第50話・メルリア人形 爆誕※挿絵あり
シエルはリボンを結っていた。
「うん、出来たわ!」
シエルは作ったばかりのものを大事そうに抱えてメルリアを探す。
談話室を覗くと、昨日帰ってきたばかりのニック、アーノルドとバルドもいた。
メルリアは昨日眠たくて、目を何度も擦っていたことだけしか覚えていなかった。
男爵領の話をようやく聞いた。
「私にくれたクローゼットを見てニックは天才だと思ったの。それでニックが男爵家から帰ってこなかったらどうしようって心配でシエルに頼んで起きていたの!」
ニックの顔が赤くなる。それをニヤニヤしながらアーノルドとバルドがニックを眺めている。
(今回の件で三人は仲良くなったようね。嬉しいけどちょっと羨ましいなぁ)
そこにシエルが現れた。
「シエル、おはよう。手に何か持ってる!」
「お嬢様、皆様、おはようございます」
シエルの手の中には手のひらになりそうな人形が抱かれていた。
「これ、お嬢様に差し上げようと思いまして」
「可愛い〜!!」
薄桃色の髪の女の子。
大きな瞳に丸いフォルム。
よく見たらメルリアが着ているワンピースとよく似ている。
髪は綺麗に編み込まれていて、刺繍入りの青いリボンをつけている。
どう考えても、メルリアそっくりだ。
「シエル、これ私?」
「はい、お嬢様です!」と刺繍入りのリボン以来の弾けるシエルの笑顔。
「お母さん、凄く上手です!」と自分の母に輝かせた瞳で強く訴えるカイル。
(あぁ、二人はやっぱり天使なのー!)
シエルの笑顔とカイルの嬉しそうな顔を見て、全回復するメルリア。
前世二十九歳のメルリアはぬいぐるみの類に興味がなかった。
それは完全な過去となった。
目の前にある、というかメルリアに抱かれている人形は可愛い。
メルリアは浮き足立つのが分かった。
メルリアはアーノルドに両手を伸ばして人形を近づける。
得意げな顔でアーノルドの反応を見る。
「アーノルド様、見てください!」
メルリアは人形の手を手を振るように左右に振ってみる。
「⋯⋯可愛いな」
メルリアはアーノルドから『可愛い』という言葉を勝ち取る。
メルリアはなんとも良い気分だった。
「俺も欲しい」
「「「えっ!?」」」
皆がアーノルドを見つめた。
束の間の沈黙。
「⋯⋯⋯⋯マーラにあげるんだ! ほら、若いのは皆こういうのが欲しいだろ?」
アーノルドらしからぬ発言に愉快そうに噴き出すメルリア。
アーノルドは顔を真っ赤にしている。
周りは鉄壁の笑顔で乗り切ることを決めたようだ。
メルリアはアーノルドの反応に大いに賛同した。
(これなら貴族令嬢たちもメロメロになっちゃうかも)
時々、前世の自分の感覚に戻る。この愛らしい姿が自分ではないような感覚になってしまうのだ。
バルドは気配を消してシエルの背後に近づいた。
「人形は二体でお願いします」と小声のバルド。こっそりシエルに頼んでいた。
メルリアは腕の中に収まっている人形を見ると背中に何か付いていた。
「シエル、この背中についているのは何かしら?」
「それは、豊穣の女神様の翼ですわ」
ニックが大きく頷いている。
メルリアは周りを気にする余裕はなかった。
“豊穣の女神”。
何度か皆から言われて、冗談だと思っていた。
(あれって皆、本気で思ってたの!?)
腕の中のメルリア人形は、メルリアに向かって微笑んでいるようにみえた。




