第2話 バトル漫画ですか?いいえ、乙女ゲーム(仮)です!
ジルフォードと私の仁義なき戦いは、2番勝負!
先手はーー私の指定する勝負「詩・歌」だった。
(元日本人の私は、短歌に俳句、侘び寂びにも精通してるわ!ちょっと卑怯な気もするけど、楽勝ね!)
審判は、公平性を担保するため、ジルフォードの家庭教師にお願いした。お題に沿って、即興の詩や歌を作る。
この勝負、もらったわ!
「それでは、今回のお題は『花と風』にしましょう」
お題を出された瞬間、早押しクイズ並の速さで、私は手をあげた。
「早いですね。リエラ様、どうぞ」
「はい。
風吹けば
花は迷って 右左
風も迷えば
おあいこねーー」
髪を風にたなびかせ、はにかみながら言うと、先生は嬉しそうに口元をほころばせた。
「素晴らしいですね。花は風に翻弄されるものとして詠まれがちですが、リエラ様は『風も迷う』と返されましたか。遊び心がありながら、どこか愛らしい。思わず笑みがこぼれる歌ですね」
(よしっ! ウケた!)
恐れ入ったか!とジルフォードを振り返ると、彼は意表をつかれたような表情を見せた。表情が、少し柔らかい。
「どうですか?いい歌でしょう」
「…..悪くない、が…..風は迷わないだろう」
「情緒がないですね!そこは、風と花が仲良く迷子になるシーンでも想像してくださいよ」
私の言葉に、ジルフォードが吹き出した。ちょっと、失礼ね、ロマンチックじゃない。
「ジルフォード様はいかがですか?」
「はい、出来ました。
風は花を追い
花は風を誘う
触れては離れ、離れては寄り、
春はそっと微笑んだ」
姿勢を正し詩を読み上げる姿は、まさにヒーロー。しかも、うまい。情景が、ありありと思い浮かぶ……。
「ジルフォード様も、短い文字数でうまく表現されてて素晴らしいです。ですが今回は、機知や発想も問われる勝負。その点では、リエラ様の方が一歩上を行きましたね。この勝負ーーリエラ様を90点、ジルフォード様を80点とさせてください」
こうしてーー先手は私の勝利で収まった……のに、次の勝負がこんななんて、聞いてない!!
「次は、チェスで勝負をつけよう」
ジルフォードが指名してきたのは、まさかのボードゲームだった。
(こいつ、性格悪い……!!)
チェスは紳士の嗜みだ。いくら顔よし、頭よし、運動神経よし!な私でも、流石にチェスはルールをかじったくらいで、よくわからない。しかも……
「ちょっと!これ不公平じゃないですか!?チェスって勝ち負けしかないから、点数つかないじゃないですか!」
「だから、勝利したら100点、負ければ0点ということだろう」
「この勝負でチェスを持ち出すなんて卑怯では!?」
「最初の勝負設定をミスったな。僕の戦略勝ちだ。どうする?不戦敗にするか?」
「…..やりますよ!!」
盤上を睨めっこし、はや数分ーー完敗だった。
最初は互角に見えた盤面が、数手も立たないうちに変化した。逃げ場に駒を進めていくが、どれも……気づけば囲まれている。
「残念ですよ、アーヴィング嬢。これであなたとの接点もなくなる、と思うともう少し別れを惜しみたい気もしますが…..チェックメイト、ですね」
にっこりと、嫌味な笑顔で告げられたその一言に、私は肩を落とした。
(や、やられたーーー!!)
だが、この勝負で気付いたことがひとつある。
(いくらイケメンとはいえ……こんな性格悪いやつは絶対私のヒーローじゃない!いずれ現れるべき攻略キャラは、絶対こいつじゃない!!)
ーーーーーー
乙女ゲームのヒロインの心得その1が“根性“だとしたら、その2は間違いなく“切り替えの速さ“だ!
と言うわけで、私はイケメン×性悪キャラ・ジルフォードのことはキッパリと諦めることにし、新たなる運命のヒーローとの出会いを探していた。
(屋敷にこもってばっかりだと出会いも限られちゃうし、自ら動かないとよね!)
ここ数日いろいろなところを散策したわけだが……運命の出会いが全然ない!
街のカフェも広場も図書館もだめ、となれば…..次は裏山である。
(こういう神秘的な森での出会いも様式美よね!例えば……身分を隠して暮らす、訳ありの美少年とか!)
うんうん、と一人頷きながら、私は歩みを進める。
(典型的なパターンは、不義の子とか?王様の隠し子で、複雑な事情でこの森でひっそり暮らしているの!何も知らないヒロインは、木の実を分け合ったりして、その子の孤独を救っていき……その後、王位継承権にその王子と一緒に巻き込まれていく、みたいな……)
「きゃーー!!尊い……!!」
盛り上がりながら、両手で頬を押さえて身悶えていると、木々の隙間から、輝かんばかりの金色の髪がちらりと見えた。
(あ!!イケメンみっけ!)
座り込んでいるイケメンに、さりげなーく後ろから近づくと……
「「げっ」」
そこにいたのは、ジルフォード・ノルトラントだった。
「なぜノルトラント様が、こんな裏山に1人ひっそりといらっしゃるのですか?」
「……それはこちらのセリフだ」
微妙な間ができる。
が、今日の目的は運命の人探しであり、この性悪と関わっている時間はない。颯爽と別れを告げようじゃないか!
