第10話 旅行楽しむ先輩と疲れる後輩
第2編の第2話です。今回はまったりした雰囲気でお送りしています。
お楽しみいただけると幸いです。
第10話
「今からどこに向かうんです。ハル先輩。」
「とりあえずホテルかな。荷物起きたいしね。」
確かにみんな3泊4日というだけあって、荷物が大量である。女子2人の荷物はドライヤーや化粧道具など身だしなみを整えるものでカバンが2つになってしまっている。ハル先輩はなぜかは知らないがカバン4つ持っているのだが。
「ハル先輩、そのカバンの中身なんですか。」
雪月がそう尋ねると、
「秘密だよ、秘密。」
本当に秘密なことばかりだ、この先輩怪しすぎる。
「あ、時沢先輩と秋月会長がいない…。」
振り返ると二人の姿が消えている。
「先輩、あの二人いなくなっているんですけど大丈夫なんですか。」
前方へ向き直ると、ハル先輩は名物の温泉卵に並んでいた。
「雪月くんもいるかい。ここの温泉卵はかなり美味しいってグルメ本に載っていたぞ。」
本当に自由人ばかりだ。残り3日間大丈夫なのだろうか…。
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その後一行は2時間かけてホテルへ到着した。
「どうしてあの後すぐホテルに直行すると言ったのに、先輩達はすぐに通り沿いにある売店に寄ってしまうのですか。あなたたちは本当に高3なんですか。」
「あの、ごめんね。本当に、そんな怒らないでくれよ。」
とハル先輩。
「つい美味しそうだったから…。おなかも空いていたし。」
と秋月会長。
「そういう雪月くんも、来ノ﨑名物の栗羊羹おいしそうに食べてたじゃん。隠れてこっそり食べてたの見たよ。ついでにホテルで食べる用のスナックを買ってることも。」
と時沢先輩。見られてしまっていたのか、完全に工芸品に夢中になっていると思ったのに。この先輩だけは侮れない。
「あらあら、雪月くんも楽しんでるようで。そんなにえらそうにしていいのかしら。どう思います、ハル。」
「おやおや、雪月くん。自分だけ偉そうにしていたけど、君も楽しんでいるじゃないか。」
こいつら…って思いつつも何も言い返すことが出来ない。
「まぁ、雪月くんが一番しっかりしていたのは確かだけどね。私もちょっと工芸品に夢中になってしまったし…。」
少しフォローをいれてくれる時沢先輩。この先輩3人の中で今しっかりしているのはこの人だろう。
「まぁ、とりあえず早く部屋に入ってしまいましょう。荷物重いし、邪魔だしね。」
そういって、ハル先輩がホテルのフロントに手続きを取りに行く。
「今回の旅行のリーダーは雪月くんだね。しっかりしている後輩でよかったよ。理香とハルは旅行に行くと毎回、こんなんだからいつも疲れて終わっちゃうからね。今回は任せたよ。」
「そんなこといいながら毎回心も楽しんでるくせに。あんまり私たちのネガティブキャンペーンをしないの。」
大丈夫です、時沢先輩。もうなんとなく察してます。
にしても秋月先輩は本当にオンとオフで性格が反転するようだ。学校の中ではもう非の打ちどころがないような感じを醸し出しているのに、今日は普通の少女といった感じだ。
「なんだか会長って学校にいる時にはとにかく凄いって思いましたけど、オフの時こんなに変わるんですね。」
時沢先輩に会長に聞こえないように耳打ちすると
「理香もいろいろあるのよ。まあジキルとハイドみたいな。」
と言われた。完璧超人はそういうものなのだろうか。
とそこで、
「はいはい、手続き終わったよ。ルームキーは、これが僕の分。で、これが美香の分。最後にこれが時沢さんと雪月くんのね。」
「じゃあさっそく荷物置きにいこうか。」
「そうですね。早くみーちゃんとも温泉回りたいですし。」
二人が背伸びしながら立ち上がり、部屋に向かうのを見ながら雪月は思考を整理していた。
「時月先輩と自分が同じ部屋……。えっ、えええ。」
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「なかなかいいホテルだね、窓から見える景色もなかなかなものだ。…おーい雪月くん、ドアで突っ立てないで早く荷物置かないのかい。」
あ、そうですね。と言うものの、半ば放心しつつ返事をする。
どうしてこの組み合わせになったのか。普通なら男子二人か、女子二人でこの部屋を使うべきではないだろうか。
部屋割が終わった後、ハル先輩の下に訪れ、そのように文句を言うと、
「まぁ、あれだよ。親善交友みたいな。女子二人にしてもよかったんだけど、せっかくだしね。それとも時沢さんのことどうしても雪月くんが嫌で仕方ないというのなら、本人に言って変えてもらいな。」
