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第12話「装備集めという名のデート」

「――来月、年に一度のクラス対抗フラッグバトルを行う」


朝のホームルームで、霧島先生が黒板に大きく文字を書いた。


「来月、学園の広大な演習場を使い、実践形式の集団戦を行う。目的はフラッグの奪取。勝敗はフラッグを奪取するか、戦闘可能な生徒が全滅するかで決まる。各自にダメージ判定装置を装着し、戦闘の可否を判定する。能力の使用は自由だが、装備は各自で用意すること。防具でもコスチュームでも構わん。実用性があればな」


教室が、ざわっと沸いた。


「燃えてきた! クラス対抗なら、あたしの出番だな!」


茜が拳を握りしめる。


「楽しそう! 植物さんたちと、たくさんお話しできるかも」


小春は、すでに作戦を考えているらしい。


「準備リストを作ります。必須品、推奨品、不要品に分けて……」


凛は、いつものように冷静だった。


三人の反応を眺めながら、私は頬杖をついて、にこりと笑う。


(……これは、絶好の口実ね)


『絶好の口実? 何をするつもりだ』


(「買い物に行く」って、みんなを誘うのよ。休日に、堂々と四人で)


『……装備は必要だから、そこに異論はない』


(ふふっ。そういうことにしておきましょう)


私は三人に向き直った。


「ねえ、みんな。今度の休み、一緒に装備を買いに行かない? 服も、防具も、コスチュームも。みんなで選んだら、きっと楽しいわ」


「行く!」


「お、おう! あたしも行く!」


「必要なものを効率よく揃えるには、悪くない提案ですね」


三人の返事が、きれいにそろった。


……うん。


これは、いい休日になりそうね。


もちろん、装備選びだけで終わるつもりはないけれど。


     *


そして、ある休日。


休日の駅前は、心地よいざわめきに満ちていた。


夏の訪れを感じさせる、少し汗ばむような空気。


私は待ち合わせ場所に向かって歩いていた。


長く艶のある黒髪が、風にふわりとなびく。


暗めのグレーのニットに、身体のラインを引き立てるタイトスカート。足元はヒールのブーツ。


一歩踏み出すたび、カツ、カツ、と小気味よい音が響く。


すれ違う人たちが、ちらりとこちらを見る。


中には、思わず振り返る人までいた。


『おい、目立ちすぎじゃないか』


(可愛い子たちとのデートだもの。とびきりおしゃれしなくちゃ。それに、私が可愛いんだから、見られるのも仕方ないわ)


『……自分で言っていたら世話はない』


「あら、もうこんな時間」


私は少しだけ足を速めた。


改札の前に、三人の姿が見える。


小春は、白いワンピースを着ていた。袖と裾には、ふわっとしたレースがあしらわれている。


茜は、赤いパーカーにショートパンツ。いかにも彼女らしい、活発な服装だ。


そして凛は、シンプルな青いブラウスにロングスカート。いつも結んでいる黒髪を、今日は下ろしていた。


(……これは)


『顔が緩んでいるぞ』


(なんて素晴らしいの。可愛さと美しさが、同時に襲ってきているわ)


「あ、ミヤビちゃん!」


「お、遅いぞ、ミヤビ!」


「時間には間に合っていますが、待ち合わせ時刻ぎりぎりですね」


三人がこちらに気づいた。


そして――息を呑んだ。


いつも、ちょっかいを出してくる、おちゃらけた美人。


その印象とは違う。


今日は、まるで大人の女性だった。


落ち着いた色合いの服装が、艶やかな黒髪と白い肌を引き立てている。


小春は、目を丸くしたまま私を見つめていた。


(ミヤビちゃん、綺麗……)


茜は、まともに目を合わせられない。


(な、なな……いつもより、やばいじゃねぇか!)


