第45話・アーノルド、先生になる(本人は凄く得意顔になっていることに気が付かない)
少し話は前後する。
アーノルドの部屋にやってきた。
ニックが簡易的な机と椅子を用意してくれたので、学校のようにメルリアとカイルは椅子に座っている。
「「アーノルド先生」」
アーノルドはちょっと得意気な顔に変わる。
「良い響きだな」
前にカイルが勉強を教えてほしいといっていたので、今日は授業である。
メルリアもカイルも言葉は不自由なく使えているが、文字となると別の話。
メルリアはある程度わかっていたが、『蝶番』や『脱穀』など、生活から離れた言葉では書けないものもある。
それに現世では、あまり字を書く機会がなかったので、文字が歪になる。
今日は『文字と言葉を書こう』の授業なのだ。
二人で文字を書き写す。
メルリアは前世の遠い過去を思い出していた。
(なんだか、学校に戻ったみたい)
隣で悪戦苦闘しているカイルを盗み見ながら、微笑むメルリア。
目の前の文房具に視線を落とすメルリア。
アーノルドは羽根ペンとインク、紙とノートを用意してくれた。
おそらく高いものだろう。
アーノルドは慣れない先生役にぎこちない表情だ。
二人はこの日、文字の練習をすると、バルドにこっそりお願いをした。
「お願いされていた便箋と封筒ですよ」
分厚く格式高い封筒に、滑らかな便箋がやってきた。
「これ高いやつじゃない?」
「気にしなくても大丈夫ですよ」
強面のバルドが朗らかに微笑むので、素直に受け取った。
「バルド、ありがとう」
メルリアとカイルは嬉しそうに持ち帰った。
その夜、食事が終わると皆は談話室に移った。
メルリアはカイルと示し合わせて、あるものを取りに行く。
アーノルドとバルドは無言で見送った。
メルリアとカイルは周りを見渡しながら、談話室に戻ってくると、嬉しそうに駆け寄る。
「シエル」
「お母さん」
アーノルドはがくっと肩を落とした。
バルドがそっとアーノルドの肩を叩き慰める。
「アーノルド様に文字を教えてもらって、お手紙書いたの」
「お母さん、いつもありがとう」
少し頬を赤くして手紙をシエルに渡すメルリアとカイル。
シエルは目を大きくさせて固まった。
「まぁ⋯⋯⋯⋯ありがとう」
優しい手で二人を抱き寄せた。
シエルの目には涙が滲んでいた。
メルリアとカイルは照れた顔を隠すようにシエルの腕の中に顔を埋めた。
「これはこれでいいもんだな」とアーノルド。
「美しい光景ですね」とバルドは返した。
* * *
そのあと、カイルは算数を習っているようだ。
メルリアは計算は知っているので、今日は一人で散歩。
「メルリア様、どうされましたか? ご一緒しますよ」
すぐに一人じゃなくなった。
野菜畑に行くとグルドフが野菜を収穫していた。
「グルドフ、タンダはもう来たのかしら?」
「いえ、まだです」
「そういえば、まだタンダの住む家に行ったことがありませんね」
ロアンは何度かタンダにあってはいたが、実際にどこに住んでいるのか知らなかった。
メルリアは思い出したように、ロアンに話すと牛舎に興味を持った。
牛はどんな動物なのか、牛乳がどうやって作られるのか──。
ロアンは興味深く頷きながら聞いている。
「もしかして、ロアンは牛乳を飲んだことはない?」
「ないっすね」
ちょうどそんな話をしていると、タンダとアルトがやってきた。
二人とも元気に走っている。
するとアルトの少し後ろからアルトより少し小さい犬もやってきた。
小さいといってもメルリアの知っている犬よりはるかに大きいのだが。
「タンダとアルト! それに⋯⋯?」
アルトのつぶらな瞳がメルリアを捉える。
メルリアも嬉しそうに近寄るとアルトの柔らかい毛並みに埋もれる。
「アルト〜」
メルリアは嬉しそうに声を上げながら、何度も撫でる。アルトは嬉しそうに尻尾を振っている。
アルトの隣にいた犬はロアンに近づいた。
顔を舐められるロアン。
「うぇっぷ⋯⋯」
熱烈な歓迎のようだ。
「コルトは女の子なんです」
メルリアは心から納得した。
それにしてもコルトは積極的だ。
ロアンに覆いかぶさっている。
コルトについて聞いてみると、元々野良のようだ。
気がついたらアルトが連れてきたそうだ。
ここ最近はアルトと一緒にいるので、名前を付けたそう。
タンダに牛舎が見たいと伝えると快諾してくれた。
籠いっぱいの野菜だったが、グルドフは引き返した。
そして追加の人参を持ってきた。
コルトも人参が好きなようだ。
アルトとコルトはグルドフに近寄っていく。
二匹は美味しそうに人参を食べていた。
「そうだ、タンダ。これから牛舎を見に行ってもいい? ロアンに見せたいの」
「いいですよ」
コルトがメルリアに挨拶に来てくれる。
顔を擦り寄せ、柔らかい毛がメルリアの手や顔に当たる。
夢中になって、撫でまくる。
コルトは尻尾を勢いよく振っている。
「凄く可愛い〜」
メルリアは顔をコルトの鼻筋に付けた。
その周りをアルトがぐるぐると歩いている。
そしてメルリアはアルトに跨ると風を切って牛舎へと向かっていった。
次回の二角的イチオシシーンは
「チーズ!?」
意外なことにチーズをすでに作っているようだった。
「お嬢様、保存食にしないと商品として売れませんからね」
ダナンはそう言いながら、ほっ、ほっと身体を上下させて笑った。




