# 第四話 ## 「才能の壁」
# 第四話
## 「才能の壁」
「書き直しです」
黒川から送られてきたメッセージ。
それが三回。
五回。
十回。
気づけば二十回を超えていた。
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「またか……」
湊は机に突っ伏した。
仕事から帰宅。
夕食。
風呂。
そして深夜まで執筆。
毎日その繰り返し。
睡眠時間も減った。
休日も消えた。
それでも。
作品は完成しない。
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「このシーンの感情が弱いです」
「主人公の行動に説得力がありません」
「読者が続きを読みたい理由が足りません」
黒川の指摘は的確だった。
悔しいほどに。
だから反論もできない。
「俺って才能ないのかな……」
思わず呟く。
その瞬間だった。
スマホが鳴る。
黒川からだった。
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『明日、文学新人賞の授賞式があります』
『よければ見学に来ませんか?』
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湊は少し悩んだ。
だが返信した。
『行きます』
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翌日。
会場は想像以上に豪華だった。
スーツ姿の人々。
出版社関係者。
記者。
作家たち。
その光景だけで圧倒される。
「場違いだな……」
小さく呟く。
すると。
黒川が近づいてきた。
「ちょうど良かった」
「え?」
「紹介したい人がいます」
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会場の奥。
一人の青年がいた。
年齢は二十五歳ほど。
整った顔立ち。
穏やかな笑顔。
そして。
周囲の人間が次々と話しかけている。
人気者だった。
「彼は神崎玲司」
黒川が言う。
「今年の大賞受賞者です」
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湊は息を呑んだ。
神崎玲司。
今、最も注目されている新人作家。
デビュー作は大ヒット。
映画化も決定。
誰もが羨む存在だった。
「初めまして」
神崎は笑顔で頭を下げた。
「神崎玲司です」
「山城湊です」
握手を交わす。
その手は優しかった。
だが。
湊の胸は苦しかった。
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自分と同じくらいの年齢。
なのに。
手の届かない場所にいる。
努力の差か。
才能の差か。
分からない。
ただ一つ言えることは。
今の自分では絶対に勝てない。
ということだった。
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授賞式が始まる。
神崎が壇上へ上がる。
会場から拍手。
スポットライト。
祝福。
憧れ。
全てを受けていた。
そして受賞スピーチ。
神崎は少しだけ考えてから言った。
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「僕は特別な人間じゃありません」
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会場が静かになる。
「何度も落選しました」
「何度も諦めそうになりました」
「才能がないと思った日もあります」
湊は顔を上げた。
神崎は続ける。
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「でも」
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その声は力強かった。
「才能がある人だけが夢を叶えるなら」
「僕はここに立っていません」
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湊の心が揺れる。
神崎は笑った。
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「夢は才能だけじゃ届かない」
「続けた人だけが見られる景色があります」
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拍手が起きる。
大きな拍手。
だが。
湊は拍手できなかった。
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悔しかった。
眩しかった。
羨ましかった。
そして。
苦しかった。
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帰り道。
夜の公園。
いつものベンチ。
そこに陽菜が座っていた。
「おかえり」
「……ただいま」
湊は隣に座る。
しばらく無言。
そして。
ぽつりと言った。
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「俺、才能ないかもしれない」
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陽菜は驚かなかった。
ただ静かに聞いていた。
「今日、天才を見た」
「勝てる気がしない」
「努力しても届かない気がする」
声が震える。
情けなかった。
でも止まらなかった。
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すると。
陽菜は空を見上げた。
夜空には星が輝いている。
「ねえ湊」
「ん?」
「星ってさ」
「?」
「一番明るい星だけ見てたら、自分が暗く見えるよね」
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湊は黙る。
陽菜は続けた。
「でもね」
「?」
「昨日の自分と比べたらどう?」
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その言葉に。
湊は息を止めた。
昨日の自分。
一年前の自分。
三年前の自分。
夢から逃げていた自分。
諦めていた自分。
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今の自分は。
少しだけ前へ進んでいる。
まだ小さい。
まだ弱い。
でも。
確かに進んでいる。
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陽菜は笑った。
「才能の壁を見つけたんだね」
「……」
「それって成長した証拠だよ」
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風が吹く。
木々が揺れる。
夜空の星が瞬いた。
湊は小さく拳を握る。
まだ苦しい。
まだ悔しい。
だけど。
少しだけ。
本当に少しだけ。
前を向ける気がした。
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## 次回予告
### 第五話
**「初めての敗北」**
新人賞へ応募した湊。
だが結果は――落選。
心を折られる現実。
そして明かされる陽菜の意外な過去。
「負けることは終わりじゃない」
夢を追う者に訪れる最初の大きな試練――。