凛は、眼鏡の奥で目を細めた。


(……美しいですね。黙っていれば)


「あら、ごめんなさい。ちょっと気合いを入れすぎちゃったかしら」


私は微笑みながら、三人を順番に見つめた。


「それに、目の前の光景が素敵すぎて、立ち止まっちゃった」


「えっ?」


私は小春の前で足を止め、顔を覗き込んだ。


「そのワンピース、反則。見ているだけで、心臓がうるさくなっちゃう」


「えっ、あ、ありがとう……」


小春の顔が、ぶわっと赤くなる。


次に、私は茜の手首をそっと取った。


「茜ちゃんは、今日も元気いっぱいね」


「お、おう……?」


私は彼女の腕を眺め、それから視線を下げる。


「……足、綺麗ね。細いのに、あんなに力があるんだもの。あぁん、ギャップがたまらないわ」


「なっ、な、何を……! 足、今日は隠したかったのに……!」


茜の耳まで、真っ赤に染まった。


最後に、凛の前で立ち止まる。


「髪、下ろしているのね。初めて見たわ」


「……髪を結ぶのが、面倒だっただけです」


「そう。でも、素敵よ。視線を外せなくなっちゃうくらい」


凛の目が、眼鏡の奥で一瞬だけ揺れた。


「……観察対象が主導権を握るのは、やめてください」


「あら。今日は『観察』はお休みでしょう?」


「……その予定でした」


「なら、今日は私と一緒に楽しみましょう?」


凛は、返事を失った。


(ふふっ。いい休日になりそう)


『……お前は本当に、こういうことになると生き生きするな』


(当然でしょう? 可愛い女の子が三人もいるのよ?)


『……はいはい』


     *


装具店は、駅から歩いて五分ほどの場所にあった。


店内には武器や魔導防具、能力者向けの装備が並び、その一角にはコスチューム風のジャケットや、デザイン性の高い衣服も置かれている。


「わあ……! いろいろあるね!」


小春が、目を輝かせながら棚を眺めた。


「これなんか、どう? 若葉色のポンチョ。小春ちゃんにぴったりじゃない?」


「ほんとだ! かわいい。試着してみようかな」


小春はポンチョを手に取り、試着室へ入っていった。


しばらくして、カーテンの向こうから声がする。


「……ミヤビちゃん。ここ、紐がうまく結べない」


「あら、手伝うわよ」


私はカーテンをそっと開けた。


小春は若葉色のポンチョを身につけ、背中を向けて立っていた。肩の紐が、ゆるく垂れている。


「ここを、こうして……」


私は小春の肩越しに腕を回し、紐を結んだ。


自然と、顔が近づく。


「はい、これで大丈夫。とてもよく似合うわ。こうしていると、ワンちゃんみたいに可愛い」


「……う、うん」


小春の背中が、ぴくんと震えた。


いつもより、近い。


いつもより、暖かい。


(――小春)


試着室の鏡に映る自分の顔が、赤く染まっていた。


ミヤビちゃんとは、隣の席。


いつも、ちょっかいを出されて、笑ってしまう。


それは、友達としてのことだと思っていた。


でも、今日は何かが違う。


耳元に触れた息の感触。


肩に触れた、細い指。


思い出すだけで、胸の奥がぎゅっとなる。


この気持ちは、緊張じゃない。


病気でもない。


「……ミヤビちゃんのこと、私、もしかして……」


そこまで考えて、小春は口元を押さえた。


まだ、言葉にはできない。


でも、胸の奥で何かが変わり始めている。


     *


次は、茜の番だった。


「あたしは、ひらひらしたのは苦手だし。動きやすいのがいいな」


「そうね。でも、この軽鎧風のジャケットはどう? 赤と黒で、炎の能力にも合っているわ」


「う……。まあ、これは確かにかっこいいけど」


茜はジャケットを手に取り、試着室へ入った。


やがて、金属製の肩当てがついたジャケットを身にまとい、姿を現す。


「おお、いいじゃない。似合っているわ」


「そ、そうか?」


茜は照れくさそうに肩を動かした。


そのとき、私は肩のベルトがずれていることに気づいた。


「……あら。ここ、直してあげるわ」


「え? あ、ちょっと――」


私は茜の肩に手を伸ばした。


近い。


とても、近い。


顔と顔の距離が、こぶし一つ分しかない。


「……」


茜が息を止めた。


私はベルトを整え、留め具を確かめる。


「はい、これで綺麗になったわ。とってもかっこよくて、可愛いわよ」


「……」


「……茜ちゃん?」


「……ぼーっとすると、あんた、毎回こうやって……」


「こうやって、って?」


「……近いんだよ。いつもいつも……。無理だ。やっぱ、目を見らんねえ」


茜はジャケットの袖で顔を隠した。


『……お前、少しは加減しろ』


(あら。ちゃんと褒めているだけよ?)


