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将棋は恋愛流、恋は泥沼流 〜深浦邦雄の盤外戦術〜  作者: いのりん


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17/21

16.それは局面を悲観的に見ている時のような心境で

 気が付いたら普段、羽生飛鳥と合流する時間から30分ほど過ぎていた。

 どうやら俺は、将棋部の部室で小一時間ほどのたうち回っていたらしい。


「我ながら結構な重傷だな......萎えるわー」


 中学生プロ入りを逃した時のような、中々にダウナーな気分で下駄箱へと向かう。

 今日は1人で帰宅だな。

 それでいいし、それがいい。今までが異常だったんだから。


 だと言うのに


「あ、深浦君今帰り?」


 なぜか羽生飛鳥が下駄箱にいる件。


「なんでいるの?」

「なんでって……最近はいつも一緒に帰ってるじゃない……だめ?」

「いや、ダメじゃないけど」

「よかった」


 ちくしょう、可愛いなぁ。


「もしかして、ずっと俺を待ってた?」

「う、ううん全然!いや、ちょっとだけ待ったけど、ちょっとだけだよ!」


 目を泳がせる羽生飛鳥。

 そして俺は知っている、ちょっとと言ってはいるが、実際のところ彼女、小一時間ほどこの場にいたはずだ。


 何故だ?なぜ俺を待っていた?

 俺に恋愛感情はないはずなのに。


 そこから共に帰路につき、彼女の他愛のない話に相槌をうちながら難解な一手について考える。

 いや、考えるふりをしていた。


 本当は分かっている。

 先程、橋上が言ってたじゃないか。


『罪悪感でいつまでも深浦を構ってやる必要はないんだよ』


 そう、きっとこう言うことなのだ。


 当初、俺をゲームで惚れさせるつもりだった羽生飛鳥。その後、何かのきっかけでそれは人倫にもとる行いだと思いなおし反省しゲームは中止。しかし、もう俺との関係ができておりゲームだったと言い出すこともできず、律儀な彼女は罪悪感からズルズルと今の関係を続けてしまっている。


 先程聞いた話と矛盾しないし、まず間違いないだろう。

 現状把握はできた。


 ただ、問題がある。

 俺はここから、どう動くのが最善手なんだ......?


 将棋でいうと、前例から外れて難解な中盤戦に入った時の様な状況だ。

 つまり、どう指せばいいか分からない......なら、いったん整理してみよう。


 まず当初俺は彼女のことを利用し、傷心の演技をして学校を休むつもりだった。

 が現状の優先度は低いのでそれは一先ず置いておく。


 現在の彼女には悪意がなくて反省している以上、彼女を追い込むようなムーブをしようとは思わない。恋愛対象にはなれなかったが多少は親しくなったと自負しているし、いい夢も見させてもらったしな。トータルで言えばプラスの経験をさせてもらったと言える。


 そして次、俺は羽生飛鳥に好意を持っていたが失恋した。


 ならば、彼女の事を考えると早く俺の方から距離を取って解放してやるべきだろう。

 口惜しいが、今日中にでも。ただし、俺が今回の裏事情に気付いたことを悟られず、できるだけスマートな形でだ。


 なんてことを考えていると、あっという間に駅についてしまった。


(いかん、考慮時間がたりない)


 なんて思っていると


「えっ、深浦さん」


 そこで通行人の女性から声をかけられた。

 そうですよー、と生返事しながら思考に没頭する。


 そんなことよりも、うーん、何かいいきっかけはないものか……

 状況をもっとシンプルにするような……


「わあ、お久しぶりです。私の事おぼえてま……って!誰ですかその隣にいる女の人!?」


 うるせえ!

 そしてなんでもっと複雑な状況を被せてきちゃうんだよ!?

 そして誰だよあんた。


 と、そこで気付く。


 話しかけてきた相手には見覚えがあった。

 有名人ゆえに帽子と眼鏡で変装している様だが、俺には分かる。

 何度も夢に見た声と顔だったから。


「小手指……アリス……」


 どうして、彼女がここに?

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― 新着の感想 ―
盛 り 上 が っ て ま い り ま し た。 物語と言う盤面に上がるならば、「対戦相手」との邂逅は必須。初手、挨拶。またの名を宣戦布告。この一手が世界の命運を分ける──!!
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