18
さて、今回はリリアンお嬢様とガレス(レオンハルト・アルヴェイン付き)の1週間です!
「――帰るわよ」
王宮の階段を下りながら、リリアンは小さく息を吐いた。
長時間の晩餐会。
慣れているとはいえ、気疲れはする。
その後ろを、大柄な男が静かについてくる。
「はい、お嬢様」
ガレスだった。
アルヴェイン家執事。
軍属らしい隙のない立ち姿に、リリアンはまだ少し慣れない。
王宮の外へ出た、そのときだった。
「地面は危険ですので」
「……え?」
「運ばせていただきます。失礼します」
次の瞬間。
ふわりと身体が浮いた。
「ちょっ――!?」
ガレスが当然のようにリリアンを抱き上げていた。
「なっ、あなた!?」
周囲の使用人たちがぎょっとした顔をする。
リリアンは顔を真っ赤にした。
「降ろしなさい!」
「危険ですので」
「地面よ!? 普通の地面よ!?」
ガレスは真顔だった。
「レオンハルト様より、“リリアン嬢に危険が及ばぬよう細心の注意を払え”と命じられております」
「だからって!」
馬車へ向かって歩きながら、ガレスは淡々と続ける。
「夜道ですので」
「危険はあります」
「ないわよ!!」
「あります」
「あなた、絶対面白がってるでしょう!?」
ぴく、とガレスの口元が動く。
「……ふふ」
「笑った!!」
「いえ」
まったく悪びれない。
「さあ、参りますよお嬢様」
「もうっ……!!」
結局そのまま馬車へ運ばれることになり、リリアンは恥ずかしさで顔を覆った。
⸻
屋敷へ戻った後。
侍女たちが就寝準備を進めていく。
「お嬢様、本日はお疲れ様でした」
「ええ」
淡い水色のドレスを脱ぎ、夜着へ着替える。
鏡の前。
リリアンはぼんやりと自分を見つめた。
静かだ。
いつもなら。
「お嬢様、本日は冷えますのでこちらを」
「紅茶をお持ちしました」
そんな声が聞こえる時間。
そして寝るまで、エヴァンが部屋にいる。
本を読んでいる日もあれば、チェスをしている日もある。
特別なことは何もない。
けれど、それが当たり前だった。
「……」
今日はそれがない。
妙に落ち着かなかった。
疲れているはずなのに、眠気が来ない。
それどころか、少し苛立っている自分に気づく。
(……こんなに感情的になるなんて)
いつ以来だろう。
両親が亡くなってから。
リリアンは“弱さ”を外に出さないようにしてきた。
なのに今日は、ずっと調子が狂っている。
そのとき。
――コンコン。
扉が叩かれた。
「お嬢様、よろしいでしょうか」
ガレスの声。
「……ええ」
扉が開く。
「失礼いたします」
深く一礼するガレス。
「お疲れのところ申し訳ございません」
「何かしら」
「エヴァン様から業務を引き継ぐ時間がありませんでしたので」
ガレスは手帳を開いた。
「いくつか、お伺いしたいことが」
「……それもそうね」
リリアンは椅子へ腰掛ける。
「まず、朝食ですが」
「紅茶と軽食のみよ」
「軽食とは?」
「フルーツやスコーンを少し」
「食べない日もあるわ」
ガレスの眉がぴくりと動く。
「……少ないですね」
「問題ないわ」
「そうですか」
手帳へ書き込む。
「では、今後一週間のご予定を」
「午前は講義、午後は仕事よ」
「仕事?」
「ほとんど書類整理かしら」
「なるほど」
ガレスは真面目に頷く。
「では、夜は?」
「……夜?」
「どのようにお過ごしに」
リリアンは少し考える。
「特に何も」
「エヴァンとチェスをしたり、お茶をしたり……そのくらいかしら」
「ふむ」
ガレスは腕を組んだ。
「なるほど」
「……?」
「かしこまりました」
手帳を閉じる。
「では明日からも、そのように」
「ええ」
「お疲れのところ失礼いたしました」
一礼。
そのまま部屋を出ていく。
扉が閉まる。
静寂。
「……嵐みたいな人ね」
ぽつりと呟く。
その瞬間。
どっと疲れが押し寄せた。
ベッドへ倒れ込む。
静かな天井を見上げながら、リリアンは小さく目を閉じた。
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