8.それはレジェンド棋士の棒銀の様な破壊力で
「羽生さん……今日も一緒に食べないか」
脱衣将棋で負けた翌日、そう彼女に話しかけた。こうした方が女子グループのハメ手計画も前倒しになるだろうという考えからだ。
向こうはこちらが羽生飛鳥に惚れていると確信した後で『え〜生理的に無理なんですけど〜。ぷークスクス』とかやる計画だろうしな。
まあ、本当なら今すぐに告白するのが一番早いのかもしれないが、一ヶ月くらいは友達関係のままで様子を見るつもりだ。
『弄ばれた事にショックを受けたふりをして休学』
という俺の計画を不自然にしない為にはもう少し時間をおいた方が良いだろうしな。
あと、すぐに告白する事で『深浦は短絡的かつ惚れっぽい節操なしだ』なんて舐められるのは気分が悪いし。
「いいの?嬉しい。すぐ準備するね」
と言うわけで、現在はそんな双方の思惑が入り混じった恋愛頭脳戦の真っ最中なのだが、彼女はそれをおくびも出さず、ぱっと花が咲いた様な顔で笑う。
……とんでもない演技力だな。
俺も対局中のポーカーフェイスには自信がある方だが、この分野で彼女に勝つのは中々に難しそうだ。
そうして向かった部室にて、昨日同様に対面し昼飯を食べる。前日同様、俺は惣菜パンだ。
「深浦くんはパンが好きなの?」
「違う、消去法。両親が共働きでね」
その上しけた金額しか昼食代を渡してくれんのだ。
なので現在は通学路から近い24時間スーパーで登校がてら最安値の惣菜パンを買い、差額をポケットナイナイするようにしている。まあ、仮に沢山渡されても同じ様な食生活をしてそうな気もするが。
「そうなんだ、ウチも共働きだよ」
「それにしては羽生さんの弁当は彩り豊かだな。ウチの両親にも見習って欲しい」
弁当代の値上げ交渉をした際は、『文句があるなら自分で作れ、そちらの方が安くなるだろ』と突っぱねられたからな。
ウチの親には自分が作ると言う選択肢がないのだ、怠け者め。
「あー……これ、実は私が作ってるんだ」
見習うべきは俺だったか。
こりゃあ一本取られたぜ。
「そうなのか。凄いな」
「あ、あのさ。良かったら明日から……私が深浦くんの分も作ってこようか、なーんて……」
「え、なんで?」
「え!?あー、えっとね、深浦くんはプロなのに、昨日無償で指導対局してもらってるから……何かお礼をしたいなって……思ったんだけど」
ダメ?と上目遣いに見つめられる。
はい可愛い!
「ダメなわけないじゃん。嬉しいよ」
「そう……よかった」
はい可愛いぃー!
オーバーキル、オーバーキルです!
悲しいかな恋愛経験ゼロのDT。
冷静に考えれば俺を惚れさせるための演技に決まっているのに、頭がフットーしてつい勘違いをしそうになる。
しかしまあ、演技だとしても美少女の手料理を食べられるなんて中々レアな経験だな。
そして、昼の食費が浮くのも大変ありがたい。
この時点で俺にとって良過ぎる条件なのだが、せっかくだしダメ元でもう一つ交渉してみる事にした。
「じゃあ、代わりに弁当食べた後はまた将棋を指そう。貰いっぱなしじゃ俺も申し訳ないしね」
「え?!」
そう、恩きせがましくリターンマッチを申し込むのである。モノは言い様だ。
本当は勝ち逃げされるのが嫌だからという理由で、こちらがお願いする立場なんだけどね。
なにせ、大きなハンデつきとはいえその条件を提示したのは彼女の棋力を見抜けなかった俺。
そして、負けは負けだ。
今後、深浦の将棋は大したことなかったとか吹聴されちゃたまらんから、同じ条件で一回位は勝っておきたい。
逆に、六枚落ちハンデで俺が勝てば相手のプライドをズタボロにした上での口止めになるはずだ。
「君の手作り弁当と俺の指導対局。それで等価交換ってわけさ、対等だろ」
「等価交換?……その二つだと流石に釣り合いが……」
やだ、私の将棋の価値、低すぎ!?
羽生飛鳥のセリフに内心凹んでいると、彼女はううん、と軽く首を振り何かを思い直す様子を見せた。
「わかった。美味しいお弁当作ってくるね」
よっし!通った!
「じゃあ、食べ終わったら昨日と同じルールで『脱衣将棋』といこうか」
「ええ?!脱ぐルールも昨日のままなの?」
「ああ、だって指導対局なんだから価値のあるいい経験をしてもらわないとね。そして羽生さんはまだ真剣勝負の経験が少ないだろう?」
ちょっと強引な理屈だけど……どうだ?
「う……わかった。勝てばいいんだもんね、よろしくお願いします」
よっしゃ、言ってみるもんだな。
これで彼女に多少なりともプレッシャーを与える事ができる。
なにせ六枚落ちのハンデは大きいからな、相手にミスさせないと俺に勝ちはない以上、精神的に動揺する要素は多い方がいい。
彼女の指し筋や癖は昨日で大体掴んだし、今日は華麗にリベンジじゃい。
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15分後、昨日同様にパンツ一枚になった雑魚がそこにはいた。
「ま、負けました……」
即ち俺である。くそ、もう少し向こうにミスが出ればワンチャンあるんだが……
(そうだ、明日からは対局中に囁き戦術も試してみようか。)
おねーさんかわいいねグヘヘ、みたいな下手な褒めセリフを言って動揺させるのだ。まあ、言う俺の方にも多少のダメージが入るかもしれないがね!




