14
それから一週間後。
「お嬢様ーー!!完成いたしましたわ!!」
屋敷中に響きそうな声と共に、ミレイユが大きな箱を抱えて現れた。
「……朝から騒がしいわね」
リリアンは本を閉じる。
「だって、最高傑作なんですもの!」
ミレイユは興奮した様子で布を広げた。
深い赤。
薔薇を思わせる艶やかな色。
「まずはこちらを!」
侍女たちが慌ただしく動く。
「お嬢様、こちらへ」
「ええ」
数分後。
カーテンが開く。
「……どうかしら」
その瞬間。
部屋の空気が止まった。
深紅のドレス。
細い肩から流れる生地が、白い肌をより際立たせている。
金色の髪は光を受けて輝き、まるで絵画の中の令嬢のようだった。
「まあ……!」
侍女たちから感嘆の声が漏れる。
「素敵ですわ……!」
ミレイユは胸の前で手を組んだ。
「完璧……!」
リリアンは少し落ち着かないように視線を逸らす。
「……大袈裟よ」
そのとき。
「失礼いたします」
扉が開く。
エヴァンが部屋へ入ってきた。
そして――止まる。
「……」
珍しく言葉が出てこない。
リリアンがちらりと彼を見る。
「……何?」
「いえ」
一拍。
「大変、お似合いです」
穏やかな笑み。
だが、少しだけ目を見開いている。
ミレイユがにやりと笑った。
「ふふふ、まだ終わりではありませんよ!」
「……まだあるの?」
「もちろんです!」
ぱっと箱を開ける。
そこにあったのは――
淡い水色のドレス。
朝靄のような、透き通った色。
「……」
リリアンの指先が、わずかに止まる。
「こちらも、ぜひ」
⸻
再び着替え終え、カーテンが開く。
その瞬間。
誰も、声を出せなかった。
水色の布が、柔らかく揺れる。
白い肌。
金の髪。
その色彩が溶け合い、まるで冬の朝の光みたいだった。
どこか儚く。
けれど目を離せない。
静かな美しさ。
「……っ」
ミレイユが口元を押さえる。
「お、お嬢様……」
侍女たちも見惚れている。
エヴァンだけが、静かに立ち尽くしていた。
淡い水色。
自分の瞳と同じ色。
その事実を理解した瞬間、胸が強く締め付けられる。
「……エヴァン」
リリアンが少しだけ首を傾ける。
「さっきのドレスと、どっちがいい?」
問われる。
エヴァンはしばらく黙っていた。
やがて、静かに口を開く。
「……どちらも素敵です」
一歩、近づく。
「ですが」
視線を向ける。
「私は、こちらのほうが好きです」
「……理由は?」
「個人的な好みですが」
わずかに目を細める。
「お嬢様によくお似合いかと」
「……そう」
リリアンは小さく視線を落とした。
「なら、これで国王主催の晩餐会に出るわ」
「御意」
「それと」
リリアンがミレイユを見る。
「例のものを」
「はい!」
ミレイユが嬉しそうに箱を取り出す。
中には――
淡い水色のリボンタイ。
銀糸でグラナート家の紋章が刺繍されている。
執事服にも自然に馴染む、上品な細工。
「……お嬢様、これは」
エヴァンが目を見開く。
リリアンは少しだけ目を逸らした。
「あなたにも身につけてもらうわ」
静かな声。
「私の執事である証として」
「……」
「いつもそばにいてくれてありがとう」
一瞬。
ほんの少しだけ、表情が柔らかくなる。
「この先も、離れることは許さないわ」
沈黙。
エヴァンの喉が小さく動く。
「……っ」
耐えるように、手で口元を覆う。
下を向く。
肩がわずかに震えていた。
「エヴァン?」
リリアンが不思議そうに呼ぶ。
数秒後。
ゆっくり顔を上げる。
その水色の瞳は、少しだけ潤んでいた。
「……御意」
深く頭を下げる。
周囲から、小さな笑い声が漏れた。
「ふふ」
「本当に仲がよろしいですわね」
ミレイユも侍女たちも、どこか嬉しそうに笑っている。
その中心で。
リリアンは少しだけ恥ずかしそうに目を逸らした。
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