# 第三話 ## 「最初の一歩」
# 第三話
## 「最初の一歩」
面談当日。
湊は駅前のカフェの前に立っていた。
心臓がうるさい。
手のひらには汗。
何度も深呼吸する。
「帰りたい……」
本音だった。
だが帰れなかった。
ここで逃げたら。
きっと一生後悔する。
そんな気がしたからだ。
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店内へ入る。
窓際の席。
一人の男性が手を挙げた。
「山城湊さんですか?」
「は、はい!」
慌てて頭を下げる。
男性は笑った。
三十代後半くらい。
眼鏡をかけている。
穏やかな雰囲気だ。
「初めまして。編集者の黒川です」
「よろしくお願いします」
席に着く。
コーヒーが運ばれる。
しかし味なんて分からない。
緊張でそれどころじゃなかった。
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黒川は鞄から原稿を取り出した。
湊が三年前に書いた小説だった。
見た瞬間。
胸が締め付けられる。
忘れたかった過去。
諦めた夢。
全部そこに詰まっていた。
黒川は静かに言った。
「まず結論から言います」
湊は息を飲む。
「この作品は面白いです」
「……え?」
思わず聞き返した。
「面白いです」
黒川はもう一度言った。
「だから連絡しました」
湊の心が揺れる。
初めてだった。
面白いと言われたのは。
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だが。
次の言葉が続いた。
「ただし」
その一言で空気が変わる。
「今のままでは売れません」
「……」
「厳しいことを言います」
黒川は真っ直ぐ湊を見る。
「文章は未熟です」
「構成も甘い」
「キャラクターも弱い」
「このままでは読者に届かない」
一つ一つ。
胸に刺さった。
痛かった。
だが。
不思議と嫌ではなかった。
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なぜなら。
黒川の目は真剣だったから。
見下していない。
馬鹿にしていない。
本気で作品を見てくれている。
それが分かった。
「じゃあ……」
湊は震える声で聞く。
「駄目なんですか」
黒川は首を横に振った。
「逆です」
「え?」
「伸びる可能性があるから呼びました」
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その言葉に。
湊の時間が止まる。
可能性。
もう聞けないと思っていた言葉。
黒川は続ける。
「才能はあります」
「でも才能だけでは足りない」
「努力も必要です」
「勉強も必要です」
「書き続ける覚悟も必要です」
そして。
黒川は笑った。
「やれますか?」
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その質問は。
人生を変える問いだった。
逃げることもできる。
諦めることもできる。
今まで通り生きることもできる。
だけど。
湊の頭に浮かんだのは。
公園で出会った少女だった。
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『苦しいなら、まだ終わってないよ』
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あの言葉。
あの笑顔。
あの日の風景。
全部が背中を押した。
湊は拳を握る。
震えていた。
怖かった。
でも。
逃げたくなかった。
「やります」
黒川は黙って聞いている。
湊はもう一度言った。
今度はしっかりと。
「やります!」
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黒川が笑った。
「その言葉を聞きたかった」
そして鞄からノートを取り出す。
分厚いノートだった。
「これから厳しくなりますよ」
「覚悟してください」
「はい!」
「何度も書き直します」
「はい!」
「心が折れるかもしれません」
「はい!」
黒川は頷いた。
「それでも前へ進みましょう」
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面談が終わる。
外へ出る。
夕日が街を染めていた。
世界は何も変わっていない。
だけど。
湊の中では確かに何かが変わっていた。
夢が。
また動き始めたのだ。
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その帰り道。
公園を通る。
陽菜がいたベンチ。
だが姿はない。
少しだけ寂しくなる。
すると。
ベンチの上に紙が置かれていた。
一枚のメモ。
そこには綺麗な字で書かれていた。
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**「最初の一歩、おめでとう」**
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湊は目を見開く。
「陽菜……?」
周囲を見渡す。
誰もいない。
風だけが吹いていた。
そして紙の裏には。
もう一行。
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**「でも、本当の試練はこれからだよ」**
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湊はまだ知らなかった。
夢を追う道の先に。
大きな挫折が待っていることを。
そして。
陽菜に隠された秘密を――。
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## 次回予告
### 第四話
**「才能の壁」**
書いても書いても認められない。
努力しても届かない。
初めて知る“才能の壁”。
そして湊は自分より遥か上を行く天才作家と出会う――。
「努力だけじゃ勝てないのか?」
夢を追う者たちの戦いが始まる。




