第46話・うそ、チーズがあるの!?
牛舎では、独特の乾草と家畜の匂いがする。
大きな牛舎は天井が高い。
ロアンも興味深く左右を見渡して歩いている。
そしてロアンは足を止めた。
「これが牛ですか」
初めて見る牛にロアンは言葉を失っている。
身体の大きさからメルリアも驚いていたので、ロアンの気持ちは分かる気がした。
「ロアンさん、牛の背後に来ると危ないですよ。蹴られます」
タンダの忠告に従ってロアンはすぐに移動する。
牛の前まで来ると、顔が見えた。
「意外と可愛い顔をしているんですね」
「そうなの!」
ダナンの姿が見えると、ロアンを紹介する。
ダナンは基本的な牛の世話や牛乳を生産していることを話す。
ロアンは牛の餌や一日のスケジュールなどを聞いていく。
ダナンも見た目のイメージからか上辺のことだけを話していたが、ロアンの要点をついてくる質問に世間話をしているのではないと感じ取ったようだ。
それはこれから新しい商売を始めるパートナーと話をするかのように具体的な話になっていく。
「ダナン、ロアンに牛乳を見せてくれないかしら?」
メルリアの大好きな牛乳。
今は毎日飲んでいる。
背が伸びる予感。
ダナンがコップに牛乳を注いできた。
少し眉を顰めながら受け取るロアン。
メルリアはロアンが確実に牛乳を飲むであろう言葉を掛ける。
「私も大好きなの。毎日飲んでいるわ」
ロアンの目の色が明らかに変わった。
口をコップに付けた。
「⋯⋯⋯⋯思ったより濃厚な味ですね。それでいて、少し甘いです」
メルリアも絶賛する。
牛乳好きが一人でも増えるといいなと、目論んでいるのだ。
「オランでも牛乳は売れるかしら?」
すかさずロアンは牛乳の使える方法を聞いてくる。
さすがはギルド長の息子だ。
商品のことを出来る限り知ってから判断しようというのだろう。
もちろんそのまま飲んでもよし。
他にはスープに出来る。
小麦粉に牛乳と塩胡椒を混ぜるとホワイトソースの出来上がり。
本当はバターがあればいいのだが多分ないだろう。
ホワイトソースならシチューやスパゲッティのクリームソース、それからピザの下準備にも使える。
ダナンは舌を巻く。
「お嬢様はよくご存知ですね。だが牛乳は腐りやすいんですよ」
「あ⋯⋯」
ここでは毎日新鮮な牛乳が朝に届けられていた。
おそらく搾りたての牛乳。
これをオラン町に持っていって売る。
買った人の口に入るまでには時間がかかり過ぎる可能性がある。
牛乳としては持っていくのは良い案ではない。
「ダナンはいつもどうしてるの?」
「チーズにして持っていきますよ」
「チーズ!?」
意外なことにチーズをすでに作っているようだった。
「お嬢様、保存食にしないと商品として売れませんからね」
ダナンはそう言いながら、ほっ、ほっと身体を上下させて笑った。
メルリアは頬を赤くさせる。
「せっかくなのでチーズ作りを見ていきますか?」
「いいの? ダナン、ありがとう!」
メルリアは両手を上げて喜ぶ。
チーズ作りにはタンダとロアンも手伝ってくれることになった。
まずは搾乳だ。
タンダは慣れた手つきで絞っていく。
ダナンはロアンに絞り方を教えている。
手の動きや力の入れ具合を何度も指摘される。
メルリアは牛のお腹を撫でながら「牛さんありがとう」と伝える。
しばらくすると、牛乳は複数の瓶に入った。
皆で抱えて持っていく。
メルリアは重たいので一本だけ。
ダナンとタンダについていくとキッチンにやってきた。家とは違う大きなキッチン。
大きな鍋をコンロの上に置く。
すると持ってきた牛乳を鍋に移していく。
ずいぶん大きな鍋なので牛乳は沢山入った。
小さな火を起こす。その小さな火にメルリアは小首を傾げた。
「ぬるい温度で作りますよ」
木べらで牛乳をゆっくりかき回す。
少しするとロアンと交代する。
鍋に触っても熱くない温度。
「牛乳全体が均一の温度になるように混ぜますよ」
ゆっくりかき混ぜられるのをしばらく見ていると、ダナンが温度を確認した。
キッチンのベンチ台には大きな瓶が置いてあった。
クリーム色の何かが詰まっている。
「ダナン、これは何?」
「レモネの実を熟成させたペーストです。これを牛乳に入れて混ぜます」
「レモネの実!?」
ダナンは説明に困ったように口を曲げた。
「タンダ、持ってきてやれ」
タンダの手には渋い緑色の実がみえた。
大人の手のひらくらいある実。
表面はツルツルと滑らか。
包丁で半分にすると白っぽい果肉が詰まっている。
少し爽やかな酸味のある匂いだ。
「これはレモネの実です」
ダナンが小さなスプーンで少しだけ掬ってくれる。
メルリアは思い切って口の中に入れてみた。
鼻に抜ける爽やかな匂いと少し苦味がある。
(レモンとカボスを合わせたような味がするわ)
「料理にも使ったりしますよ」
ダナンは瓶の蓋を開けた。
瓶の中からも、仄かに爽やかな酸味のある香りがする。
大きなスプーンで何杯がルール掬い入れる。
丁寧にむらの無いように何度もかき混ぜる。
見た目が滑らかになっていく。
牛乳から爽やかな酸味のある匂いが漏れる。
ダナンが一息ついた。
「綺麗に混ぜるのがコツです。ちょうどお昼なので、残りは後にしましょう」
メルリアはいそいそとランチバスケットを取りに戻ったのだった。
チーズ作りの方法はいくつかあるようですが、架空の実であるレモネの実でチーズを作ることにしました(ㆁωㆁ)
次回の二角的イチオシシーンは
「ミニマたちは身体に仲間が触れているのが好きなので、くっついていることが多いです」
丸い軍団がふわふわの毛をなびかせながら小刻みに動いている。
可愛い。
控えめに言っても可愛すぎる癒しの塊。