『その結果がこれだろうが』


(褒められて嫌な女の子なんて、そうそういないわ)


『……そういう問題じゃない』


     *


最後は、凛だった。


「これをお願いします」


凛が手に取ったのは、深い紺色のコートだった。


シンプルで、落ち着いていて、余計な装飾がない。


とても、凛らしい。


「試着はします。ですが、感想は要りません」


「あら。変なことを言うのね。感想を言いたいのに」


「……聞いていません」


凛はコートを身にまとい、試着室から出てきた。


着こなしは完璧だった。


ただ、眼鏡が少し曇っている。


「……着てきました。どうでしょう」


「素敵。とても。でも、眼鏡が曇っているわね。拭いてあげる」


「自分でできます」


「まあまあ。少しくらい、いいでしょう?」


私は凛の顔に手を伸ばした。


「ひゃっ……!」


思わず、凛の口から小さな声が漏れた。


私は眼鏡をそっと外す。


――素顔の凛が、こちらを見ていた。


黒い瞳。


長いまつげ。


いつもの眼鏡越しではない、すべてがむき出しになったような目。


「……やめてください。近すぎます」


「もう少しだけ。見せて。こんなに綺麗な目を、ずっと隠していたのね」


凛の顔が、耳までゆっくりと赤くなっていく。


「……ここで結論を出します」


「あら、何かしら?」


「あなたは、危険です」


「どう危険なの?」


「……観察者を、変えてしまう点です」


凛は眼鏡を奪い返し、すばやくかけ直した。


それから、ほんの少しだけ私から距離を取る。


(ふふっ。凛ちゃんも、可愛いわね)


『……お前は本当に、楽しそうだな』


(ええ。とっても)


     *


三人の試着を見届けたあと、私は店内をもう一度見回した。


装備も、それぞれ似合うものが見つかった。


あとは、私の買い物。


(せっかくだし、何か新しい服も買おうかしら)


普段は、身体のラインが綺麗に見える服を選ぶことが多い。


大人っぽく、少し大胆に。


それが、自分の魅力を一番引き出せると知っているから。


けれど、今日は少し違うものが気になった。


店の奥に飾られた、白いワンピース。


ふわりと広がるスカート。


ひらひらとした袖と、柔らかな生地。


胸元には、小さな赤いリボンが結ばれている。


清楚で、可憐で、どこかお人形のような服。


(……こういうのも、たまにはいいかもね)


『お前が着るのか?』


(何よ。似合わないとでも言いたいの?)


『いや、そうは言っていない。ただ、普段の服装とはだいぶ違うな』


(だからこそ、面白いんじゃない)


私は白いワンピースを手に取り、試着室へ向かった。


着替えながら、鏡の前で軽く髪を整える。


黒く艶やかな長い髪。


白いワンピース。


そして、胸元の赤いリボン。


普段の私とは、ずいぶん印象が違う。


けれど、鏡に映る自分を見て、私は満足げに微笑んだ。


(……うん。悪くないわね)


『……なるほど』


(何、その反応?)


『いや。これは、少し面白いことになりそうだと思っただけだ』


(ふふっ。でしょう?)


私は試着室のカーテンに手をかけた。


「ねえ、みんな。ちょっと見てほしいものがあるの」


「ん? 何だ?」


「どうしたの、ミヤビちゃん?」


「……今度は何を企んでいるんですか」


三人の声が聞こえる。


私は、ゆっくりとカーテンを開いた。


「じゃーん。どうかしら?」


一瞬。


本当に、一瞬だけ。


店内の時間が止まったような気がした。


三人とも、何も言わない。


ただ、私を見つめている。


いつもの、少し大人びた色気のある服装とは違う。


白いワンピースが、黒髪の艶を際立たせている。


ふわりとした袖とスカートが、普段よりも柔らかな印象を生み出していた。


胸元の赤いリボンが、白の中で小さく映える。


可愛らしい。


それでいて、目を離せない。


そんな不思議な姿だった。


『……ほらな』


(……何が?)