「まぁ、お互い色々ありますよね、それでは私はこれで」
そう言葉にして、少し考える。この人、確か病弱なんだよね?こんなところに1人いて大丈夫なの?
再度ちらり、と様子を伺えば、顔色が悪く少し呼吸が荒い。
「ちょっと、大丈夫!?」
「うるさい、気が散る。あっちに行け」
「そんなこと言って…..息切れしてるじゃない。屋敷の人、呼んでこようか?」
「余計なことはするな!!」
ジルフォードが、叫び声を上げる。
お互い、様子を伺うように沈黙するしかなかった。
「屋敷を、抜け出してきたの?」
「……少し、外をぶらつきたくなっただけだ」
その言葉で、私はピンと来た。
(はっはーん。病弱キャラお決まりの「僕だってまだやれるのに」「僕も健康になりたい」みたいなので屋敷を抜け出したのね。となると、ここでヒロインに出会うのがセオリーだけど……まぁ、こんな性悪にヒロインが現れるはずもなく、一人で途方に暮れてたってわけね!)
なーんて、ふざけている場合ではない。一応、ご近所のよしみで助けてあげよう。
すっと、ジルフォードの前に私は屈んだ。
「……なんだ?」
「おんぶしてあげる。屋敷の近くまで運んであげるから、そこからは自で出戻りなさいよ」
「じょ、冗談じゃない!女性に背負われるなんて……」
「でもあなた、1人じゃ戻れないでしょう?この森、夜になれば獣が出るわよ」
ジルフォードが黙り込み、おずおずと私の肩に手を伸ばした。
その手は、少し震えていて、冷たかった。
(結構、長い時間ここにいたのかもね……)
まだ6歳の少年だ。きっと心細かっただろう。
よっこいしょ、という掛け声で彼を持ち上げ、スタスタと歩き出す。
「……おい」
「何?」
「無理してないか、重いだろう」
「羽のように軽いから大丈夫よ」
ふっ!決まったぜ!と決め台詞に悦に浸りながら歩くと、彼が後ろで不満そうに声を上げる。
「僕が病弱だから、とバカにしているのか!」
「してないわよ。あなたがどうこう、じゃなくて、私が日頃から体力トレーニングをしっかりしているだけです」
とはいえ、私だって6歳だ。筋トレはまだ出来ないし、正直、ジルフォードは重い。
でも、それを相手に悟らせるのは、女が廃る!!と言うものだ。
今こそ、ヒロインの心得その1“根性“で、乗り切るしかない!
呼吸を整えながら、裏山を下ると後ろからぽつり、と声が聞こえる。
「悪かった」
「……何がですか?」
「男のケツを追いかけるしか脳がない無能、といって」
(え、そこまで言われてなくない?ケンカ売られてる?)
こいつもう置いてこうかな、と思っていると、ジルフォードが続けた。
「......あと勝負。卑怯な手を使った」
自覚はあるらしい。でも、わかっていて、あの勝負を挑んだと言うことはーー
「そんなに、私の存在は迷惑でしたか?」
「そうではない。ただ……誰も、信用出来なかっただけだ」
「やっぱり『誰も僕のことわかってくれない』系キャラだったんだ……」
「お前、何言ってんだ?」
ジルフォードのツッコミは無視して、私は自分の観察が当たっていたことに細く笑った。
これなら、運命の人もきっと探し出せるわ!!
そんな会話をしながら歩いていると、屋敷が近づいてきた。
(よかった、もう、腕も足も限界よ……)
後ろでは、ジルフォードが相変わらず具合悪そうにしている。悟らせるわけにはいけない。そのはずなのに、私の膝が、ガクンと大きく揺れた。
「うわっ……!」
「ーーっ!」
2人同時に倒れ込む。
「だ、大丈夫か!?」
ジルフォードが、倒れた私の顔を覗き込むようにして抱きかかえてくる。
(うわぁ……これ、ヒロインが恋に落ちる典型的シチュエーションだ!)
私がぼんやりしている間に、ジルフォードの心配は増していく。
「やはり、無理をしてたんじゃないか!」
「いや、うっかりですね……」
ジルフォードは、困った子を見るような目で私を見て……笑った。
「全く……無茶をして。とても、伯爵令嬢とは思えないな」
「ちょっと!助けてあげたんだから礼くらい言ってくれてもいいじゃない!」
「わかっている……ありがとう、アーヴィング嬢。以前の非礼もあらためてお詫びする……僕は、借りは返す主義だ、また気兼ねなく屋敷に来てほしい」
それは、彼から初めてもらったポジティブな言葉だった。
だけど、なー。うーん。
「気が向いたらね」
「な、何だと!?」
「私、性悪キャラ興味ないからさー、ちょっとあなたは違うっていうか……」
ジルフォードの肩がワナワナと震える。やはり、体調が悪いのだろうか。
「この僕にその態度……絶対、後悔させてやるからな」
「おぉ……悪役みたいなセリフ」
「いいか、リエラ・アーヴィング、この恩を返すまでは、お前のところに僕が通ってやる!感謝しろ!」
そういうと、ジルフォードは立ち上がり、スタスタと私を置いて自分の屋敷目指して歩き出してしまった。
え、何あれ。ツンデレ?
キャラ設定どうなってるわけ?
こうして、私とジルフォードは、無事幼馴染になる第一歩を歩んでしまったのである。
2人の作品、風はジルフォードで、花はリエラをイメージしてます。




