第11話 親睦を深めて
第二編第三話目です。今回は完全にまったり回です。
「あぁ、いいお湯だったな。雪月くんもよくあたたまれたかい。」
「一応のんびりできて良かったです。」
「それなら良かったさ。ガイドブック漁っていろいろプランを考えた甲斐があるもんだ。」
あの温泉の後、たぶん5こか6この温泉を廻っただろうか。ハル先輩のチョイスはどれも絶妙であり、どこも満足のいくものだった。
そんなことをしていたら、いつの間にか時計の針が6時を指していた。
「まずい、早く帰らなくてはな。」
「え、あのハル先輩。」
よいしょっといった頃には、雪月は自転車の後部にすわらされていた。
「雪月くんは走るの遅いからな。しっかり掴まってね。」
いやいや、いつの間に借りたんですか…。
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「おっ、雪月くんたちが見えてきたよ。」
「遅いぞ、ハル。」
ホテルの入り口付近にはすでに時沢先輩と秋月先輩が立っていた。
「30分も遅れてるよ。雪月くんしっかりハルを連れてこないとだめじゃないか。」
「本当にすいません…。うちのハルがしっかりしてなくて。」
「あの、子供じゃないんだけど」、と後ろで時沢先輩に絞られている人の声が聞こえたような気がしたが、聞こえなかったことにしよう。
「夕飯でも食べようか。ホテルの食堂で食べられるらしいし行ってみよう。」
秋月先輩はお腹を空かせているのか足早にホテルの中へ進んでいく。
「いてててて。本当に悪かったから、時沢さん勘弁してくれ。」
「後輩に迷惑をかけないの。それに観光地で自転車二人乗りするってどういうつもりなのかな。問題になったらどうするつもりなの。大体ハルくんは上級生としての心構えとかが足りないんだから。それに…。」
背後では時沢先輩の説教が延々と続いている。痛い目にあってるハル先輩を見るのは少し気分がいい。
「もうそのくらいにしといていいよ心。あとでハルにはきちんと話しておくから。」
会長モードで話す秋月会長の言葉からは覇気が発せられており、やや恐ろしい。
食堂に着くとそこはバイキング形式だった。
「机は窓際をとっておいたから。じゃあ自分が食べたいものを各自で取ってこようか。」
会長のセリフを契機に皆それぞれ料理の方へと向かっていった。料理はいろいろな種類があり、西洋風のグラタンやパン系の料理、和食系のごはんや寿司、うどんなど、それに地元料理が並んである。
これは僕が結構信じていることなのだが、ネットの記事にバイキングでとった料理で人のなんとなくの性格がわかるというものがあった。例えば、時沢先輩のトレーを見ていると、魚やお肉のほか、サラダなどで色彩が鮮やかになっている。日ごろから整理整頓とかが得意でかつ几帳面な彼女らしい。一方でハル先輩のトレーは、肉が多めになっている。何かに偏って選んでしまうというのはなんとなく特徴的な彼に似ているように思える。僕の妹の雪乃もハル先輩と似たような取り方をする。雪乃の場合はデザートばかりだが。
「人のとった食べ物を見て、何を考えているのかな。」
気づかぬうちに、秋月先輩が隣に立っていた。
「君も信じているのかい。あの人が選んだ料理で性格がわかるというやつ。」
「先輩も知っているんですか。」
「あぁ、知っているさ。それは私の書いた記事だ。」
いったいどんなことまでしているのだろうか。本当に秋月先輩を読み解くのは難しい。
先輩のトレーをみてみると、サラダが多めになっていて、肉は含まれていなかった。確かこれは記事上では健康に気をつける姿勢が見られ、自己管理がしっかりできていて、また控えめな性格をあらわしていると書いてあった覚えがある。
