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「――ッ!!」


牙が食い込む。


「ぎゃああああ!!」


カイルの悲鳴が森に響いた。


「離せ!離せええ!!」


暴れる足を、さらに強く押さえつける。


その時。

「動くな!!」


振り返ると、憲兵たちが駆け込んできていた。


つい、安堵の表情を浮かべ


「リリアン様」


と声をかけながらエヴァンが振り返る。


その瞬間。


視界が、揺れた。


(……あ)


力が抜ける。


足元が崩れる。


「リリ――!」


呼ばれる声。


それを最後に――


意識が、途切れた。



「……ん」


柔らかな光。


見慣れた天井。


「……ここ」


自室。


ゆっくりと首を動かす。


隣。


「……エヴァン」


椅子に座ったまま、眠っている。


伏せたままの顔。


「エヴァン」


小さく呼ぶ。


反応はない。


「エヴァン」


もう一度。


ぴくり、と動く。


「……ん」


ゆっくりと顔が上がる。


目が合う。


数秒。


「……リリ?」


次の瞬間。


「っ!」


ガタン、と椅子が鳴る。


「大丈夫か!? どこか痛むか!? 息は苦しくないか!?」


一気に距離が詰まる。


「ちょ、エヴァン」


「どこだ、どこが――」


「大丈夫よ」


手を伸ばす。


その腕に触れる。


「本当に?」


「ええ」


少しだけ笑う。


「それより」


視線を向ける。


「何があったのか、教えてくれる?」


エヴァンが言葉を詰まらせる。


「……その前に」


すぐに立ち上がる。


「医者を呼ぶ」


「え?」


「二日間」


振り返る。


「眠ったままだった」


「……二日」


「心配した」


ぽつりと落ちる声。


そのまま――


ぎゅっと抱きしめられる。


「……エヴァン」


「……本当に」


息が触れる距離。


「よかった」


一瞬の沈黙。


リリアンは小さく目を伏せる。


「……心配かけたわね」


「ほんとだよ、リリ」


すぐに離れる。


「ちょっと待ってろ」


扉へ向かう。


「エヴァン」


足が止まる。


「なんだ?」


「……口の利き方」


一拍。


「……は」


我に返る。


「失礼いたしました、お嬢様」


頭を下げる。


「ふふ」


小さく笑う声。


エヴァンは頭をかきながら部屋を出ていった。



「うむ、大丈夫でしょう」


白髪の医師が頷く。


「しばらくは安静に。栄養もきちんと取るように」


「ええ、ありがとう」


「では」


振り返る。


「執事殿、少し」


「……ええ」


扉が閉まる。


廊下。


「何か問題が?」


低い声。


医師は少し間を置く。


「……体ではありません」


「……」


「心です」


静かな言葉。


「二日間、目を覚まさなかったのはそのせいでしょう」


エヴァンの眉が動く。


「……あの日のこと、ですか」


「おそらく」


医師は頷く。


「礼拝堂での光景」


「……」


「そして――過去の記憶」


沈黙。


「重なったのでしょう」


風が通り抜ける。


「……彼女には」


医師が続ける。


「結末を伝えねばならないでしょうが」


一拍。


「あなたが、側で見ていてやりなさい」


エヴァンは目を閉じる。


「……ええ」


静かに答えた。



部屋に戻る。


リリアンがこちらを見る。


「なんだったの?」


「薬の説明です」


何事もなかったように言う。


「随分苦いそうで。きちんと飲ませるようにと」


「くだらない」


視線が鋭くなる。


「それより」


間。


「事件の結末は?」


エヴァンは一瞬だけ沈黙する。


「……お嬢様が倒れた後」


ゆっくりと口を開く。


「憲兵団により、礼拝堂にいた貴族、及びカイルは確保されました」


「……そう」


「全員、罪に問われるでしょう」


短く続ける。


「黒魔術は禁忌ですので」


「……」


リリアンは何も言わない。


「それと」


エヴァンは一通の手紙を差し出す。


「国王からです」


封を切る。


静かに目を通す。


「……」


数秒。


「非公開にしろ、ってことね」


「そのようです」


「……五大名家が関わっている以上、当然か」


紙を閉じる。


ふと、顔を上げる。


「……エヴァン」


「はい」


「子供たちは?」


一瞬。


わずかな間。


「……全員、亡くなりました」


静かな声。


「……そう」


それだけ。


それ以上は、何も言わない。


「……お嬢様」


エヴァンがわずかに身を乗り出す。


「大丈夫ですか」


「なにが?」


淡々とした返し。


「……いえ」


首を振る。


「ただ」


視線を落とす。


「何かあれば、すぐにおっしゃってください」


顔を上げる。


まっすぐに。


「私は、何があっても」


一拍。


「たとえあなたが罪を犯しても」


静かに告げる。


「一生、お側におります」


沈黙。


リリアンが目を細める。


「……そうよ」


ゆっくりと口を開く。


「当たり前じゃない」


視線を逸らさない。


「エヴァン、あなたは私の……」


言いかけて、止まる。


「……」


ほんの一瞬。


「一生、手放す気はないわ」


エヴァンの口元が歪む。


「……御意」



「もう少しお休みください」


「大丈夫よ」


「いいえ」


一歩近づく。


「私がそばにいます」


「……」


リリアンが手招きする。


「こっちにきなさい」


「……?」


近づく。


「はい」


軽く咳払い。


「……変身しなさい」


「……はい?」


「エヴァ」


じっと見る。


「変身」


ため息。


「仕方がありませんね」


にこりと笑う。


次の瞬間。


――ボフッ


大きな狼が現れる。


そのまま、ベッドへ。


静かに潜り込む。


体を寄せる。


包み込むように。


守るように。


「……あたたかい」


小さな声。


狼が頬を寄せる。


リリアンも、そっと触れる。


「……おやすみ」


目を閉じる。


そのまま、静かな呼吸が重なった。

ここまで読んでくださり誠にありがとうございます!

少しでも良いと思ってくださった際には、評価やブックマークお願いします^_^


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