# 第六話 ## 「陽菜の秘密」
# 第六話
## 「陽菜の秘密」
それから数日後。
湊は以前よりも机に向かう時間が増えた。
落選の悔しさは消えていない。
むしろ今でも胸の奥に残っている。
だが。
その悔しさを原稿へぶつけていた。
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「ここはこうした方がいいな……」
「主人公の感情が足りないか」
「もっと苦しませるか」
独り言を呟きながらキーボードを打つ。
少しずつ。
本当に少しずつだが。
前へ進んでいた。
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ただ一つ。
気になることがあった。
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陽菜が来ない。
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公園へ行ってもいない。
ベンチにもいない。
三日。
四日。
一週間。
姿を見せなかった。
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「何かあったのかな」
湊は不安になった。
連絡先も知らない。
住所も知らない。
知っているのは名前だけ。
それなのに。
気づけば会いたくなっていた。
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ある日の夕方。
いつもの公園へ向かう。
誰もいないベンチ。
その上に一冊のノートが置かれていた。
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「これ……」
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表紙には小さく名前が書いてある。
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**『陽菜』**
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湊の心臓が跳ねた。
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中を開く。
そこには日記が綴られていた。
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『十六歳』
『作家になると決めた』
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湊は目を見開く。
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『絶対に夢を叶える』
『私の物語で誰かを笑顔にしたい』
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ページをめくる。
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『十七歳』
『新人賞落選』
『悔しい』
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『十八歳』
『また落選』
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『十九歳』
『また駄目だった』
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『二十歳』
『苦しい』
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その文字だけが大きく書かれていた。
紙が少し滲んでいる。
涙の跡だった。
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湊はページをめくり続ける。
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『二十一歳』
『諦めたくない』
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『二十二歳』
『もう一回』
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『二十三歳』
『もう一回』
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『二十四歳』
『もう一回』
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何ページも。
何ページも。
同じ言葉が続いていた。
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『もう一回』
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『もう一回』
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『もう一回』
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湊の目頭が熱くなる。
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自分だけじゃなかった。
苦しんでいたのは。
何度も負けていたのは。
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陽菜も同じだった。
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そして。
最後のページ。
そこには短い文章が残されていた。
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『もし誰かがこの日記を読んでいるなら』
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湊の呼吸が止まる。
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『私は夢を叶えられなかった』
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胸が締め付けられる。
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『だけど後悔はしていない』
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『本気で挑戦したから』
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『本気で泣いたから』
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『本気で笑えたから』
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そして。
最後の一文。
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『だからあなたは諦めないで』
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『私の分まで』
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ページはそこで終わっていた。
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風が吹く。
公園の木々が揺れる。
夕日がノートを照らしている。
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湊は唇を噛んだ。
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「陽菜……」
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声が震える。
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その時。
ノートの間から一枚の写真が落ちた。
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若い女性。
笑顔。
白いワンピース。
どこか見覚えがある。
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写真の裏を見る。
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そこには日付が書いてあった。
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**『七年前』**
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「え……?」
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湊は固まる。
七年前。
写真の女性は今の陽菜と全く同じ姿だった。
変わっていない。
一歳も。
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あり得ない。
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そして写真の下には。
小さな文字。
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**『享年二十四歳』**
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その瞬間。
湊の全身に鳥肌が立った。
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頭が真っ白になる。
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享年。
つまり。
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「亡くなってる……?」
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あり得ない。
何かの間違いだ。
そう思いたかった。
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だが。
その時。
背後から聞き慣れた声がした。
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「見つけちゃったね」
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湊はゆっくり振り返る。
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夕日に照らされながら。
陽菜が立っていた。
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いつもの笑顔で。
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だけど。
どこか寂しそうに。
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「ごめんね」
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風が吹く。
桜の花びらが舞う。
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そして。
陽菜は静かに言った。
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「今まで黙ってて」
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湊は言葉を失う。
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目の前の少女は。
一体何者なのか。
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## 次回予告
### 第七話
**「君は誰なんだ」**
明かされる陽菜の正体。
なぜ彼女は湊の前に現れたのか。
そして彼女が本当に伝えたかった願いとは――。
「私はね、ずっと待っていたんだよ」
涙の真実が夜空の下で語られる。
物語は大きな転機を迎える――。