「ははは、食べ物、どれを取ったからといってそんな簡単に人間の性格が読めることないさ。私の記事など気にするな。あれは思いつきで書いたものだからね。よく私はそういうことを書いて投稿するのさ。」
「そ、そうですか…。」
そんなことを話しながら席に着く。
「じゃあ、とりあえず乾杯。」
乾杯とみんなで続ける。
「雪月くんはそれにしてもすぐ馴れるのが早いね。そもそも今回の旅行来ないと思ってたよ。まだそんな話したこともないしね。」
「いや時沢先輩、それは誤解ですよ。」
そう誤解である。正直言って断わろうとしていたが、断りに行く時にはすでに予約されていたのだから。
「ハルくん…。」
「まぁ、らしいっちゃらしいな。」
この二人ももうすっかり慣れてしまっているようだ。自分もこうなるのだろう。
「楽しけりゃ結果オーライさ。」
「まぁ、その通りですけど。」と言いつつも、心の中で自分でいうことじゃないとハル先輩につっこむ。
「これおいしいですね、りーちゃんもどう。」
「じゃあせっかくだしもらおうかな。」
「いいなぁ、僕もほしいな。」
「ハルさんは自分で取ってきてくださいね。」
「はい…。」
そんな会話をしながら、ゆったりとした夕食の時間を過ごし、皆食べ終わる。
「じゃあ、今日はこのぐらいにしとこうか。僕は疲れたし、自室で本でも読むさ。何か用でもあればよんでくれ。」
そう言って、ハル先輩は部屋に戻っていく。
「私もそうしようかな。なんだか電車の疲れが出てしまったみたいだし。また明日ね、心、雪月くん。」
「おやすみなさい、秋月先輩。」
秋月先輩が戻るのをみた後、自分たちも部屋に戻ることにした。
「お疲れ様、雪月くん。ハルくんはどうだったかい。」
時沢先輩はソファーに座り、観光雑誌を片手に尋ねてくる。
「頼りなかったところはありますが、先輩なりに気を遣ってくれていることはわかりました。」
温泉の合間に雪月がハル先輩の持っていた雑誌が落ちていたので拾おうとした時、そこにはおびただしい数のふせんが貼られているのを見た。
「それ、中身を見たかい。」
「いや、見てないです。たぶん旅行雑誌だと思います。先輩、本当かどうかは知りませんが、来ノ﨑のこと最近ずっと調べていたようなんで。」
そういうと、時沢先輩はそうか、そうかといいながら自分のバッグのところへ行き、一冊の本を持ってきた。
「中、開いてごらん。」
そういわれたので、中をのぞくと、ちょうど1年前のまだ高2だったころの三人の姿が写真に写っていた。
「これは何ですか。」
「これはね、広報部の去年の記録だよ。去年もこの時期にこの3人と先輩で旅行に行ったんだ。」
ペラペラめくると、ハル先輩のピース写真や、食べた料理、お寺の風景、見渡せる海の風景、電車の写真、伝統芸能の写真などたくさんのものがあるのがわかる。
「これに写っているところのほとんどはハルくんが企画してくれたものなんだ。」
「先輩が…ですか。」
「そうだよ。」
時沢先輩は懐かしそうにアルバムを眺める。時に説明を加えながら紹介をしてくれる。そんな先輩の顔を見ていると、なんだか寂しくなってきた。
「この写真はハルくんがずっと行きたがって……。雪月くん、どうかしたかい。」
なぜだかはわからないが、自然と頬に涙が流れていた。時々あることだ。どうやら人より涙もろいらしく、自分はよく感情移入を激しくする傾向がある。
「すいません、なんだか先輩の顔見てたら涙がでてきてしまって…。」
別に自分のことでもないのに…。そんなことは分かっているのだが。
「君は優しいんだね。私の悲しさを伝えてしまったようだな。」
そういうと、時月先輩は椅子を寄せる。
「まだ眠くないのなら聞いてくれるかい。なぁに、大した話じゃないさ。ただの思い出話なんだけどね。」
(続く)




