳴って疲れたのか、ゼーゼー言っている。いや、病弱過ぎない?
ぎろり、とジルフォードがコチラを睨んでくる。
「というか、お前の体力のほうがありえない…..伯爵令嬢だろ?」
「私、体鍛えているの」
「それだけじゃない……勝負の時の、歌は秀逸だった。あれは、どこで学んでいるんだ?」
「家庭教師にみっちり勉強は教わってるわ。あとはぜんせ…..じゃなかった、天啓が降りてくる、みたいな?」」
ジルフォードは、少し考え込んで「お前、きちんと努力しているんだな」と呟く。
「そりゃあもちろん!将来のために、私は日々努力してますよ!!」
よくぞ気づいてくれました!えっへん!とばかりに胸を張ると、ジルフォードが目を細めてそっと笑った。
(おぉ……幼馴染キャラは強制退場だけど、この笑顔はイベントっぽいぞ。タイトルつけるなら「心を開いた一瞬」って感じね!)
思わず見惚れると、彼が続ける。
「勝手に勘違いして悪かった…..改めてコチラからも言うのが礼儀だな。アーヴィング嬢、いや……リエラ嬢。どうか、僕と友人になってほしい」
ジルフォードが立ち上がり、私に握手を求めてくる。その美貌に頭がポーッとして、ついその手を掴んでしまった。
「……あ、ミスった」
「ミスった?」
「いえ、なんでもありません…..今後も、ご近所のよしみで、たまには一緒に遊びましょう、ノルトラント様」
「ジルフォードで構わない……お前との勉強は、面白くなりそうだ。気兼ねなく、屋敷に遊びに来るがいい」
ジルフォードは神妙に頷くと「じゃあ、今日はこれで」と言って帰り支度を始める。
(あれ?……幼馴染キャラ、退場失敗?)
私は、この展開に、今更後悔するしかなかった……
ーーーーーー
だがしかし!後悔して終わる私ではない!
エプロンを首にかけ、ウエストできゅっとリボンを結ぶ。
今日は、急遽予定を変更して「ジャム作り」を開始します!
ジルフォードがくれたお礼の品は、ミックスベリーだった。
もちろんそのままでも食べるが、量がバカみたいに多い。
(こんな食べれるわけないじゃない。悪くなったら勿体無いし…..)
ヒロインとして料理は必須スキルだ。
汗をかくイケメンがいたら、タオルと一緒にスポドリを渡し、勉強に行き詰まっているイケメンがいたら、「糖分補給しましょう?」と首を傾け、手作りのクッキーを渡すのがヒロインの常識だ!
というわけで、今日は料理スキル強化デーよ!
「ジャムだったら、砂糖入れて煮詰めるだけだし、私でもできるわ!」
キッチンを借りるのに、周囲の反対がすごかったが、そこは、ウルウルとした目で「ノルトラント様からいただいたベリーを無駄にしたくないの」と言ったら、みなさん秒で落ちた。
さすがヒロイン顔!
鍋にベリーに水、砂糖、香り漬けのハーブを入れてコトコトと煮込む。
「うーん。いいにおーい!」
出来上がったジャムをスコーンと合わせるのもいいかもしれない。脚立に乗って、上の棚から小麦粉を探していると「庭からも甘い匂いがするぞ」と声がかかった。
「……うわっ!」
「大丈夫か!?」
びっくりして足場がぐらつくと、見知った金髪が私の体を支える。後ろを振り向くと……
「げ、また来たの?」
「……きたら悪いか」
いたのは、ジルフォードだった。彼が私をそっと持ち上げ、脚立からおろす。
だけど、病弱だから?なのか、腕が少し震えている。私が重いわけではない。多分……いや、絶対。
「ちょっと、もっと軽やかに運んでくれない?」
「仕方ないだろう、普通の子供にとって、10キロ以上のものは全て重いんだ」
「私はあなたをおんぶして、長時間歩いたけど」
ジルフォードが気まずそうにそっぽをむく。この軟弱者め。
まぁいいや、と思い、手にした小麦粉を作業台に置くと、彼もトコトコとついてくる。
「ねぇ、今料理中で忙しいんだけど」
相手をするのも面倒で、塩対応すると、なぜか彼はニヤニヤ笑っている。
「聞いたぞ、ミックスベリー、気に入ったんだって?」
「……ん??」
「メイド達が言ってたぞ。俺が渡したベリーを無駄にしたくない!と目に涙を浮かべて、シェフにキッチンを貸すよう懇願したらしいじゃないか」
絶句、とはまさにこのことである。
私は!料理スキルを上げたかっただけで、こいつにもらったのが嬉しいから料理をしてるわけじゃない!
「違う!!」
「照れるな、わかってる」
ジルフォードが、うんうん、と頷いているが、こいつは何もわかっていない!!
「だから違うってば!」
「そういうことにしておいてやる……これは、何を作ってるんだ?」
「ジャムよ。あと、スコーンをこれから作るの」
「それもお前がやるのか?……伯爵令嬢だろ?」
「別にいいでしょ。料理出来たら、便利じゃない」
「……必要ないだろ?」
「いつか、運命の人が現れたら、その人に手作りの料理を食べさせるって、決めてるの」
適当に答えているとジルフォードがまた耳を赤くした。こいつ、病弱すぎない?
「その運命の人、というのは……」
「まだ現れてないの。多分、学園で現れると思うのよねー。王子とか騎士とか宰相の息子とか……」
鍋をかき混ぜながら会話を続けていくと、だんだん隣の雰囲気が不穏になっていく。
「……なぜ学園で現れる、とわかる」
「だって私ヒロインだし。この世界には、大きな学園があるじゃない」
だいぶ煮詰まってきたなーと思っていると、彼が隣でため息をつく。
「そのジャムとスコーン、俺にもよこせ」
「はい?」
「俺が食べてやる」
「え、嫌だよ。メイドのみんなと食べるって決めたんだし……」
そう言いながらも、ピコーン!と私の乙女センサーが鳴った。
なぜ!忘れていたんだ!!
こいつが性悪とわかった瞬間、攻略キャラから退場してもらったが……もうひとつ、幼馴染キャラには王道のパターンがあるじゃないか!
それはつまり、ヒロインの協力者兼情報提供者!!
ヒロインが困っているときに、恋愛アドバイスをしてくれ、ヒロインのスキルが足りない時は、一緒に料理をして、彼の好むものを一緒に作り上げてくれる人。それがジルフォードだったのか!!!
ガッとジルフォードの手を掴み、真剣な顔で見つめる。
「……本当に?」
「リエラ、嬢……?どう、したんだ?」
「本当に私の作ったお菓子を食べてくれるのね?」
「あ、あぁ……いいぞ」
「これからもずーっと?……食べるだけじゃなくて、有意義なアドバイスもしてくれるのよね?」
ジルフォードがゴクリ、と喉を動かす。どんどんと、彼の顔が色づいていく。
「……俺は味には厳しいぞ」
彼がそっぽを向くが、いわゆる照れ隠しーーその言葉は、肯定だった。
「ありがとう!!本当に、ありがとう!!」
私のお礼にジルフォードは「……別に、礼を言われるほどのことじゃない」と小さく呟いた。
何と言うことだ!今まで冷たくしてごめんね。ジルフォード!
強制退場いただいた幼馴染キャラは、なんと恋愛協力者キャラだったらしい。
ありがとう、ジルフォード!末長くよろしくね!
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