17
重厚な扉が開く。
王と、アシュレイ・エルシオンが姿を現した。
その瞬間。
全員が静かに頭を下げる。
「――楽にせよ」
低く響く声。
国王は席へ向かいながら続けた。
「この度は急な呼び出しに応じてもらい感謝する」
「はっ」
アシュレイが前へ出る。
「今回の事件、すべてはエルシオン家の者が引き起こしたこと」
静かに頭を垂れる。
「皆様には多大なるご迷惑をおかけしました」
そして国王へ向き直る。
「陛下。改めて、謝罪申し上げます」
「うむ」
王は短く頷いた。
「詳しい話は食事をしながらにしよう」
側仕えたちが動き始める。
豪華な料理が次々と並べられていった。
⸻
しばらくして。
国王がワインを置く。
「では――各家の報告を頼もう」
最初に口を開いたのはレオンハルトだった。
「軍事面ですが、北側国境の警備強化を継続中です」
軽い調子だった男の声が変わる。
「隣国側にも若干の動きがありますので、騎士団を増員しています」
「以上となります」
「うむ」
次にディオン。
「外交では、東方諸国との条約更新がほぼ完了しました」
書類を机へ置く。
「ただ、今回の事件の影響で宗教関係の国から色々言われてますね」
肩を竦める。
「面倒ですが対処は済ませます」
「以上です」
セドリックが静かに続く。
「現在の国内予算ですが――」
穏やかな声で数字を並べていく。
「学園事件の影響で寄付金制度の見直しも必要でしょう」
眼鏡を押し上げる。
「以上です」
そして。
「グラナート家」
「はい」
リリアンが立ち上がる。
「国内治安に関してですが」
静かな声が響く。
「先の学園事件により、国民の不安が強まっております」
「現在、人目につく場所の警備強化を進めています」
「少しでも安心していただけるよう、人員を確保中です」
「以上です」
最後にアシュレイが口を開いた。
「改めて、今回の件について皆様へ謝罪を」
穏やかな笑み。
だが目には疲れが滲んでいる。
「あの事件以降、他学園でも退学者が増えています」
「信仰や教育に対する偏見も強まった」
静かに息を吐く。
「もちろん、すべてが禁忌を犯すようなものではありません」
「ですが、影響は大きい」
「現在エルシオン家総出で、安心できる学園環境を整えております」
「……うむ」
王が頷く。
「国民の不安も当然だろう」
そして。
静かに周囲を見渡した。
「だからこそ」
「五大名家が、今まで以上に協力し、この国を強固なものにせねばならん」
その場の空気が張り詰める。
「しかし――」
王の声が低くなる。
「今回、五大名家の中から不届き者が出たことも事実」
誰も口を開かない。
「そこで」
王は続けた。
「各家同士の信頼を深めるため、執事を交換してもらう」
「期間は一週間」
「ちょうど一週間後に夜会がある。それまでだ」
一瞬。
沈黙。
最初に声を上げたのはディオンだった。
「……はぁ!?」
「国王陛下、それは流石に無茶でしょう」
アシュレイは何も言わずにただ苦笑する。
「そうですよ」
「俺たち、ほぼ幼い頃から執事と一緒なんですけど?」
セドリックも珍しく眉を寄せた。
「今更交換というのは、合理性に欠ける気もしますが」
「まあまあ」
レオンハルトが笑う。
「たかが一週間だろ?」
「国王命令なら仕方ねぇか……」
ディオンが舌打ちする。
リリアンは静かに考える。
(……なるほど)
(だから執事は会場に入れなかったのね)
⸻
晩餐会終了後。
扉が開く。
外には各家の執事たちが待機していた。
セドリックが先に口を開く。
「クラウス」
「話は聞いていますね」
「本日より、あなたはエルシオン家付きです」
「粗相のないように」
「……では、一週間後」
「承知しております」
クラウスは一礼した。
そして。
ギラリ、とエヴァンを見る。
そのまま去っていった。
セドリックが今度はエヴァンを見る。
「今日から、あなたが私の執事です」
「来なさい」
「御意」
歩き出すエヴァン。
セドリックが小声で呟く。
「……まったく」
「なんで私の執事が獣まがいなんですかね」
リリアンは黙ってエヴァンを見る。
エヴァンも、小さく頷いた。
それだけだった。
⸻
「じゃあ僕の執事は君か!」
レオンハルトの前には、若い執事が立っていた。
「ノアと申します!」
勢いよく頭を下げる。
「よろしくお願いします!」
「あれ?」
レオンハルトが首を傾げる。
「君、まだ執事になって間もない?」
「は、はい!」
ノアは慌てて答える。
「ずっとディオン様付きの見習いで……ようやく正式な執事になれました!」
「頑張ります!」
「はは」
レオンハルトが笑う。
「いい笑顔だねぇ」
⸻
一方。
ディオンは露骨に顔をしかめていた。
「……おい」
「よりによってエルシオン家かよ」
ユリウスは静かに頭を下げる。
「ディオン様のお怒りも当然です」
「しばらくの間、ご辛抱ください」
「何か企んだら容赦しねぇからな」
「承知しております」
「ちっ」
⸻
「よろしく頼みます」
アシュレイの前にはクラウス。
「ええ」
クラウスは淡々と返す。
「こちらも不本意ですので」
「深入りしない方が互いのためでしょう」
「ふふ」
アシュレイは苦笑した。
⸻
最後。
リリアンの前へ大柄な男が立つ。
「ガレスと申します」
低い声。
「一週間、よろしく頼みます」
まるで騎士のような体格。
戦場の空気を纏っている。
だが。
リリアンは少しだけ安心した。
ガレスとは昔から顔見知りだったからだ。
「ええ」
静かに頷く。
「こちらこそよろしくお願いします」
以下、各家の役割と交換後の執事です^_^
リリアン・グラナート(治安・憲兵)
執事:ガレス(レオンハルト・アルヴェイン家)
レオンハルト・アルヴェイン(軍事・騎士団)
執事:ノア(ディオン・ローデリア家)
ディオン・ローデリア(外交)
執事:ユリウス(アシュレイ・エルシオン家)
セドリック・ベルニエ(財務・経済)
エヴァン(リリアン・グラナート家)
アシュレイ・エルシオン(宗教・教育)
クラウス(セドリック・ベルニエ家)