『面白いことになると言っただろう』


(……ふふっ)


最初に動いたのは、小春だった。


「ミ、ミヤビちゃん……!」


小春は、ぱっと顔を明るくして私に駆け寄った。


「可愛すぎるよ! ミヤビちゃん! いつものかっこいい感じと違って、すっごく可愛い!」


「まあ。ありがとう、小春ちゃん」


「ほんとに可愛い……。なんか、お姫様みたい……」


小春は目を輝かせながら、私のワンピースの裾を見つめている。


その瞳には、隠しきれない憧れが浮かんでいた。


(……あらあら)


小春の反応は、まっすぐで、素直で。


見ているこちらまで、頬が緩んでしまう。


一方、茜はというと。


「……は?」


ようやく出てきた言葉は、それだけだった。


「茜ちゃん?」


「いや……いやいやいや。何だよ、それ……」


茜は片手で顔を覆った。


「いつもの服も、十分やばいのに……。なんで、そっちも似合うんだよ……」


「そっちも?」


「何でもねえ!」


茜は顔を真っ赤にしたまま、そっぽを向いた。


けれど、指の隙間から、ちらちらとこちらを見ている。


(ふふっ。見たいなら、見てもいいのよ?)


「見てねえ!」


「まだ何も言っていないわよ?」


「うっ……!」


そして、最後まで黙っていた凛が、ようやく口を開いた。


「……予想外です」


「あら。どういう意味?」


「普段のあなたは、自分の魅力を理解したうえで、それを意図的に利用しているように見えます」


「まあ。よく見ているのね」


「ですが、その服装は……」


凛は、言葉を探すように視線をさまよわせた。


そして、観念したように小さく息を吐く。


「……いつもとは違う方向から、攻めてきましたね」


「ふふっ。褒め言葉として受け取っておくわ」


「褒めているわけでは……いえ。似合っているとは思います」


最後の一言は、いつもより少しだけ小さかった。


私は三人を見回した。


小春は、まだ目を輝かせている。


茜は、顔を隠しながらも、こちらを気にしている。


凛は、平静を装っているけれど、眼鏡を押し上げる回数が明らかに増えていた。


(……ああ、幸せ)


『……お前、本当に満足そうだな』


(だって、可愛い女の子たちが、私のことを見てくれているんだもの)


『服の感想を聞いただけだろう』


(そうね。服の感想、ね)


私はくすりと笑った。


「ねえ、みんな。このワンピース、どう思う?」


「すっごく似合ってるよ!」


「……似合ってる。すごく」


「……悔しいですが、似合っています」


「あら。三人とも、ありがとう」


私は鏡を見て、もう一度微笑んだ。


「これ、買っちゃおうかしら」


「えっ、買うの?」


「ええ。みんながそんなに褒めてくれるんだもの」


「そ、そういう理由かよ……!」


茜が慌てて振り返る。


「だって、せっかくのお買い物だもの。みんなの思い出に残る服が一着くらいあってもいいでしょう?」


私は三人に向かって、にっこりと笑った。


「それに――また、みんなに見てもらいたいし」


「「「……っ!」」」


三人の顔が、そろって赤くなった。


(ふふっ。買って正解ね)


