第11話 ヒロイン活動、始めました
「……あの、大丈夫ですか?」
黒髪の彼ーージルいわくシャルナーク・スペンサーが話しかけてきた。
ここから、私の運命は変わる!最初の一言は大切にしないと!
「……はい、すみません。本に囲まれてうっとりしてしまって……つい、足元が疎かになってしまいましたわ」
「……そうですか、本がお好きなんですね」
「はい!あなた様も、本がお好きなようですね。私、リエラ・アーヴィングと申します。お名前をお伺いしても……?」
右手をそっと握り、顎から5センチ下のところにそっと添える。少し目線を下げて、恥ずかしそうに言うと、シャルナーク(仮)が息を呑む気配を感じた。
「っアーヴィング家って、ジルフォードの……」
「ジル、ですか……?」
名前を聞いたはずなのにおかしいなぁ!ジルの名前が出てくるんですけど!!
思わず目線を彼に戻すと、私と目が合って恥ずかしいのか、彼は慌て出した。照れ屋さんキャラ、素敵よ!!
「……失礼、お名前を伺ったことがあってつい……私は、シャルナーク・スペンサーだ」
「まぁ!スペンサー家といえば、宰相様の……!」
まぁ知ってたけどね!今知りました、のていで言うと、シャルナーク様が困ったように笑った。
「……おい、リエラ。いつまで図書館の床に這いつくばってるんだ」
「ジルフォード、君もいたのか、さすがだな」
「……久しぶりだな、シャル」
ジルとマリアが私の方にやってくる。シャルナーク様はジルフォードと……マリアをみて、目を見張った。
「……あ、っと。そちらの女性は?」
「マリア・リュクスと申します。父が、スペンサー様に大変お世話になっておりますわ」
「あ、あぁ…..そうなのか。こちらこそ、父が世話になっている」
マリアとの会話は盛り上がらないのか、シャルナーク様は彼女から私に、視線をそらした。
彼の顔が、マリアとの会話後、急に赤く色づき始める。私をみて顔を赤くするなんて、この正直ものめ!仕方ないわ、私、ヒロインですから!!
「お前 、いいから立てよ」
ジルが、転んだままの私を引っ張り上げてくれるが、もう!余計なことを!それをやるのはイケメン・ヒーロー!シャルナーク様の役回りなのに!お助けキャラなのにわかってないわね。
「あー……ありがとう」
「俺、今おまえが考えていることが手に取るようにわかる気がする」
「奇遇ですね、ジルフォード様。私もです」
ジルとマリアが仕方ないものを見るような目で私を見てくるが、わかっているなら、しっかり立ち回ってほしい。まぁ、気を取り直そう。
「私、王立図書館にはよく来るのですが……スペンサー様もよくコチラに?」
「そうですね、3年後に学園に入学をするでしょう?その前に、しっかり勉強をしておかないと」
「まぁ!さすが、ご立派ですね!!」
にっこりと笑うと、またシャルナーク様が困ったように笑った。
あ、これ、やらかしたかも?
「えっと……何を勉強なさっているのですか?」
彼のノートを覗き込むと……割とスカスカだ。問題を解いた跡もあるが、丸が少ない……。教科書を見ると、そちらも、小難しい教科書ではあるが、(偏見まみれだが)宰相の息子が読むにしては低レベルな内容だ……というか、私それもう読み終えたし。
「……私は、勉強が好きではなくてね。身が入らないんだよ」
私の雰囲気を察知したのか、シャルナーク様がそっと呟く。
「……宰相様は厳しい方だとお聞きしています」
マリアの小さなつぶやきに、シャルナーク様は小さく頷いた。
「……私は、体を動かす方が好きでね。それでも、父に認められるよう、家庭教師がいる日は家で、それ以外は図書館で勉強しているが、まぁこのざま、と言うわけだ」
シャルナーク様が寂しそうに微笑んでいる姿が美しい。これぞ、悲劇のヒーロー!
