第14話 幼馴染とケンカしました
あの後、医者を呼び、マリアを診てもらったところ、やはり桃アレルギーだった。
加熱すれば大丈夫だが、今回は生のものを大量に食べたのが良くなかった、と言うことらしい。
「やっぱりアレルギーかー。早めに気づけてよかったね」
「リュクス伯爵も、その話を聞いてお前に感謝してたぞ」
「あー、マリアのお父さんね。今度お礼送ってくれるんだって。楽しみ!」
今日はみんなとの勉強会も訓練もなし。普段の勉学とトレーニングのみだから、余裕がある。ジルとお茶をのんびり楽しんでいるが、いつも4人でワイワイやっていたから、ちょっと寂しい。
「……マリアとスペンサー様、元気かなぁ?」
「シャルはあのお見舞いから顔をこっちにも出さないからな」
「どうしちゃったんだろう?まさか!マリアは実はアレルギーじゃないすごい病気で、それがスペンサー様に移った!?大変!お見舞いに行かなきゃ!!」
私が立ち上がって走り出そうとするのを、ジルが首根っこを掴んで止める。こいつは私を、もう少しレディ扱いした方がいいと思う!!というか、顔はいいんだから、もう少し紳士的な振る舞いを覚えろ!!
「マリア嬢はもう元気だし心配するな。シャルのことも心当たりはある、大丈夫だ」
「え!?心当たりって、何!?」
「……ショックだったんだろ?マリア嬢が体調を崩している時に、何も気づけなかった自分が」
「そんなの、わからなくて当たり前じゃない。スペンサー様はお医者様じゃないんだから」
「だけど、お前と俺は気づけた」
「そりゃ……」
私は前世の知識もあるし、ジルは親戚だから、家系から遡って考えただけ。本当にたまたまだ。
「あいつ言ってただろ、大事な人を守るために力を付けたいって」
「言ってたわね!素敵!」
「だけど、力だけじゃダメだって、今回思い知ったんじゃないか?あいつが見下していた知識ってのは、思ったより役立つ、ってことだよ」
ジルはいいことを言いながらも、激甘ケーキにフォークを刺している。台無しだ。この前の桃のタルト、甘さが足りなかったのね……
「そういうもの?」
「男ってのは、単純なんだよ。自分がヒーローでありたいって、思うもんなの」
「あら、だったら心配ないわよ。ヒロインはここにいるんだから」
ジルが私を見て、また大きなため息をついた。
わかるわ、2人きりだと、寂しいわよね!
ーーーーーー
それからも、しばらくシャルナーク様は屋敷に来てくれなかった。手紙を出しても「心配ありがとう。少し考えたいこととやりたいことがあって、落ち着いたらまた伺わせてもらう」としか書かれてない。寂しい!!だけど、それでへこたれる私ではない!ヒロインの時間は限られてるのだ!!
「ということで、今週はピアノ強化週間とします!」
「なにがどういうわけでそうなった」
我が家に遊びに来てくれたのは、今日もジルだけだ。暇なの?とも思ったが、お助けキャラだからね!私を助ける運命に従ってるの、わかってるわよ!
「宮廷音楽家の息子で顔がいい人いるんでしょ?出会いに備えないと!」
「......きっかけはなんであれ、いいんじゃないか?お前、ピアノとダンス苦手だもんな」
「ぐっ......!人が気にしていることを!!」
そうなのだ。ダンスは淑女の嗜みなのでレッスンも増やして人並みちょい上、に頑張って持ってきてるが、ピアノは実は、壊滅的だ。
「楽譜は読めるのに、なぜか弾けないんだよー」
「なんで楽譜読めて弾けないのか俺には理解できない」
「でた!天才キャラか!イケメンか!イケメンだった!!」
「なぁ、それほんとなんなの?」
ジルがイケメンを気にしているが、今はそれどころではない。ピアノだ!