この先輩は鬼なのだろうか。そんなこと言えるわけないのを知っててこんなことを言うのだから、本当にタチが悪い。
「もうわかりました。ハル先輩は一人部屋で悠々と過ごしてください。」
と言って、思いっきりドアを閉める。あれ、これなにか既視感が…。
そんなこんなで今に至る。はぁ、もう仕方ない。とりあえず今日はこれで乗り切るとしよう。荷物を整理して…。
「雪月くん浴衣あるけど、部屋には男性用170cm以上のものしかないけど大丈夫かい。」
「……。フロントに行って160のものに取り換えてきます…。」
どうして今日はこんなに災難続きなんだ…。いっそ来なければよかった…。
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「支度は終わったかい。みんな揃ったようだし、温泉にでも向かいますか。」
「そうですね。じゃあ男女別行動ってことで。」
「夕飯までには戻ってきてね。」
「了解です。いくよ、りーちゃん。」
ホテルのロビーで男女に別れて、女子達は観光街方面へ行く。
「僕たちは先に温泉に行こうか。」
「わかりました、先輩。」
「とりあえずこの観光ガイドブックに載ってるこの温泉に行きたいんだよね。効能が冷え症と肩こりにいいらしいし。」
「先輩って冷え症だったんですか。了解です。」
地図を見るからに先輩が行きたいのは峠温泉というところらしい。
「にしてもいい景色だね、さすがは観光都市を名乗るだけあるようだ。この硫黄臭も温泉ならではって感じで。ここを選んで最高だったな。」
辿り着いたばかりでまだ温泉も入っていないのに、本当に陽気な先輩だなだと少し呆れつつも、周囲の町はなかなか好ましい雰囲気であるのを感じ取る。
「お、あれか。やっと辿り着いたようだ。早く入ろうじゃないか。」
峠温泉は設備がしっかりしていた。たまに古い温泉だとまったく手入れされてないようなところもあるが、そんなことは全くなかった。
「ふぅ。気持ちいいな。早く雪月くんも入りたまえ。」
「わかってますよ。もうあんまり早くせかさないでください。」
文句を言いながら、雪月も温泉に入る。お湯は白濁としていて肌にもよさそうだった。
「ここはあとであの女子二人にも教えてならねばならぬな。」
ハル先輩は頭にタオルを乗せて、ごくらくごくらくと呟きながら目をつむっていた。
「あんまり入りすぎて湯あたりとかしないでくださいよ。ここでなったら大変なことになりますからね。ホテルからも若干距離あるんですし。」
「さすがに高3だよ。そのくらいのわきまえくらいできてるさ。」
そりゃ普通の高校3年生ならそうだけどと思いつつ、どこかしらハル先輩を気にしてしまうのは自分が優しいからであろうか。
「なぁ、雪月くん。せっかく二人きりでようやく落ち着ける場だ。少し深い話をしないか。」
「……深い話ですか。」
「そう、君も少しは気になっていないのかい。僕がどうして高2をこの部活にいれなかったのか。」
その疑問は雪月が広報部に初めに入るときに疑問に思ったことだった。ただその時はクラス制作の件が急に始まってしまったため、このことに関して聞く機会を完全に聞きそびれてしまってしまい、今まで疑問のまま残ってしまっていた。
「確かに気になっています…。教えてください。」
「やだ。」
予期しない即答に混乱する。
「それは秘密だね。今回の旅行ではそれを見つけなさい。それが今回の君の活動さ。今は温泉タイムだからゆっくりしていいけどね。あぁ、気持ちいいなぁ。」
絶対にこの活動、成功させてみせると堅く誓う雪月だった。
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(時沢心の視点)
「今回のお遊び旅行だけど、本当にこのこと言っていいの、りーちゃん。」
「いいんじゃない。ハルがそれを使って試しているんだし。」
理香はすっかり旅行を満喫しているというような顔からいつもの会長の顔に戻り、私の方へと振り返る。
「次期広報部を引き継ぐものとして知っておく義務がある。それを知らないままでは痛い目にあうだろうし、それを聞いてどうするのか知っておきたいしね。」
そういうと、理香は再び旅行にもどり、
「逃げることなんかしないさ。最後の学年ということだし。あの子には申し訳ないけれどね。それよりあそこの店行くよ。」
過去を振り返る。それに意味があるのかどうかなど尋ねるのは愚問であろう。それなら私も理香に協力しなければ。
私はともに常に戦い、正し、間違い、そして傷つくのを望んだのだから。
(続く)




