第1話 ついに現れたイケメン幼馴染!
「はじめまして、アーヴィング嬢。ジルフォード・ノルトラントと申します」
アメジストを思わせるような紫の瞳、まばゆく輝く金髪。
彼を見た瞬間、頭の中でファンファーレが鳴り響いた。
(幼馴染設定、来たーーー!!)
私、リエラ・アーヴィングは、いわゆる“転生者“だ。
ピンク色のウェーブした髪、アクアマリンを思わせる瞳ーーどの作品だか全くわからないが、間違いなく、何かのヒロインである。
転生に気づいて早3年…..まだ6歳の私は、可愛い・頭いい・運動神経抜群、の3拍子が揃っている、まさにヒロイン!だけど、足りないものがあった。それは、私を取り囲むヒーロー ……つまりイケメンの存在である。
「はじめまして、ノルトラント様。リエラ・アーヴィングですわ」
(ずーっと待ち望んでいた攻略対象!ついに、現れたのね!)
心の声とは裏腹に、精一杯、可愛らしく自己紹介すると、ジルフォード様が、紳士的な笑みを浮かべた。
イケメンだけどーー身体が、病的に細い。
隣にいる彼のお父様が、私に声をかける。
「リエラ嬢、どうか息子と仲良くしてくれないか?この子は病弱でね、ついこの間まで、領地で療養していたんだ…..ようやく、王都で過ごせるようになったが、まだわからないことばかりだし、友人もいない。家が近いよしみで、ぜひ気にかけてくれ」
「もちろんです! 」
(病弱設定幼馴染、ね。了解!任せて!)
心の中でサムズアップしながら、嬉しそうにはにかむ。
ジルフォードは、紳士的に私に微笑んでくれるがーーその目は、笑っていなかった。
(クールな幼馴染設定かしら?これ、心開いたら絶対溺愛してくれるパターンじゃん!)
私の脳内では、ファンファーレにとどまらず、天使が舞い始めていた。
この3年、死に物狂いで努力して、ヒロインレベルをしっかり上げた私の人生はこれから始まるんだーー!
「よろしくお願いします、どうぞ、私のことはリエラとお呼びください」
「ありがとうございます、アーヴィング嬢」
(あ、クールな幼馴染改め、ツンデレ幼馴染なのかしら?こっちの言うことを聞いてくれない。心も開いてくれない!)
負けじと、彼が名前を呼んでくれないことに気づかないフリをして続ける。
「よければ、一緒に庭園を散歩しませんか?いい運動にもなりますし、うちの庭は、他の貴族の方からも評判がいいんですよ」
「すみません、アーヴィング嬢。僕、病弱なんです……と言うわけで、体調もすぐれませんし、失礼します」
そういうと、彼は父親が制止するのも気にせず、スタスタと帰ってしまった。
(な、な、な、何あれ〜〜〜〜〜〜〜!!!!)
これが、いずれ私を取り巻くはずのイケメン・ジルフォードとの出会いだった。
ーーーーーー
乙女ゲーム(仮。恋愛小説かもしれない)のヒロイン(これも仮。でも見た目的に私は絶対ヒロイン!)に転生したからには、それらしい振る舞いをするべきである。
それらしい振る舞い、とはつまり……ネバーギブアップ!!
私は知っている。
乙女ゲームのヒロインは、可愛らしい見た目とは反転、中身は、ど根性に塗れた女である。
クールなキャラに冷たくされても、気づいてないように無邪気にかわし、熱血スポコン男が現れれば、一緒にダンクシュートを決め、ガリ勉男が現れれば、額に鉢巻を巻いて一緒に猛勉強するのである。
つまり、ツンデレ幼馴染へのアプローチはただひとつ!
おして、おして、おしまくるのよ〜〜!
と言うことで……
「ノルトラント様ー!あーそーびーまーしょー!!」
最近は、執事さんのガードも固くなってきたが、私はそんなの気にしない!だって、この世界のヒロインだからね!
執事さんの「本日は、ジルフォード様の体調がすぐれないようで、お引き取りを……」という言葉を無視して、華麗に彼の横を通り抜ける。これは、不法侵入ではない!将来のロマンに向けた第一歩である!
そして、庭に彼を見つける。
花々を囲むベンチで、気だるげに難しそうな本を読んでいる。だが、彼の顔色は確かにすぐれない。
(おぉー!!絵に描いたような病弱イケメンキャラだ!)
彼は私に気がつくと「げっ」と小声で言った(ヒロインは地獄耳なのだ!)
