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将棋は恋愛流、恋は泥沼流 〜深浦邦雄の盤外戦術〜  作者: いのりん


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2.それはハメ手を正しく咎めればこちらが良くなるという発想と少し似ていて

 駅から学校へUターン。

 完全に無駄な時間だ。


 まるで『手損』だな。


 基本的に棋士は手損を嫌う、対局では基本的に自分から攻めてペースをにぎりたいからだ。まあ『一手損角換わり』といってあえて手損して相手から攻めさせて後の先を狙う、誘い受けみたいな戦法もあるんだけど……っとまた思考が将棋に逸れてるな。


 また何かすっぽかさない様、生活モードに切り替えねば。


 さっさと教室に入って……ん?


 なんか、中からウェイウェイした感じの声がする。基本的に隠の者が多い将棋会館ではまず聞く事が無い様な、陽キャ集団の声だ。


「やっぱり悪いよ、嘘告白なんて……」

「飛鳥は真面目だなぁ、ちょっと夢見させて『罰ゲームでした』って言えば終わる話だろ?」


 どうやら、男女の一軍グループが放課後合同で遊んでて、その罰ゲームで嘘告白するって流れになったらしい。


「本当にあるんだな、こういうの……」


 ラノベみたいなシーンを目撃したことに、思わず呟く。どうせ大した事のない話題だろうしさっさと教室に入ろうと思っていたが、野次馬根性でちょっとだけ静観することにした。


 ちなみに、罰ゲームを受けることになっているのは羽生飛鳥。顔もスタイルも良いから女子の一軍グループにいる女だが、たぶん彼女、自己主張が弱くて周りの空気に流されやすいタイプだ。


 よく見てるなって?

 そうだよ、俺はクラスの連中の人間関係や性格については普段から結構よく見てるんだ。


『将棋は対人ゲームだ。だから日々、身近にいる相手のことをよく観察しておけ』


 って、師匠から散々言われてきたからね。


 将棋には、ひたすら最善手を追求するタイプと勝利を追求するタイプがいるんだけど、俺や師匠は後者だ。


 理論上は最善手を連発すれば勝てるんだけど、人間にそれは不可能だという事を俺はよく知っている。

 で、劣勢な場面から相手のミスを誘う『勝負手』を通すためには『挑発に熱くなりやすいタイプ』とか『ここ一番では臆病』とかっていう人となりを見抜くのが大切になるのだ。ここの嗅覚というか勝負勘的な物には、実はちょっとだけ自信がある。


 ちなみに、そうやって盤上真理よりも相手の事をしっかり考えて対応していく気風を将棋界では『恋愛流』と言ったりもする。恋と同じで、将棋も相手への理解と駆け引きが結構大事なのだ。


 つまり俺は中々の恋愛巧者なのかもしれない......まあ、年齢=彼女いない歴なわけですが!


 閑話休題。


 さて、そんな俺だから分かるがたぶん羽生飛鳥はこのまま押し切られるだろうな。

 しかしまあ、自分には全然関係のない話だ。


「じゃあ、深浦邦雄あたりにしとく?」


 なんですと!?

 嘘告の相手として俺の名前が出てきたぞ。

 めっちゃ関係ある話やんけ!


「いいんじゃない?普段から大人しいし、変に騒ぐタイプでもないでしょ」


 ぐぬぬ、確かに俺は学校では、というか将棋界でもあんまり目立ってないけどさぁ……舐められてるのがちょっと悔しい。


 だが、待てよ?


 男子陽キャグループの面々は軽いゲーム感覚みたいだが、これって俺が被害者ヅラして騒ぎ立てれば『イジメをうけた』みたいな感じにできるんじゃなかろうか……そういえばちょっと前にそういう話をカクヨムで読んだ気がする!


 俺は学校を休む口実ができてラッキー、ムカつく奴らは問題になってざまぁ、乗り気でない羽生飛鳥はちょっと可哀想な気持ちもするが……まあ強く反対してる訳じゃないし自己責任という事にさせてもらおう。


 もしかしたら彼女、そこから罪悪感を拗らせて俺への恋愛感情が芽生えたりしてな……なんていうのは、流石に虫の良すぎる話か。


 なんて事を考えているとーー


「いや、アイツはやめて村上にしとこう。何となくだけど深浦は腹に一物抱えているというか……性格が悪い気がする」


 そんな事を言う奴がいた。

 発言者はグループのリーダー格、橋上だ。


 失礼な!

 なんて事を言うんだ君は!


 心の中で異議を申し立てるが……


「ハッシーがそういうなら、まあ」

「確かに、村上君にしといた方が無難かもね」

「じゃあ、その方向で詰めていこうか」


 そういう流れになってしまった。

 嘘告白の相手……俺じゃないんかい!


 なんてこった、これじゃどうやっても被害者ムーブが……どうやっても?いや、待てよ……


 要は、『俺に非がない状態で学校を休める理由』ができればそれでいいんだから、嘘告白されること自体は必要条件じゃないんだよな、うん。


 そんな事を考えていると、『せっかくだし村上君と数日付き合ってからネタバラシする方向で〜』みたいな所まで話が進んでいた。勝負手を放つなら、きっとこのタイミングだろう。


 読みは浅い見切り発車だけど、将棋で培ってきた直感的にはたぶんいける……踏み込んでみるか。


「待てよ、お前ら」


 教室のドアを開けると同時にそう言い放つ。

 部屋の空気が固まったのがわかった。

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