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お茶会終了後ーーーー



リリアンはゆっくり瞬きをした。


「……なんでも?」


「ええ」


エヴァンは迷いなく頷く。


夕方の光が窓から差し込み、淡い水色の瞳を静かに照らしていた。


「お嬢様が望むなら、私はどこまでも付き従います」


その言葉は執事として当然の忠誠にも聞こえる。


けれどリリアンには、少し違って聞こえた。


もっと重くて、もっと個人的なもの。


だから少しだけ困ったように笑う。


「重たいわね」


「そうでしょうか」


「そうよ」


リリアンは廊下の先へ視線を向けた。


窓の外、庭の木々が風に揺れている。


「……アレクシスは不思議な子だったわ」


ぽつりと呟く。


「普通、もっと聞いてくるでしょう? “真実って何?”とか、“何があったの?”とか」


エヴァンは黙って聞いている。


「でも彼、あまり踏み込んでこなかった」


少し考えるように目を伏せる。


「きっと、優しいのね」


その言葉に、エヴァンの睫毛がわずかに揺れた。


「お嬢様は、ああいう方がお好みですか」


何気ない問いみたいだった。


けれど、どこか静かすぎた。


リリアンは首を傾げる。


「どうかしら。話しやすいとは思ったけれど」


そこで少しだけ笑う。


「少なくとも、あなたみたいに全部見透かそうとはしないもの」


エヴァンは小さく目を細めた。


「それは申し訳ありません」


謝っている声なのに、まるで反省していない。


リリアンは思わず吹き出す。


「ほんとにそう思ってる?」


「ええ、一応は」


「一応なのね」


くすくすと笑ったあと、リリアンはふと静かになった。


「……でも」


声が少し落ちる。


「私、普通の夢なんて持ったことなかったのね」


世界を見たい。


誰かを助けたい。


立派な淑女になりたい。


同年代の子供たちは、きっとそういう未来を語るのだろう。


けれど自分の中にあるのは、


燃える馬車と。


血の匂いと。


“事故だった”と繰り返す大人たちへの疑念だけ。


リリアンは小さく目を伏せた。


「私、変なのかしら」


その瞬間。


エヴァンは立ち止まり、静かに言った。


「いいえ」


即答だった。


「お嬢様は、お嬢様です」


それだけだった。


慰めでも励ましでもない。


けれど、その言葉は妙に胸に残った。


リリアンは少しだけ目を丸くして、それから小さく笑う。


「……変な返事」


「よく言われます」


「誰に?」


「お嬢様に」


真顔で返され、リリアンはまた笑った。


その笑い声を聞きながら、エヴァンは静かに目を伏せる。


――夢などなくていい。


お嬢様が進む先に、自分がいられるなら。


彼にとっては、それだけで十分だった。

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