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国王主催の晩餐会――当日。


屋敷の中は朝から慌ただしかった。


「もう少しこちらを整えて……はい、完璧ですわ!」


「髪飾りはこちらでよろしいですか?」


侍女たちが忙しなく動く。


大きな鏡の前。


リリアンは静かに座っていた。


淡い水色のドレス。


白いレースが幾重にも重なり、光を受けるたびに柔らかく揺れる。


繊細な刺繍。


細かな装飾。


まるで氷細工のようだった。


「……」


鏡を見つめる。


(ミレイユの性格からは考えられないほど繊細ね)


ふっと目を細める。


(……腕だけは確かだわ)


金色の髪は丁寧にハーフアップにまとめられ、小粒のパールが控えめに散りばめられている。


幼さと気品。


そのどちらも失わない姿だった。


「お嬢様、本当にお綺麗です……」


侍女がうっとりと呟く。


「……大袈裟よ」


小さく返した、そのとき。


「失礼いたします」


扉が開く。


エヴァンだった。


いつもの黒い執事服。


だが今日は、胸元に淡い水色のリボンタイがある。


リリアンは立ち上がると、そのまま彼へ近づいた。


「……少し曲がってる」


「え?」


細い指がタイに触れる。


結び目を整える。


近い距離。


水色の瞳がわずかに揺れた。


「お手を煩わせてしまい、申し訳ございません」


「当然よ」


整え終える。


「あなたは私の――」


一瞬だけ間を置く。


「グラナート家の執事なのだから」


エヴァンが目を細める。


「……御意」


そして。


ふっと笑った。


「では、お嬢様」


静かに片手を差し出す。


「――いざ、戦場へ」


「戦場って……」


リリアンは思わず小さく笑う。


「まあ、あながち間違ってはいないわね」


その手を取る。


「行くわよ、エヴァン」


「はい」


二人は並んで歩き出した。



王宮。


夜空の下、巨大な城が光を放っている。


馬車が止まる。


扉が開いた。


「グラナート家当主、リリアン・グラナート様ですね」


王家の使いが深く頭を下げる。


「お待ちしておりました。こちらへ」


「ええ」


赤い絨毯の上を進む。


高い天井。


巨大なシャンデリア。


磨き抜かれた床。


窓の外に視線を向けると――


「……」


庭園いっぱいに、白薔薇が咲き誇っていた。


月明かりを受け、幻想的に揺れている。


「綺麗……」


思わず漏れる。


「王宮庭園の白薔薇でございます」


使いの男が微笑む。


「陛下が大切になさっているものです」


「……さすが王宮ね」


視線を戻す。


やがて、晩餐会の会場前へ到着した。


そのとき。


「申し訳ございません」


使いの男が立ち止まる。


「執事の方は、ここまでとなります」


空気が止まった。


「……どうしてかしら」


リリアンの声が静かに冷える。


「彼は私専属の執事よ」


「重々承知しております」


男は頭を下げる。


「ですが、王命ですので」


「……」


リリアンの眉がわずかに寄る。


隣で、エヴァンが静かに口を開いた。


「かしこまりました」


「エヴァン」


「お嬢様」


穏やかな笑み。


「私はここまでのようです」


「でも、なぜ――」


「大丈夫です」


静かな声。


「お待ちしております」


その言葉に、リリアンは数秒黙った。


やがて、小さく息を吐く。


「……わかったわ」


少しだけ視線を逸らす。


「すぐ戻る」


「御意」


エヴァンは深く頭を下げた。


重厚な扉が開く。


中から、賑やかな音楽と笑い声が漏れてくる。


リリアンは一人、会場へ足を踏み入れた。


広いホール。


煌びやかな貴族たち。


そして、すでに数人の当主が集まっていた。


その中の一人が、ぱっと顔を輝かせる。

「やあ、リリアンちゃん!」


ここまで読んでくださり誠にありがとうございます!

少しでも良いと思ってくださった際には、評価やブックマークお願いします^_^


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