第13話 友達が病気なので、ヒロイン活動はお休みします
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木剣がぶつかり合う音が、庭に響く。
「っはぁ……!」
「くっ……」
ジルの木剣が、私の一撃を受け止めきれずに軽く弾かれた。だいぶ私も腕を上げたわね!ジルを押し始めたわ!
「……君たちはすごいな」
見学していたシャルナーク様が、感心したように声をあげる。
「そんな、この程度のことで…..恥ずかしいです」
私はわざとらしく頬に手を当てて俯く。ヒロインって感じでしょう?
「……こいつ、女とは思えない腕力だからな。シャルも手合わせするなら、気をつけた方がいいぞ」
「ちょっと!言い方!私の日々の努力の賜物でしょが!っていうか、ジルが貧弱なのよ!」
「俺のどこが貧弱だ!最近は体力も腕力もついてきてるだろうが!同世代と変わらないぞ!」
「でも最近、私に抜かされ始めてるじゃない!」
「……だからそれはお前がおかしいんだろうが」
いつものやり取りに、シャルナーク様が苦笑している。
「……2人は本当に仲がいいね」
「え、そんなことないですよ……?」
「アーヴィング嬢は、ジルフォードと一緒の時が一番楽しそうだよ……ところで、リュクス嬢は今日は来ないのか?」
「そういえば、マリア遅いですね」
いつもならとっくに顔を出している時間なのに、今日はマリアの姿が見えない。ジルを見ると、彼も不思議そうな顔をしていた。
「そのうち来るだろう、一回休憩にしないか」
「そうね、じゃあ、今日は私特製ドリンクを飲んでみない?運動後に効果抜群!ビタミンとミネラル、塩分たっぷりよ」
「……アーヴィング嬢は、ドリンクまで作るのか……」
「はい、淑女の嗜みですわ」
私は、ヒロインさながらの笑みでシャルナーク様に微笑んだ。ふっ!これでまた、好感度アップね!
心の中で頷いていると、後ろから「バーカ」という悪口が聞こえる。
「ちょっと、ジル!誰がバカよ!」
「お前だ、間抜け。淑女ってのは、マリア嬢みたいなのを言うんだよ」
「……そうだね、リュクス嬢は淑女の鏡のような方だと思うよ」
あれ?シャルナーク様がマリアに思いを馳せてるんだけど、なんで?ヒロイン、私ですからね?
いまいち納得はいかないが、とりあえずドリンクの準備をする。手元で材料をまぜなら、さりげなくシャルナーク様に質問を投げかけた。
「ところで、スペンサー様はなぜ騎士を目指しているのですか?」
「僕は宰相の息子だろう?だから、周囲もそれを継ぐことを期待しているが、宰相がそんなに素晴らしい役目だと思えないんだ」
「と、言いますと?」
「父上がやっていることは、結局政治を円滑に回すための根回しや謀略……くだらないと思わないかい?それでは、大切な人は誰も守れない。僕は、守りたい人ができた時、直接それを守れるようになりたいんだ。だから、知識より力が欲しい」
シャルナーク様が空を見上げる様が美しい。その守りたい人って、つまり私ですね!わかります!!
「素晴らしいですわ、スペンサー様!応援してます!!」
「そ、そうかな!?」
「はい!ジルもそう思うでしょ!」
ジルを振り返ると、彼は微妙な顔をしていた。何よ、何が不満なわけ?
「どうかな」
「ジルは、公爵家を継ぐんだろう?君は勤勉だし、僕のこの考えを、逃げだと思うか?」
「……逃げとは思わないが、視野が……。大切な人を守りたいなら、知識も力も、大事だと俺は思う。直接的にしか守れないのは、危ういぞ」
ジルの言葉が、私の心に沁みた。何よ、ジル。お助けキャラなのに、すごいいいこと言うじゃない。
シャルナーク様も、少し戸惑うように瞳が揺れている。なんか、変な空気になっちゃったわね。
誤魔化すように手元の作業を進めると、侍女が手紙を持ってやってきた。マリアからだ。急いで封を開けると、あら大変!マリアは具合が悪いらしい!!
「ジル!!私特製ドリンクは今日は振る舞えないわ!ごめん!!」
「……別に期待してないが、何かあったのか?」
「マリアが寝込んでいるみたい。心配だから、今日は訓練と勉強はここまでにしましょう、私、お見舞い行ってくるわ」
急いで木剣の片付けをしていると、シャルナーク様が「僕もいく!」と声をあげる。
「え、でも男性が訪問するのは流石に……」
「お前だって、友人だけどリュクス家と懇意なわけではないだろう。俺は親戚だからな、4人でいくぞ。急いで先ぶれを出しておけ。馬車はうちで用意する」
「了解!」
友情活動の方がヒロイン活動より大事だからね!今日のヒロインに向けたスキルアップはここまでよ!
