07
エヴァン視点
朝。
まだ人の少ない時間帯。
屋敷の門を出ると、ひんやりとした空気が頬を撫でた。
「本当にお一人で?」
隣を歩きながら、エヴァンは静かに問う。
「ええ」
リリアンは前を向いたまま答える。
「礼拝堂を確認するだけよ。長居はしない」
「……承知いたしました」
一拍。
「何かあれば、すぐにお呼びください」
「分かってる」
短い返答。
だが、それで十分だった。
⸻
学園。
二人はそのまま礼拝堂の前まで歩く。
「では」
エヴァンが足を止める。
リリアンも同じく立ち止まり、扉へ視線を向けた。
「すぐ戻るわ」
「お待ちしております」
わずかに目を細める。
リリアンはそのまま礼拝堂へ入っていった。
扉が閉まる。
その音を確認してから、エヴァンは踵を返した。
「……さて」
向かう先は資料室。
⸻
古い紙の匂いが漂う室内。
エヴァンは迷いなく棚へ手を伸ばす。
「礼拝堂……建設記録」
ページをめくる音だけが静かに響く。
「……数年前」
指が止まる。
「設計、監修……」
視線がわずかに細まる。
「……あの教員、ですか」
予想と一致する名前。
「教育者が礼拝堂を主導するとは、少々不自然ですね」
別の資料へ手を伸ばす。
「……学園の運営記録」
紙をめくる。
「資金難……停滞……」
そして――
「……改善」
時期が切り替わる。
「同時期、ですか」
礼拝堂の建設と。
教師の赴任と。
「寄付金……」
視線を走らせる。
「出所不明が大半」
小さく息を吐く。
「綺麗すぎますね」
帳尻だけが合っている。
流れが見えない。
「……裏がある」
本を閉じる。
そのときだった。
⸻
外から、ざわめきが流れ込んできた。
「……?」
窓へ歩み寄る。
視線の先。
貴族たちが次々と歩いていく。
向かう先は――
「礼拝堂……?」
明らかに多い。
通常の朝とは違う流れ。
「何か催しでも?」
部屋を出る。
廊下へ。
ちょうど通りかかった職員を呼び止める。
「少しよろしいですか」
「は、はい」
「礼拝堂が賑わっているようですが」
「ああ、本日は特別な礼拝が」
「特別?」
「最近は外部の方も集まるようになりまして……その、教員の方が主導で」
「……教員」
エヴァンの目がわずかに細まる。
「どのような趣旨で?」
「詳しくは……ただ、寄付も多く集まるようで……」
言葉を濁す。
「そうですか」
一礼して、その場を離れる。
⸻
廊下を進みながら、思考を巡らせる。
礼拝堂の建設。
資金の流れ。
そして――
人を集める動き。
「……偶然にしては出来すぎていますね」
足取りが自然と速くなる。
「お嬢様」
小さく呼ぶ。
返事があるはずもない。
だが。
「……急ぐべきでしょう」
視線の先に、礼拝堂。
そこへ流れ込む人の波。
静かに、しかし確実に。
何かが動いている。




