4. それは名人の遺した名言で
陽キャグループからタゲ取りしたあの日からはや三日。ワクワクしながら登校を続けていた俺に何があったかと言うと……
何も無かった!
畜生、意気地なし共め!
いや、この二日ほど遠巻きに見られているような感じはするから、アイツら的には『クラスからハブり、孤立させてやったぜ』ってつもりなのかも知れないんだけどね。
しかし、俺の感覚的には以前と何も変わらない。
元々、クラスメイトと休み時間に喋ったりとか殆どしてないしな。学校に友達と呼べる様な相手は元々いないし、こちらから誰かに話しかけた事なんて皆無と言ってもいい。
いやー、アテが外れたわ。
上履きに画鋲を仕込まれたり、机に葬花を置かれたり、黒板に誹謗中傷を書かれるくらいじゃないと不登校の理由としては弱いだろう。少なくとも、ウチの親は許してくれない。
でもまあ、仕方ない。
自分では良いと思った一手に、相手が予想と違う手を返して不発に終わる事なんて将棋では日常茶飯事だしな。
これも一局ってやつだ。
なので今まで通り、普通に通学しながら将棋の勉強に取り組もう。てなわけで、丁度今から昼休みだし部室で一人飯しながら対局アプリで……なんて事を考えていると女子から話しかけられた。
「あ、あの……深浦くん!」
先日、嘘告白させられそうになっていた羽生飛鳥だ。
「どうしたの?」
「昨日はごめんなさい」
そう言って頭を下げる羽生。律儀だな。
「いや、別にいいよ。あと、俺も君には少し言いすぎた」
「ううん。そんなことは、全然……」
「……」
「……」
そこで会話が止まった。
いやいや、どーすりゃいいのこれ?対局中って10分が一瞬で溶けるのに、この沈黙は10秒でも異様に長く感じるぞ。えーっとえーっと……
「じゃあまあ、お互い頭を下げた事だし後腐れなく和解という事で」
「え、えっと……はい」
流石俺、上手くまとめた!
この件はこれで終了です。対局ありがとうございました。
「ふ、深浦くん。もし良かったら……これから一緒にお昼食べませんか」
何でだよ!?
声は上げなかったが、内心が顔に出ていたのだろう。
先日の事を反省すると共に、キチンと叱ってくれた俺と仲良くなりたいのだと説明された。
いや、俺としてはヘイトスピーチのつもりだったのにそんな上手い話ある?まるで説教おじさんが若い子に惚れられるような非現実的な話というか……
そんな事を思いつつ周囲に目をやると、彼女に近しい一軍女子達がチラチラこちらを見ているのに気づいた。そして、隠している様だがその内一人の口元には笑み。
OK。
なるほど、完全に理解した。
つまり、このファッキンビッチ共は、俺とチェリーパイの投げ合いをしたいってわけだね。
きっと、こうやって俺を羽生飛鳥に惚れさせた後で『ぷークスクス、なに本気にしてんの』って笑い者にするつもりなんだ。
なんて事を思いつくんだろう、性格が捻じ曲がってるとしか思えない。
だが……いいぜ。
その策に乗ってやんよ。
予めネタが分かっていれば、決して悪い話じゃないしな。
見方をかえればタダでクラス一番の美少女と疑似恋愛できるようなもんだし、最終的には弄ばれたショックで学校に行けなくなりましたって流れにもできる。
読み切ったぞ、羽生飛鳥とその仲間たち。
このゲームの勝者は……俺だ!
「いいよ、でもクラスでは人目があるから別の所へ行って食べようか」
将棋界には様々な格言がある。中でも俺が好きなのは、事前準備の大切さを説いたこの言葉だ。
『勝負は、始まる前についている』
こんな事もあろうかと、ポケットに用意しておいた小型ボイスレコーダーのスイッチをオンにする。そして、昼食を取り取り出すタイミングで鞄に仕込むと彼女を連れ立ち教室を出た。
いじめの証拠なんて、なんぼあってもええですからね。




