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【書籍化予定】継母になった嫌われ令嬢です。お飾りの妻のはずが溺愛だなんて、どういうことですか?  作者: 石河 翠
第二章

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 久しぶりに四人で食べた昼食は、とても楽しいものだった。ずっと部屋の中にいたので気分転換も必要だろうと、庭で食事ができるようにされていた。日本と違って、木陰にいれば夏の時期でも心地よい風が吹き抜けていく。


 病み上がりであるアンナを慮ったのか、あっさりとした味付けのものが中心となっている。まだ若い秋人や子どものエドワードには物足りないのではないかと心配になったが、本人たちは自分たちが調理に携わったからなのか順調に食べ進めているようだった。


 エドワードと同じくらいの頃の秋人は、作るだけ作ってあとは放置。あくまでブロックや粘土遊びの延長のようなもので、料理は楽しんでもその作成物には興味を持っていなかった。けれどもともとの気質なのか、年上のお兄さんである秋人が平らげているからなのか、エドワードも一緒に野菜を食べていることがなんとも微笑ましい。


 そんな秋人は、先ほどアンナに自分の気持ちを吐露したことで何かがふっきれたのか、ずいぶんと素直に自分の気持ちをエドワードに伝えていた。


「どうした? なんか嬉しそうだな?」

「あのね、父さまがまた旅行に行こうって。今度はね、湖よりももっと大きな海を見にいきたいな。お船も乗ろう。アッキーも一緒に行くよね? お星さまもたっくさん見れるんだって」

「うーん、そうだな。もう一度、また誘ってくれるか。でも俺、忘れっぽいから、今の話とかいろんなこと、まるっと覚えてないかもしれない。でもそれは、お前のことが嫌いになったわけじゃないからな。ただ、ちょっと、いろいろな事情で忘れちゃったってだけだから。俺がなんのことか尋ね返しても、泣かずにちゃんと誘えよ」

「アッキー、なんでそんなにあやふやなの?」

「年をとると人間は忘れっぽくなるって聞いたことないか?」

「あ、ジムがそんなこと言ってたよ!」

「だろ。俺も忘れっぽくなって、もしかしたらいろんなことを忘れてしまっているかもしれないけれど、でも、誘ってくれたらきっと喜ぶからさ」


 秋人は現代日本から魂だけやってきて、イーノックの身体に入り込んだ存在である。その事実をエドワードにも、ウォルトにも伝えていない。ウォルトは多少なりとも事情を把握しているような気もするが、エドワードは秋人のことをあくまで高熱で記憶喪失になってしまったのだと認識している。


 もしも秋人の魂が現代日本に帰ったとしたら、おそらく本来のイーノックの魂がこの身体に帰ってくることになる。その時、エドワードが懐いた秋人はもういない。イーノックは、エドワードにとって姿かたちはそっくりな他人となってしまうだろう。それでもイーノックは、きっとエドワードのよき友人になると信じている。だからこそ秋人は、エドワードにまた自分に声をかけてくれと頼み続けたのだった。


 エドワードにくどいほど同じ内容を繰り返していた秋人は、今度はウォルトに話しかけていた。どう考えても侯爵さまに話しかけるような雰囲気ではない。どうにもにんまりとした、悪ガキという言葉を彷彿とさせている。思わずアンナが声をかけようとしたところで、エドワードがあっという声を上げて、アンナの手を取った。


「アンちゃん、ちょっと来て!」

「テッド? 今は、食事中だから急に席を立っては」

「あれ、カブトムシでもいた? じゃあ急がなくっちゃな」

「この時間帯にはいないだろう。エドワード、食事中だ。座りなさい」

「違うの! トカゲがいたの! トカゲが空飛んでたの! 早くしないと逃げちゃう!」

「あ、待ちなさい! 申し訳ありません、ウォルトさま。すぐに戻ってまいりますので」

「わたしも行こう」

「いえ、お食事が冷めてしまいますので」


 大慌てでエドワードを追いかけ始めたアンナの後ろ姿を、ウォルトが見つめている。そんなウォルトに、にやにやとした笑みで秋人が話しかけた。


「俺、応援してるから。ちゃんとうまくやってよ」

「急にどういう風の吹き回しだ」

「なんかお世話になったし、あと普通にちょっと可哀想だから協力するわ」

「はあ?」

「だってこのままだと一生気が付かなそうだし。あのさあ、あのとんでも女ブライスがさ、自分の姉の結婚を応援すると思うか? 思わないよな? 絶対足を引っ張るに決まってるじゃん。あいつほど、他人の不幸は蜜の味って感覚で生きている奴はいないって。それなのに、なんであんたは結婚指輪を用意するときに、本人に聞かずに実家からもらった情報を信じたんだよ」


 そこで、アンナが結婚指輪をしていない理由にようやく合点がいったらしい。ああと言って頭を抱えたウォルトを見て、秋人は機嫌よさそうに話を続けた。


「あのひと、めっちゃ鈍いから。今の感じだと、永遠に気持ちが伝わらないって」

「は、何を言って」

「身体の関係から始めるとか、絶対にやめた方がいいよ。貴族たるもの婉曲的に伝える者、直接言葉にするのは野暮とかいう考えは捨てなよ。そんなことをしたら、普通に性欲処理か、子どもを産む道具として見られているんだなって勘違いするだろうし。もう馬鹿みたいにはっきり、あなたを愛している、幸せにするから一生そばにいてくれって言うべき。断られても、泣いてすがればすぐ情に流されるから」

「ああ、ああ。まったく本当にその通りだな! 礼など断じて言いたくはないが、助言感謝する」


ウォルトが珍しく行儀悪く、手元のナイフを握りしめている。秋人はそんなウォルトの顔を見て、してやったりとばかりに片目をつぶってみせた。しばらくしてアンナとエドワードが戻ってきたときには、ふたりは和気あいあいと食事を進めていたため、特に喧嘩など勃発しなかったようだとアンナはほっとしていたのだった。


 ちなみにアンナとエドワードは、空飛ぶ竜とやらを見つけることはできなかった。


「おかしいな。池の方に飛んでいくところまでは見えたんだよ。絶対に見間違いなんかじゃなかったのに」

「それじゃあ、捕まえるつもりはありませんよって気持ちを込めて、仲良くなれるようにしてみる?」

「うん! そうしてみる!」


 そういうわけで池のほとりのガゼボには、一杯の白ワインと一皿の鶏肉のポワレが置かれたのである。

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