13
ある日の夕方。
西日がやわらかく差し込む部屋に、明るい声が響いた。
「お久しぶりでございます、お嬢様!」
「……ミレイユ」
リリアンは顔を上げる。
「相変わらず元気ね」
「ええ!それだけが取り柄ですもの!」
くるりと回りながら布を広げる。
色とりどりの生地が、机の上に並んでいく。
「さあさあ、本日は晩餐会用のドレス!」
「どんなお嬢様に仕上げましょうか?」
「……いつも通りでいいわ」
迷いなく答える。
「黒で任せる」
「えええ!?」
大きな声。
「お嬢様、十二歳のレディが黒一色なんて、勿体ないですわ!」
「似合うからいいのよ」
「似合うのは当然ですけど!」
身を乗り出す。
「せっかくの機会ですもの、もっと華やかなお色を!」
「……面倒ね」
小さくため息。
ミレイユはぱっと顔を輝かせた。
「でしたら!」
手を打つ。
「エヴァン様に決めていただいては?」
「……は?」
「きっと、お嬢様に一番似合う色をご存知ですわ!」
沈黙。
「……ふう」
リリアンは小さく息を吐いた。
「わかったわ」
視線を横に向ける。
「エヴァンを呼んでちょうだい」
「かしこまりました!」
⸻
扉が開く。
「お呼びでしょうか」
エヴァンが一礼する。
「ええ」
リリアンは少しだけ視線を逸らした。
「……私に似合うドレスの色は、何だと思う?」
一瞬。
空気が止まる。
「……」
エヴァンがわずかに目を見開く。
「……どうしたの」
「いえ」
すぐに表情を戻す。
「少々、意外で」
「仕立て屋が」
ちらりとミレイユを見る。
「黒以外も持っておくべきだって」
「なるほど」
エヴァンは頷く。
「私も同感です」
「……そう」
「そうですね……」
少し考える仕草。
「何色でもお似合いになるかとは思いますが」
ゆっくりと視線を上げる。
「赤、でしょうか」
「……赤?」
「はい」
静かな声。
「輝く金の髪と、白い肌」
一歩、距離を詰める。
「最も映える色かと」
リリアンは少しだけ目を伏せる。
「……じゃあ、それでいいわ」
「まあ!」
ミレイユが手を叩く。
「素敵ですわ!絶対にお似合いになります!」
「エヴァン、もういいわ」
「かしこまりました」
一礼する。
「失礼いたします」
静かに部屋を出ていく。
扉が閉まる。
少しの沈黙。
「……それで」
ミレイユが身を乗り出す。
「他にも何か?」
リリアンは少しだけ迷う。
「……ひとつ、頼みたいものがあるの」
「はい、何なりと」
「エヴァンの目の色と同じドレスも作ってちょうだい」
ミレイユが瞬きをする。
「……目の色?」
「水色よ」
小さく付け加える。
「淡い、水色」
「……!」
ミレイユの顔がぱっと明るくなる。
「まあ……!」
ぐっと両手を握る。
「お嬢様……それは……とても素敵ですわ」
リリアンは少し視線を逸らす。
「……それと」
小さく続ける。
「エヴァンでも身につけられるようなものも」
「……!」
今度は言葉を失うミレイユ。
「お嬢様……!」
感極まった声。
「きっと、お喜びになりますわ!」
「……だといいけど」
わずかに頬を染める。
「別に、深い意味はないわ」
「ええ、ええ!」
大きく頷くミレイユ。
その目は、完全に楽しんでいた。
「お任せください!」
布を抱えながら、くるりと回る。
「最高の一着をお仕立ていたします!」
夕日の中で。
淡い水色の布が、やわらかく光った。