「ごきげんよう、ノルトラント様。本日も、いいお天気ですわね」
「ごきげんよう、アーヴィング嬢。仰る通りですね……僕は病弱なので家から出れませんが、こんないい日は遠乗りをしたくなりますね、ぜひ、されてきてはいかがですか?」
2人の間に、火花が散る。恋の戦いのゴングは、今鳴り響いた。
「あら、リエラと呼んでください、と言ったじゃないですか」
「あなたのように美しい令嬢のお名前を呼ぶなど……もったいなくて僕には出来ません」
「まぁ!せっかく近所に住んでる縁ですわ!そんなの気にせず、仲良くしてください!」
互いに無邪気なふりをして言葉のラリーを続ける……が、この男、なかなか手強いのである。
何日かの考察だと、ジルフォードという男は『人間不信のクールキャラ』だ。
だから、それをどうにか打破し私は信頼されないといけない。
(でもわかる!わかるよ!これだけイケメンで公爵家の一人息子だったら、きっといろんな女が色目を使ってくるんでしょう!)
(どうせ、俺のことなんて誰も見てない……、とか落ち込んで、そこに、自分を見てくれるヒロインが現れ、この人は恋に落ちるのよ!)
(それはつまり私!私が、あなた自身のことを知ってあげるわ!!)
そう思って、カッと目を見開き、ジルフォードを見る。彼の紫色の透き通った瞳と、目が合った。
「ま、眩しい……!」
「何がでしょう?」
「あなたのその瞳です!キラキラしていて、こんな天気のいい日に見つめられたら、思わず眩しくてくらっと来ちゃいますね!」
彼は目を見開き、少し笑った。
「……頭、大丈夫ですか?」
「あら、今は目の話をしているんですよ!レディの話をよく聞くのは、紳士の嗜みなのに……」
私の言葉に「あ、こいつバカなんだ」と言う顔をされた気がするが、きっと気のせいだ。うん。
「なぜ、僕に構うのですか?僕が公爵家の一人息子だから、と婚約を目論んでいるつもりかもしれませんが……僕はあなたのような女性には、絶対に靡きませんよ」
「……私のような女、というと?」
「僕の見た目と身分に夢を見ている女性、と言うことです」
ジルフォードが冷めた目でいうのを聞いて、私のゲームセンサーが「ピコン」と鳴った。
(きたー!『誰も僕のことを理解してくれない』設定だー!)
イベント進行の早さに喜んでいると、彼は怪訝そうに「聞いてますか?」と聞いてくる。
「もちろん!でも、私は、あなた自身のことを知りたいと思っています!」
「……僕は、あなたに知って欲しいと思ってないで結構です」
「大丈夫!そう思っているのも今だけです。あなたは絶対、私に心開きますよ!」
「……うるさい女だな」
私の言葉に、ついにジルフォードが舌打ちを鳴らした。おぉ!二重人格設定!ここから、イベントの真骨頂が始まるのね!
「あら、今舌打ちしました?」
「……父上が仲良くしとけ、と言うから優しくしてやったら調子に乗って。わかりやすく言ってやろう。俺はお前みたいな頭がお花畑で男のケツを毎日追っているような女が嫌い何だよ」
「じゃあ、どういう人が好きなのですか?」
「そうだな、思慮深くて自己研鑽を怠らない…..お前と正反対な女かな」
その言葉に、ちょっとカチンときた。
思慮深いはともかく、私はヒロインとして自己研鑽には余念がない。それなのに、ただの人間不信幼馴染設定キャラーーいや、病弱だからって、ウジウジしている男に、ここまで言われるのは腹たつ!
「……わかったわ」
「ならよかった、お引き取りください」
「……そこまで言うなら、勝負よ!!」
「……は?」
「あなたが得意なものと、私の得意なもの、その2つの総合点でどちらが上か勝負しようじゃない!!」
ジルフォードの口が引き攣る。何言ってるんだ?と問われたから、再度言ってやる。
「あなた、私に負けるのが怖くて、逃げているのですね!」
「…..何だと?」
「違うなら、私と勝負しなさい!あなたが勝てば、あなたと今後、最低限の関係しか持たないと約束するわ。ただし、私が勝ったら…..大人しく、私と幼馴染になりなさーい!!」
私の大声が、庭中にこだまする。ノストラント家の人々が、その叫び声に釣られてゾロゾロと集まってきた。
(ギャラリーもたくさん。これぞ、ヒロイン!完璧よ!)
こうして、私とジルフォードの、勝負のゴングが鳴り響いたのである。
続きは明日、投稿予定です。よろしければ、ブクマ登録おねがいします!
なお本作は、前作「転生令嬢、卒業パーティーで運命の告白を待っていたら、毒舌幼馴染しか隣にいませんでした」の2人を幼少期から描いたものになります。コチラもご興味あればぜひご覧ください!




