06
早朝。
まだ人の気配がほとんどない時間。
リリアンは一人、礼拝堂の扉を押し開けた。
静まり返った空間。
昨日と変わらない、整いすぎた光景。
(……ここね)
ゆっくりと足を進める。
床に視線を落とす。
わずかな擦れ。
不自然な継ぎ目。
(やっぱり、ある)
そのとき――
「お嬢様」
不意に、背後から声。
振り返る。
そこに立っていたのは、エヴァンではなかった。
「…… エルシオン先生」
柔らかな笑み。
昨日と同じ顔。
「こんな朝早くに、どうしました?」
「少し、気になることがあって」
リリアンは視線を逸らさない。
「礼拝堂を見に来ただけよ」
「……熱心だね」
エルシオンはゆっくりと歩み寄る。
「信仰に興味があるのかな?」
「いいえ、まったく」
即答。
一瞬の沈黙。
その間合いが――ほんのわずかに近い。
(距離が)
詰めすぎている。
次の瞬間。
「それは、残念だ」
低い声。
「……っ」
振り向くよりも早く、衝撃。
視界が揺れる。
床が近づく。
(やられた……)
意識が、暗闇に沈んでいった。
⸻
目を開けたとき。
そこは、暗い空間だった。
冷たい床。
コンクリートの壁。
わずかに響く、自分の呼吸音。
(……ここは)
ゆっくりと身体を起こす。
「……地下、ね」
音の反響。
不自然な広がり。
(礼拝堂の下……やっぱり)
周囲を見渡す。
そこに――
「……」
五人の子供たち。
壁際に座り込み、焦点の合わない目で一点を見つめている。
「ちょっと」
リリアンは立ち上がる。
「あなたたち、大丈夫?」
近づいて声をかける。
だが――
「……選ばれた……」
「……光……」
「……導き……」
ぶつぶつと、意味の断片だけを繰り返す。
反応はない。
(……おかしい)
手を伸ばし、顔の前で振る。
視線は動かない。
「……洗脳?」
小さく呟く。
そのとき。
――コツ、コツ、コツ。
足音が響く。
ゆっくりと、こちらへ近づいてくる。
「……これで全員揃った」
姿を現したのは、あの教師だった。
変わらぬ笑み。
だが、その目はもう隠していない。
「君で六人目だ」
「……やっぱり、あなただったのね。カイル・エルシオン 」
リリアンは静かに言う。
「ん?エルシオン先生 だろ?」
教師は首を傾げる。
「もう意識が戻ったのか。思ったより早いね」
「……目的は何?」
リリアンはまっすぐ見据える。
教師は少し考えるように視線を泳がせ――
「そうだな」
口元を緩めた。
「探求心の強い君には、特別に教えてあげよう」
静かな声。
だが、その奥にあるものは明らかだった。
「教育とは、“導くこと”だ」
「……」
「人は平等ではない」
ゆっくりと歩きながら続ける。
「伸びる者と、そうでない者がいる。
どんな子どもたちにも教育を受ける権利がある。
しかし、良い教育をするには・・・・
金がいるんだよ」
「お金、?
それとこの子達となんの関係が、、?」
その時、黒いフードを被った人間たちがゾロゾロと地下室に入ってきた
「ああ、もうそんな時間か。
おしゃべりはここまでにしておこう。」
「さて」
蝋燭の火が揺れる。
「――ミサを始めるよ」