『……本当に、敵わないな』


     *


一通りの買い物を終え、ランチも済ませたあとのこと。


私たちはゲームセンターに立ち寄っていた。


「取れねえ! この超可愛いクマ、取りたいのに!」


茜が何度も挑戦しているのは、茶色いクマのぬいぐるみだった。


アームが持ち上げても、惜しいところでずるりと落ちてしまう。


「無理ですよ、茜さん。アームの力が弱いのは設計上の問題です」


「ここまできたら、下がれないんだよ!」


茜はガラスに額をつけている。


「もう一回!」


「茜ちゃん、頑張って!」


小春が応援する横で、凛は冷静に分析していた。


「景品の位置を考えると、持ち上げるよりも、少しずつずらす方が……」


「ここは、私に任せて」


私は茜の隣に立った。


「こうして、こう」


後ろからそっと手を重ね、レバーを握る。


茜の背中が、ぴたりと硬直した。


「……茜さん、固まっていますよ」


「だ、だって……!」


「あら。これじゃあ、クマさんが取れないわね?」


私は茜の手を軽く動かし、アームの位置を調整した。


クレーンが下降する。


アームが、ぬいぐるみを引っかける。


そして――


ぽとん。


景品の取り出し口に、クマが落ちた。


「――取れた」


「やったあ! ミヤビちゃん、すごい!」


小春が、ぴょんと跳ねて喜ぶ。


茜は赤い顔のまま、ぶんぶんと手を振った。


「あ、あんた、近すぎ! さっきから、さっきから……!ずっと!」


「あら、ごめんなさい。でも、絶対取りたかったんでしょう?」


「……そりゃ、そうだけど!」


茜はクマのぬいぐるみを取り出した。


しばらく、じっと眺めている。


それから、ちらりと小春を見た。


「……ほら。お前、こういうの好きだろ」


「えっ? 私に?」


「い、いらないなら別にいいけど!」


「ううん! ありがとう、茜ちゃん!」


小春は嬉しそうにクマを抱きしめた。


「大事にするね!」


「……おう」


茜は顔を背けた。


その耳は、まだ真っ赤だった。


私は二人を見ながら、そっと笑った。


(……いいわね。こういうのも)


『……何だかんだ、お前も楽しんでいるな』


(ええ。とっても)


     *


帰り道。


夕焼けに染まった公園のベンチに、私たちは腰を下ろしていた。


足元には、それぞれの装備が入った紙袋やリュック。


そして、私の紙袋からは、白いワンピースの袋が少しだけ顔をのぞかせていた。


「……そういえば」


凛が、ふと口を開いた。


「マヨネーズを買うのを忘れていますね」


「フラッグバトルにマヨネーズはいらないでしょう。いつもの凛ちゃんね」


「……必要な買い物だったのですが」


凛は眼鏡を押し上げ、少しだけ距離を取った。


小春はクマのぬいぐるみを抱きしめている。


茜は、何か言いたそうにこちらを見ては、すぐに視線をそらしていた。


(……楽しい一日だったわ)


『……そうだな。さすがに認める』


(あら、珍しい。あなたが素直なんて)


『今日は、いろんな人の笑顔を見られた。それは、悪くなかった』


(ふふっ。そうでしょう?)


私は夕焼けを見上げた。


今日一日で、三人の新しい表情をたくさん見ることができた。


小春の、まっすぐな笑顔。


茜の、素直になれない照れ顔。


凛の、理屈では隠しきれない動揺。


そして、白いワンピースを見せたときの、あの沈黙。


思い出すだけで、頬が緩んでしまう。


「……あの、ミヤビちゃん」


「ミヤビ」


「……ミヤビさん」


三人が、同時に声を上げた。


そして、同時に黙った。


「あら、どうしたの?」


「「「……何でもない」」」


そう言いながらも、小春と茜の指先が、私の袖をつまんでいた。


小春は右側。


茜は左側。


凛は少し離れたところで、こちらを見つめている。


「……今日は、ありがとう。みんなと来られてよかった」


私がそう言うと、小春は嬉しそうに微笑んだ。


茜は、何かをごまかすように顔をそらす。


凛は小さく頷いた。


それだけで、十分だった。


私は、ゆっくりと空を見上げた。


夕焼けが、少しずつ沈んでいく。


ところで。


公園の遠く、木陰のあたり。


黒髪のボブヘアーをした、地味な影がこちらを見ていた。


『……あれは、生徒会の』


(ええ。今日も「見守って」くれていたみたいね)


私はそちらへ、ウィンクをひとつ。


影は、びくりと跳ねた。


そして、慌てて逃げていった。


(……ふふっ)


今日も、いい一日だった。


そして。


次にあの白いワンピースを着るときは――


今日より、もっと可愛い顔を見せてもらおうかしら。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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