ーーーーーー
「マリアー!!大丈夫!?お願い、死なないでーー!!」
私がマリアの部屋に飛び込むと、マリアはベッドに横になっていた。私の後ろには、ジルとシャルナーク様がいる。
「……ちょっと、勝手に殺さないでよ」
「顔色悪い!線も細い!大変!!」
「線が細いのは、体型キープしてるからよ……さっきお医者様が来たわ。体のいろんなところに蕁麻疹が出て……ストレスですって」
「ストレス溜まってるの!?何か大変なことある!?相談乗るよ!?」
「……お前と関わるようになったのがストレスなんじゃないか?」
「ちょっと!そんなわけないでしょう!私とマリアは親友よ!ね!?」
「そうですわ、ジルフォード様。私にリエラを取られて面白くないからって、引き離そうとしないでください」
「あー、はいはい、すみませんね、2人が仲良さそうで何よりだよ」
面倒そうに言いながらも、ジルはテキパキとリュクス家の侍女に細かい指示を出している。さすがサポートキャラ!気がきくわ。侍女が来客用の椅子と茶菓子を部屋に用意してくれた。
「うわ〜、美味しそう」
「ちょっと、リエラ。私のお見舞いに来てくれたんじゃないの?」
「あ、そうだった。お菓子が美味しそうでつい」
「全く……仕方ない子ね」
マリアが苦笑いしているが、その瞳が楽しげなの、私はわかってますからね!
マリアの容態が蕁麻疹で安心したのか、ジルとシャルナーク様も、少しリラックスしている。
「みんなで食べよう〜、桃のタルト、美味しそうね!なかなか手に入らないけど、リュクス家は領地で栽培しているの?」
「いえ、先日たまたま来客があって、いただいたの。すぐに痛む果物ですし、生で食べれるのは貴重よね」
みんなで出てきたタルトをいただくが、香り豊かで、ジューシーで、とっても美味しい。ちらり、とみんなを見れば、ジル以外は幸せそうに顔を綻ばせている。ジルは普通の顔をしているが、わかるぞ、ジル。甘さが足りないって思ってるんでしょう!でも、このフルーツタルトに砂糖を足すのはNGよ!
紅茶をいただきながら、今日の訓練の話をマリアにすると、マリアは楽しそうにそれを聞いてくれる。いつもの4人の空気にホッとする。
「まぁ!リエラに負けるなんて、ジルフォード様、男性としてまずいのではなくて?」
「こいつが怪力なんだ、俺は弱くない」
「頼りないわね」
「…..リュクス嬢は、やはり強い男性が好きなのか?」
話が気づけばマリアの好みのタイプに移るが、マリアはそれを「いえ、最低限護身術程度は、と思いますが、そこまで力に興味はないです」と一刀両断する。「どちらかといえば、私は知的な男性のほうが好きですね」と呟くと、だんだんシャルナーク様の元気がなくなっていく。おかしいな、今日はマリアのお見舞いに来たんだけど。
そんな話をしながらも、マリアが喉のあたりを何度も撫でる。次第に、彼女の喉が赤く色づき始めた。
「ねぇ、マリア。喉大丈夫?痛いの?」
「まぁ!すみません、はしたないですね……少し、痒くて。無意識に触ってました」
「いや、そんな気を使ってくれなくていいんだけど……」
そう言いながらも喉元を見れば、だんだんと、発疹が浮き上がってくる。
……蕁麻疹だ。
ちらり、とジルを見ると彼も気付いたようで、マリアの喉と、袖口から除く手元を見ていた。シャルナーク様は、美味しそうに桃のタルトを頬張っている。大人びた顔の男性が、頬をほころばせているの素敵!!でも、今はそれどころではない。
マリアの蕁麻疹は、ストレスじゃないかもしれない。
「ねぇ、ジルとマリアって親戚なんでしょ?ジルは体調悪くないの?」
「俺は大丈夫だが……お前にしては、勘が冴えてるじゃないか。家系的には、バラ科、ヒットする人間もいるぞ」
「ヒロインってのは、天啓が降りるように出来てるの!……であれば、可能性あるわね」
2人でこそこそ話していると、マリアが苦しそうに目を閉じている。体が痒くて仕方なさそうだ。
「……みなさん、ごめんなさい。まだ体調すぐれないみたい。本日はもうお帰りいただいて……」
「その前にマリア、教えて欲しいんだけど、昨日も桃を食べた?」
「……何よ、今それどころじゃないんだけど。食べたわ」
「今までも何度か、食べたことある?」
「あるわよ」
私が黙り込むのを、ジルが引き継ぐ。
「普段食べるのは、生でなのか?」
「ジルフォード様まで何ですか?欲しいのなら、まだ余ってるから差し上げますよ」
「真面目に答えろ」
「…..いちいち覚えてないけど、生を食べることはなかなかないわ。貴重な果物じゃない」
その言葉に、私とジルは顔を見合わせる。
確信はない。だけど、マリアはきっと、桃アレルギーだ。
話についていけないシャルナーク様が、そんな私たちを見て、置いて行かれた子供のような瞳をしていたのを、その時の私は気づかなかった。
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