9.それは絶対許さないリストに名前が入る様な屈辱で
昼、羽生飛鳥と一緒に過ごす様になってから二週間が経過した。
ちなみに、教室の机にレコーダーを忍ばせる事も続けている。
まあ、初日に
『なんで飛鳥が深浦を誘ってるんだよ!おかしいだろ!』
『別に何でもいいじゃん。きっと面白くなるから、二人の事は黙って見守ってなよ』
『そうか……わかったぞ。ははは、面白い事考えるじゃないか』
『ご想像にお任せするけど、邪魔だけはしないでよね』
って会話が録れて以降、成果はないんだけどな。
とりあえず今回の件は女子グループ主導で橋上達は蚊帳の外とわかっただけでも収穫だ。
そんな訳で、最近は二人で部室へ行き、だべりながら飯を食べ、将棋を指す毎日。
「……負けました」
「あ、危なかったー」
残念ながら脱衣将棋では未だ一度も勝てていないが、以前よりはチャンスがある様に思う。
俺の根本的な棋力が伸びたというよりは、彼女の指し手の癖や思考パターンがわかってきたのが大きい。対局中の表情から、色々と読み取れるようになってきた。我が棋風、『恋愛流』の面目躍如だな。
「もう、対局中にこっちを見ながら囁いてくるのはズルイよ」
向こうも、こちらに慣れてきたのか口調が少々気やすい。連敗している事で舐められているのかもしれないが。
「いや、『今日も駒の持ち方綺麗だな』とかただの事実で感想じゃん。それくらい別に良くない?動揺する程の事でもないだろ」
赤面する羽生飛鳥。
いかん、怒らせてしまったか。
脱衣将棋なんてもうやめる、とか言われたら堪らないから、「ごめんごめん、今度からは静かにするよ」と謝り、いつも通り上着を脱いで盤駒を並べ直す。
2局目の準備だ。次こそは勝つ。
「……深浦くんはさ、なんで将棋をはじめたの」
「始めた理由?」
そう決意を固めていると、向こうも駒を並べ直しながらそんな質問をしてきた。
漫画とかならここでドラマチックな過去編の一つでも始まるんだろうが、そんなものはない。
「試しにやってみたら他の事よりは得意だったからかな」
実に浅い理由だ。
身体が小さくスポーツが苦手で、音楽や絵もダメだったが故の消去法である。
「じゃあ、プロを目指した理由は?」
「別に嫌いでもなかったからね。将来、嫌いじゃないことで食っていける様になれば上等かなって考えた」
「じゃあ、その目標が達成出来た今も毎日頑張っている理由は?」
「それは……」
ちょっと言葉に詰まる。
男としてどうせやるならタイトルを沢山とって時代を代表するナンバーワン棋士に?
いや、柄じゃないしそれがメインじゃない気がする。
そういう気持ちだってもちろんあるんだけど、ちょっとフワッとしすぎてるし先の長過ぎる話だ。
なら、今の俺のモチベーションになっているのは……ああ、そうか。
「勝ちたい相手がいるんだよね」
そう言いながら思い出すのは、一年と少し前に行われていた三段リーグの事だ。




