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紅茶の香りが立ちのぼる。


白い湯気が、ゆっくりと揺れる。


カップに触れた指先が、ほんのりと温かい。


「……」


リリアンは新聞を広げた。


紙の擦れる音だけが、静かな食堂に響く。


見出し。


――学園における生徒失踪事件、解決。


その下。


細かな文字を、目で追う。


「……」


“犯人は変質者と見られ――”


“行方不明となっていた生徒五名は発見され――”


“全員の死亡が確認された――”


一瞬、手が止まる。


(……五人)


ページをめくる。


“追悼式を、学園内の礼拝堂にて執り行う予定――”


“なお、当該学園は本件を受け閉校が決定――”


「……ふうん」


小さく息を吐く。


カップに口をつける。


紅茶の味が、わからない。


(……変質者、ね)


視線を落とす。


(何も知らないって、罪ね)


あの場所。


蝋燭の光。


血の匂い。


「……」


一瞬、意識が遠のく。


(……やめて)


思い出す。


ナイフ。


悲鳴。


「お嬢様」


声。


はっと顔を上げる。


エヴァンが立っている。


「……大丈夫ですか」


「ええ」


何事もなかったように答える。


「少し、考え事をしていただけよ」


「……そうですか」


わずかな間。


「本日は」


エヴァンが続ける。


「エルシオン家当主――アシュレイ様がご来訪予定です」


「……そう」


新聞を畳む。


「来るとは思っていたわ」


カップを置く。


「準備しておいて」


「御意」



応接室。


扉が開く。


「失礼するよ」


穏やかな声。


「ごきげんよう、リリアン嬢」


「……アシュレイ様」


リリアンは軽く会釈する。


エヴァンが一歩引く。


「この度は」


アシュレイが静かに頭を下げた。


「本当に申し訳なかった」


「……」


「警備を依頼した上に」


言葉を選ぶように続ける。


「我が家から、あのような者を出してしまった」


沈黙。


リリアンはしばらく彼を見ていたが――


やがて口を開く。


「あなたの家の者だと」


淡々とした声。


「新聞には書かれていないわ」


「……ああ」


「国民には知られていない」


アシュレイは苦く笑う。


「その通りだ」


「なら」


視線を逸らす。


「あなたが謝る必要はないわ」


静かな言葉。


「……優しいな」


「別に」


即答。


その空気を断ち切るように、


「ただ」


エヴァンが口を開く。


「今回の件」


視線が鋭くなる。


「王家直属の五大名家が、黙っているとは思えませんが」


「……その通りだ」


アシュレイが頷く。


「だからこそ、今日ここに来た」


懐から一通の封書を取り出す。


「国王陛下より」


テーブルに置く。


「五大名家の当主を招いた晩餐会が開かれる」


「……晩餐会」


リリアンの目が細くなる。


「今回の件で、より結束を強めろということですか」


「察しがいい」


わずかに笑う。


「その招待状を届けに来た」


「……あなた自ら?」


「そうだ」


一拍。


「謝罪も兼ねてね」


静かな視線。


「出席してもらえるか」


短い沈黙。


リリアンは封書を手に取る。


「……ええ」


小さく頷く。


「出席するわ」


「ありがとう」


アシュレイが息をつく。


「では、また晩餐会で」


「ええ」


立ち上がる気配。


扉が閉まる。


静寂。


「……エヴァン」


「はい」


「国王との晩餐会、ね」


封を見つめる。


「随分と面倒なことになりそうだわ」


「……そうですね」


エヴァンは


「そういえば、ドレスは新調なさる必要がございますね」


「……そうね」


ため息混じりに頷く。


「明日、仕立て屋を呼んでちょうだい」


「御意」


紅茶の香りが、まだ残っている。


けれどその味は――


やはり、よくわからなかった。

ここまで読んでくださり誠にありがとうございます!

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