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子爵家次男のありふれない日常  作者: kishi
未必の故意
12/43

第02話:マダム・ローランの調書

 マダム・ローランの調書は、表紙を開けた瞬間から、とにかく淡々としていた。


 日付と氏名、身分、聴取日時。

 王家から派遣されている家庭教師であること。娘の教育および生活全般の管理を担当していること。

 そのあと、質問と回答が並ぶ。


「先月十五日、リリアーヌ様のご予定について、記録に基づき述べよ」

「かしこまりました。同日、午後三時三十分より王宮作法室にて、現王妃陛下との茶会。午後五時より財務官による『税本論』講義、二時間。移動は王家紋章入り専用馬車にて、私および侍女二名が同行。学園の放課後から夕刻にかけて、学園内にて過ごした記録はございません」

「図書室裏の階段における出来事のあったとされる時刻、リリアーヌ様は学園に在籍していたか」

「記録に照らしますと、在籍しておりません」

「その記録は、第三者が公に確認できるか」

「王家事務局へ毎週提出し、受理印の押された報告書が存在します。ご照会いただければ確認可能です」


 読み進めながら、私は静かに息をついた。


 聞かれたことには、きちんと答えている。感情も推測もない。「記録のとおり」「報告書が存在します」の繰り返しだ。

 娘を褒めたり、人格を語ったりする言葉は一切ない。それでも、娘の無実と、当時のスケジュールの厳しさは、公的に確認できる形で証言されている。娘を守ろうという気持ちは、行間からも伝わってくる。

 ただ、彼女は言い過ぎない。自分が後から責められても、「私は記録を述べただけです」と言い切れる線で止めている。


 芯は国への忠誠だろう。王太子の独断が国を乱すなら、記録に基づいて否定することは国益に叶う。だから矛盾なく、娘に有利な証言ができる。

 それと同時に、彼女は娘への信愛も持ち合わせている。嘘はつかない。

 けれど、問われなかったことや、言わなくてよいことは言わない。娘を守りつつ、自分が追い詰められたときの逃げ道を、最低限残していたのだと、私は読み取った。


 娘を売ってはいない。ただ、娘のために、自分を危険に晒すことはない。

 そういう人だ、と理解する。批判ではない。


 調書の最後には、聴取官とマダム・ローラン本人の署名が並んでいた。


 私は綴りを閉じ、娘の手紙を思い出した。

 お礼を述べたところ、マダムからこう言われた、と娘は書いていた。


「王家の公式記録だけを証言した。私のスケジュールに隙がなかったことも、あくまで『記録の範囲』でお話ししただけです、と」


 記録の範囲、とは、言わなくてもよかったことは言っていない、ということだ。当時は深く考えなかった。今、調書を読んだあとでは、その重みがわかる。

 手紙には、さらにこうあった。


「マダムは、当時、私と親しいお嬢様方が何人かいらしたこと、もしその方に何かを頼むようなことがあれば、記録上は私にアリバイがあっても、別の手が動けた可能性はあります、と。ただ、その点は問われなかったので申し上げなかった、とおっしゃっていました」


 問われなかったから言わない。記録上は娘に隙はなかった。それ以上は、彼女には分かりかねる、とでも言うのだろう。その言い方に、逃げ道を残した計算と、それでも娘を陥れなかった選択が、同時に見える。

 娘を守る気持ちは本物だった。そのうえで、自分が責められない線も引いていた。それでいい。結果として、娘に有利な証言をしてくれたことには変わりない。


私は次の綴り——宰相閣下の聴取記録——に手を伸ばした。

お読みいただき、ありがとうございました。

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