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第六話 入学式

ここ、聖トルネソル王国では、齢12の子供を集めて才を見出し、専門的な教育を施す機関が存在する。

その名も『聖トルネソル王立学院』。王都ヘキサの外れにあり、設備、土地、教員、何から何まで全て一流が揃う超名門学院だ。

全ての貴族と、優秀な才を認められた一部の民が共に過ごし、そこでの成績で将来の全てが決まると言われている。


そんな王立学院では、只今入学式が執り行われている最中。院長、国王からの祝辞、国歌斉唱、各種科目の教諭からの挨拶があり、遂に目玉である新入生の魔力検査が行われようとしていた。

聖トルネソル王立学院の入学式には、毎年この魔力検査を見る為に国中の有力貴族が集う。将来有望な若者を自分の陣営に引き込もうと目を光らせ、お互いを出し抜かんと睨み合うのだ。


そして今年も去年と同じように、多くの貴族の視線の中でその儀式は執り行われる。会場が暗くなり、舞台に巨大な魔道具が運び込まれる。

緊張と静寂が会場を支配する中、進行の合図により一人目が壇上に上がった。


彼の名は、『オーリオン・ピヴワヌ・トルネソル』。この国の第一王子であり、最も将来を期待された天才。

誰もが固唾を飲んで見守る中、彼は右手を魔道具に翳す。

直後、赤い光が彼の指を抜け、会場を広く照らしあげた。


その光の強さには誰もが感嘆を上げ、王国の安泰を信じざるを得なかったという。



しかし唯一人、場違いにも彼を睨み付ける不届き者が一人。


メアリー・ヴィオラクィラ。忌むべき黒髪を持ち、公爵位の継承権を持つ娘。

彼女はその悪い目付きを更に歪め、唯一人太陽の如き彼を呪っていた。




そう、奴こそが、『救国の聖女』メインヒーローである、『白薔薇の王子』オーリオンである。婚約済みの身でぽっと出の平民に浮気をし、ゲームで婚約者だった私を幾度となく殺してきたクソ野郎。

私はその無駄に綺麗な面にグーパンチを叩き込みたい衝動に駆られながら、壇上の奴を睨みつけていた。

検査が終わり、奴は指定席に移動する。次の子供が魔力光を発生させるが、奴には届かない。そんな様子を奴は、興味無さげに眺めている。


(その高く伸びた鼻っ柱叩き折ってやりたい)


生憎私の身分では心の中で悪態をつく事しか出来ない。


……と、間もなく私の番だ。一つ前の娘の青い魔力光がゆっくりと消える。それを見届けてから、私はゆっくりと壇上に上がった。




壇上に上がったその黒髪の娘を見て、幾人かが小さく悲鳴を上げた。娘は冷たい眼差しを会場に向け、そして鬱陶しげにひと睨みしてから魔道具に向き直り、その精密な星に手を翳した。


途端、辺りが紫紺の闇と見紛う光に覆われる。その光景に心の弱い幾人かは恐怖のあまり失神する程だった。

何処かで誰かが呟く。奴は『邪なる漆黒』だ、と。

恐怖と緊張で満たされた会場で、先程彼女が王子にしたように、今度は誰もが彼女を呪う。

王国に災いを運ぶ魔女。地獄からやってきた悪魔を。

しかし、会場中の敵意を浴びながらもメアリーは淡々と儀式を終わらせ、自らの指定席に戻って行った。




「国王陛下、あれこそが例の宰相の娘です」


この会場の、誰もがあの娘を恐れる。

しかし、私は冷静に娘を観察する。

元々噂には聞いていたのだ。今更黒髪如きでは驚かんが……


「闇の魔力……それも特大か」


「はい。伝承に当てはめればあの娘は……」


「ふん、伝承など当てにしてたら今まで何度国が滅んでも足らん……とは、言いきれんほどの魔力であった」


「では、如何なされますか」


逸る貴族共の望みは察するまでもない。国王の名において、娘の断罪を、叶わなければせめて暗殺を望んでいるのだろう。宰相が来る前に許可の一言が欲しいのだろう。

周りの貴族共はまだかまだかと私の決断を急く。

だが


「あの娘と、オーリオンを婚約させよう」


「!?」


「何と!」


「私の決定だ。これは神命と等しい事と思え。くれぐれも、分かっておるな」


有無を言わせぬ。神の血を濃く受け継ぐ私が神の名において決定を下したのだ。貴族共に文句は言えぬ。


殺して、無くしてしまうなんて勿体無い。あの恐ろしくも特上の魔力、我が覇道に利用しない手は無かろう。


「案ずるな。権力、そして義務の首輪をはめてやろう。我が国を守護する番犬に仕立て上げてやろうではないか。なぁ?クレイモンよ」


貴族共がギョッと目を見開く。ふふ、周囲が釘付けでは無いか。妬いてしまうぞ?栄ある宰相閣下よ。


「有り難き栄誉でございます。国王陛下」


「期日は貴様の娘の十五の誕生日までだ。怠るなよ?問題があれば貴様の娘とて無事には出来ん」


「ええ。我が娘、必ずや我が国を護る礎にしてみせましょう」


……いい笑顔をするではないか。

私はクレイモンを隣に呼び寄せる。そして私達の未来に比べればとても小さく可愛らしい光を共に眺め、語らいながら残りの式を楽しんだ。

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