であれば、ヒロインとして私のやるべきことは決まっている。
「……スペンサー様」
「なんでしょう?」
「よければ、これからは私と勉強しましょう!」
「……と、言いますと?」
「私、勉強得意なんです!隣にいるジルとマリアもですわ。せっかくなら、みんなで助け合えば、きっと楽しく成績をあげられます、いい案だとおもいませんか!?」
私の名案に、シャルナーク様は驚いたような顔をして、小さく笑った。
「……私は、落ちこぼれだ。私と一緒にいても、きっといいことはないよ」
「そんなことありません!お互いに切磋琢磨し合いましょう!」
私に圧倒されて、シャルナーク様はマリアの方を見た。彼女が「ぜひ、お願いします」と微笑むと、シャルナーク様が頷いてくれた。
「……ジルフォードも、付き合ってくれるのか?」
「……この3人で教師役ができるのは俺しかいないからな、やってやるよ」
「ちょっと!どういう意味よ!私、頭いいわよ!」
「知ってるけど、お前感覚派だろ?ぜっったい、人に教えるの無理。しかも、マリア嬢はタチ悪いから、そんなリエラを楽しそうに見てるだけに決まっている」
「……ジルフォード様って、屁理屈つけるのほんと上手ですよね。単に、のけものにされたくないだけのくせに」
「黙れ、マリア嬢」
こうして、勉強会が開催されることとなった。
ーーーーーー
「いいですか?スペンサー様。数学は、可能ならまず文章を音読します。そうすると、読んでいて、数字がどう解いて欲しいのか、語りかけてくるんです。あとは、それに任せて数式を書けば、万事解決です」
「…..頭のいい人って、そうやって数学を解くものなのか?ジルフォード」
「そんなわけないだろ……リエラ、お前はもう黙ってろ。シャルには俺が教える」
「何言ってんのよ、ジル!色々定理を覚えるより、数字の声に耳を傾けた方が、効率的でしょうがーー!!」
「普通の人間には、そんなの聞こえないんだよ、この間抜け!」
ジルが数学の教科書を私に投げつけてくる。なんて男だ!!紳士的なスペンサー様を見習え!!
「……マリア〜。ジルがいじめるよ〜〜」
「まぁ、リエラったら可哀想に。ジルフォード様は、ひどい男ですね」
「そうだよね!?そうだよね!?」
「えぇ、リエラは、あんな男に引っ掛かったらだめよ」
「あ、それはないから大丈夫」
「……リエラ、急に真顔にならないで。面白いから」
4人の勉強会もはや2週間。だんだんと、スペンサー様との距離感もわかってきて、面白くなってきた。
スペンサー様は、勉強の効率が悪い。教科書をしっかり読んで、完全に理解しないと問題に取り組めないタチのようだが、問題を解くことで理解が深まることもある。だから、それを特訓しているのだが……私の素晴らしいアドバイスを、ジルが否定するせいで、全く進まない!!
「……君たち3人はすごいな、僕はとても、そのレベルに到達出来そうにない」
「そんなことないです、スペンサー様!一緒に頑張りましょう!!」
私がガッツポーズを決めると、シャルナーク様は教科書をパタンと閉じて、窓の外を見た。
「……ありがとう、アーヴィング嬢。でも僕は、君たちとは違う。僕は、みんなが一度聞けばわかることを、何回も聞かないと理解出来ない。宰相の息子がゆえに勉学を求められるのもプレッシャーで……本当は騎士になりたかったんだ」
青空をみて儚げにいうシャルナーク様が美しい。
(会ってすぐに、悩みを告白された。イベント早すぎない?……というか、宰相の息子が騎士を目指すって、設定てんこ盛りすぎない!?まぁいいわ、ヒロインたるもの、攻略対象のやりたいことには否定しない!騎士を目指すのなら、それを応援するのがヒロインよ!)
私が口を開こうとすると、隣でジルフォードがため息をつき、マリアが小さく舌打ちした。
え、怖い。
「そうですか、であれば、お父様にそうおっしゃればよろしいのでは?」
マリアが、シャルナーク様を睨みつける。シャルナーク様は、蛇に睨まれたカエルのように、固まっていた。
どうした、マリア!キャラ変わってるぞ!!
「……『僕は君たちとは違う』?『一度聞くだけじゃ理解できない』?まるで、私たちが、一度聞けば全てを理解できる万能な人間とでもいいたげですわね」
「えっ、いや……そこまでは……」
「リエラの努力も、ジルフォード様の苦労も知らないで、悲劇のヒーロー気取り?…..ねぇ、リエラ。残念だけど、この方はあなたの運命の人ではないわ。あなたには、もっと、自分の夢に一生懸命で、直向きに努力できる方がお似合いよ」
マリアが、興味を失ったようにシャルナーク様から目を逸らす。
シャルナーク様は、そんなマリアを、目を丸くして見つめていた。
来週はおそらく1話のみ金曜更新になると思います。