「ジルー!私のピアノ聴いてよー!」
「聴いてやるから、楽譜通り弾けよ!?」
「う、うん......」
譜面台に楽譜を置き、椅子に座って浅く深呼吸をする。最初の音に指を運び、そっと音楽を奏でたーー
「そこ違う!スラーついてるだろ!音を繋げろ!跳ねたリズムに勝手にすんな!!」
「だって!音が跳ねたほうがこの曲は可愛いよ!?」
「これはゆったりした曲なんだよ、この間抜け!!」
......開始早々、不発。
というか、ジル口うるさいんだけど。じとり、と彼を見ると、向こうはこっちを睨んでる。あら、イケメンの睨みって、ちょっとドキッとするわね。
「な、なによ......」
「楽譜!通りに!ひけ!!」
「むー。じゃあジルがお手本見せてよ」
椅子を譲ると、ジルは仕方なさそうにため息をつき(こいつほんと、ため息多いな!)ピアノの前に座った。
ふふん!私このパターン、知ってるからね!お菓子試食してくれた時と一緒で、意外とジル、きっと音痴だったり、ピアノ下手だったりするんだから!見てなさい!......と、思ってたんだけど。
「うっま!!」
私の叫びを無視して、ジルは緩やかに指を鍵盤に運んでいく。えー。なんか、こいつが音楽家の息子って言われても違和感のない出来すぎ感が、ちょっと腹立つんですけど。
ポーン、と最後の音が部屋に響き、静寂に満ちた。ジルが、弾き終わった達成感で細く笑いながら、こちらを振り返る。
「こう弾くんだよ、わかったか?」
「く……悔しい……!!ジルのくせにピアノが上手なんて反則だ!」
「……俺にそんなこと言うの、お前くらいだからな?俺、基本器用なんだよ、優秀なの」
「し、知ってるもん!!でも、ジルに負けるのは悔しい!!」
むーっと膨れていると、ジルが吹き出した。なんて失礼な男なんだ!
「ぷっ!お前って、ほんと負けず嫌いだよな」
「当然でしょ!ヒロインは、全てのスペックが最高ランク、と決まっていのよ!」
「じゃあ、俺が見ててやるから、練習しろよ」
ジルが、優しげな瞳でコチラを見てくる。
あれ?なんかイベントっぽいんだけど。お助けキャラなのに、おかしいな?
まぁ、いいや。ちょっと、2人でのピアノ練習会、楽しそうだし!
「いいわ!やってみる!」
「お前、なんでそんな偉そう何だよ」
2人で顔を見合わせて、再度笑った。うん、たまには2人きりで過ごすのも悪くない!!
……なーんて、思っていたときが、私にもありました。
「だから、違うって言ってんだろうが!音に無駄に強弱つけるな!」
「ここはガーっと盛り上げてから、しっとりの方が美しいでしょうが!」
「だからそういう曲じゃないんだよ!!」
ジルが私の頭を何度もチョップしてくる。ジルとピアノの練習を始めて4日目。あんまり、上達しないんだけど……。
「あー!もう、今日はこれでおしまい!午後からマリアとスペンサー様が久々に来るんだから、準備しなきゃ!」
「ピアノ舐めんなよ、バカ女。ここまで弾き切らないと、休憩認めないからな」
そう言って、ジルが楽譜をペラペラとめくっていく。何ページ、やらせるつもりだ!
「この鬼!スパルタ!!」
「お前には言われたくない!!お前だって、体鍛える時はスパルタだろうが!!」
「あれはジルが貧弱なだけでしょう!?」
「それを言うなら、お前の音楽センスが壊滅的なだけだろうが!?」
2人で怒鳴り合い、ゼーハーする。息が、キレるぜ…..。
「うえーん。早く、イケメンスペンサー様に会いたいよー。私の癒し〜」
私の泣き言に、ジルのコメカミが引き攣る。
「お前、こっちが面倒見てやっているってのに、いい度胸だな」
あ、なんかまずい。怒らせた。しかもこれ、100%私が悪いやつだ。
わかっているのに、なぜかジルには、素直に謝れない。
「だって、あんたの教え方雑なんだもん!」
「お前が言うな!お前のシャルへの勉強の教え方、なんだあれ!」
どんどん口論がヒートアップしていく。まずい、まずいぞ。わかっているのに、自分の口が止まらない。
「もう!私1人で練習するし!何なら、マリアとかスペンサー様に教わるもん!ジルなんて知らない!」
「……あぁ!そうかよ、勝手にしろ!!」
ジルが、大股で部屋を出ていく。扉が、乱暴に閉まる音が鳴り響いた。
……やってしまった。なぜか、お助けキャラとの喧嘩イベントを発生させてしまったぜ⭐︎
なんて、ふざけている場合ではない。
ジルを、怒らせてしまった。




