12
紅茶の香りが立ちのぼる。
白い湯気が、ゆっくりと揺れる。
カップに触れた指先が、ほんのりと温かい。
「……」
リリアンは新聞を広げた。
紙の擦れる音だけが、静かな食堂に響く。
見出し。
――学園における生徒失踪事件、解決。
その下。
細かな文字を、目で追う。
「……」
“犯人は変質者と見られ――”
“行方不明となっていた生徒五名は発見され――”
“全員の死亡が確認された――”
一瞬、手が止まる。
(……五人)
ページをめくる。
“追悼式を、学園内の礼拝堂にて執り行う予定――”
“なお、当該学園は本件を受け閉校が決定――”
「……ふうん」
小さく息を吐く。
カップに口をつける。
紅茶の味が、わからない。
(……変質者、ね)
視線を落とす。
(何も知らないって、罪ね)
あの場所。
蝋燭の光。
血の匂い。
「……」
一瞬、意識が遠のく。
(……やめて)
思い出す。
ナイフ。
悲鳴。
「お嬢様」
声。
はっと顔を上げる。
エヴァンが立っている。
「……大丈夫ですか」
「ええ」
何事もなかったように答える。
「少し、考え事をしていただけよ」
「……そうですか」
わずかな間。
「本日は」
エヴァンが続ける。
「エルシオン家当主――アシュレイ様がご来訪予定です」
「……そう」
新聞を畳む。
「来るとは思っていたわ」
カップを置く。
「準備しておいて」
「御意」
⸻
応接室。
扉が開く。
「失礼するよ」
穏やかな声。
「ごきげんよう、リリアン嬢」
「……アシュレイ様」
リリアンは軽く会釈する。
エヴァンが一歩引く。
「この度は」
アシュレイが静かに頭を下げた。
「本当に申し訳なかった」
「……」
「警備を依頼した上に」
言葉を選ぶように続ける。
「我が家から、あのような者を出してしまった」
沈黙。
リリアンはしばらく彼を見ていたが――
やがて口を開く。
「あなたの家の者だと」
淡々とした声。
「新聞には書かれていないわ」
「……ああ」
「国民には知られていない」
アシュレイは苦く笑う。
「その通りだ」
「なら」
視線を逸らす。
「あなたが謝る必要はないわ」
静かな言葉。
「……優しいな」
「別に」
即答。
その空気を断ち切るように、
「ただ」
エヴァンが口を開く。
「今回の件」
視線が鋭くなる。
「王家直属の五大名家が、黙っているとは思えませんが」
「……その通りだ」
アシュレイが頷く。
「だからこそ、今日ここに来た」
懐から一通の封書を取り出す。
「国王陛下より」
テーブルに置く。
「五大名家の当主を招いた晩餐会が開かれる」
「……晩餐会」
リリアンの目が細くなる。
「今回の件で、より結束を強めろということですか」
「察しがいい」
わずかに笑う。
「その招待状を届けに来た」
「……あなた自ら?」
「そうだ」
一拍。
「謝罪も兼ねてね」
静かな視線。
「出席してもらえるか」
短い沈黙。
リリアンは封書を手に取る。
「……ええ」
小さく頷く。
「出席するわ」
「ありがとう」
アシュレイが息をつく。
「では、また晩餐会で」
「ええ」
立ち上がる気配。
扉が閉まる。
静寂。
「……エヴァン」
「はい」
「国王との晩餐会、ね」
封を見つめる。
「随分と面倒なことになりそうだわ」
「……そうですね」
エヴァンは
「そういえば、ドレスは新調なさる必要がございますね」
「……そうね」
ため息混じりに頷く。
「明日、仕立て屋を呼んでちょうだい」
「御意」
紅茶の香りが、まだ残っている。
けれどその味は――
やはり、よくわからなかった。
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