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「――エヴァン、あいつを追いなさい!」


背中の上で、リリアンが鋭く命じる。


「御意」


低く応え、狼は地を蹴る。


闇の中へ。


細い通路を駆け抜ける。


石壁を削るように風が走る。


「お怪我は」


走りながらの声。


「問題ないわ」


短い返答。


「かすり傷よ。それより――」


「ええ」


間を置かずに続ける。


「調査で判明したことを」


速度は落ちない。


「カイル・エルシオンが赴任して以降、学園の資金は急速に回復」


「……やっぱり」


「寄付金の増加。出所は不明」


「礼拝堂」


「彼の設計、主導による建設です」


リリアンの目が細くなる。


「……エルシオン家」


「はい」


「宗教を司る名家」


風が強くなる。


出口が近い。


「……すべて繋がったわね」


次の瞬間、視界が開けるとそこは森だった。


冷たい空気。


月明かり。


その先に――


「……いた」


黒い影。


息を切らしながら走る背中。


「カイル・エルシオン」


狼が止まる。


リリアンが軽やかに地面へ降りた。


「そこまでよ」


振り返るカイル。


「……やれやれ」


肩をすくめる。


「追ってきたか」


「あなたの悪事は、すでに明らかになっているわ」


静かな声。


だが、逃げ場はない。


「教育を語りながら、子供の命を生贄にするなんて」


一歩、踏み出す。


「そんな人間に、教師を名乗る資格はない」


カイルは口元を歪める。


「……厳しいな」


「学園の経済難に目をつけた」


リリアンは続ける。


「それを打破するために、貴族の信仰心を利用した」


「エルシオン家主催の“ミサ”」


「その肩書きだけで、人は集まる」


一歩ずつ、距離を詰める。


「さらに黒魔術」


「“願いが叶う”――その餌で、寄付金という名の参加料を搾り取った」


沈黙。


「そして」


視線が鋭くなる。


「優秀で、従順な子供たちを選んだ」


カイルの目がわずかに揺れる。


「洗脳」


「あなたを慕うよう仕向け、自ら従わせた」


「だから痕跡がなかった」


そのとき。


後ろから足音。


いつのまにか人の姿に戻ったエヴァンが現れる。


「彼らは抵抗しなかった」


冷たい声。


「“信じていた”からだ」


一歩、前へ。


「あなたを」


静かな怒りが滲む。


「……人間のクズですね」


空気が張り詰める。


カイルは数秒、黙っていたが――


やがて、笑った。


「……はは」


肩が揺れる。


「ははははは!」


森に響く高笑い。


「見事だ。すべてお見通しというわけか」


笑いながら顔を上げる。


その目は、狂っていた。


「だがな」


声が低くなる。


「仕方がないだろう?」


「……何が」


リリアンの声が冷える。


「教育には金がいる!」


叫び。


「知識はただじゃない!」


「理想だけで回るほど、世界は甘くないんだよ!」


一歩、踏み出す。


「誰かが払わなきゃならない!」


「そのために学校という教育現場で子どもを選んだのね」


即答。


カイルの笑みが歪む。


「……効率的だろう?」


「しかも私は“殺していない”」


にやりと笑う。


「子供たちが、自ら――ね?」


沈黙。


風が止む。


リリアンがゆっくりと口を開く。


「……そう」


一歩、前へ。


「なら、なおさら最悪ね」


視線が突き刺さる。


「自分の手も汚さず、子供に傷を負わせるなんて」


静かに告げる。


「あなたに教育を語る資格なんて、最初からなかったのよ」


カイルの表情が崩れる。


「……黙れ」


低い声。


次の瞬間。


踵を返す。


「逃がすと思う?」


「エヴァン」


「御意」


地を蹴る音。


一瞬で距離が詰まる。


狼の姿へ変わる。


「――っ!?」


カイルが振り返る。


間に合わない。


ガブッ


鈍い音。


「ぎゃあああああ!!」


足に牙が食い込む。


倒れ込むカイル。


「離せ!!離せええ!!」


暴れる。


だが、逃げられない。


血が地面に落ちる。


リリアンが歩み寄る。


「……子供たちは、もっと痛かったはずよ」


見下ろす。


その目に、情はない。


「あなたには、きちんと罪を償ってもらう」


静かに。


確実に。


「すべて」


森に、風が戻る。

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