第36話・初対面のガルドの息子に仮面がすぐに外れるメルリア
「ロアン、よろしくね」
メルリアは笑みを投げかける。
その笑みは初対面の作りもの。
目の前にやってきたロアンはかなりの長身だ。
柔らかい雰囲気は吟遊詩人のよう。
(この美しさで何人もの女性のハートをグッサグサと刺しまわしているのかしら?)
女たらしには厳しいメルリアである。
それにしてもガルドの息子は、ガルドと正反対のようだ。
ロアンは両手でメルリアの手を固く握った。
「メルリア様の提案した“試食会”は驚愕いたしました! 反響がとてもありましたよ。オランにある三割ほどの大衆食堂の店主を招いて、野菜スティックにマヨネーズをつけて試食してもらったのです。
しかし、非常に気に入った店主たちからマヨネーズを巡って、暴動が起こるところでした。ご覧ください、野菜の売れた先を示した表です。こちらはマヨネーズが購入できる場合、いくらでどれくらい欲しいかまとめた表になります」
メルリアは握手と反対の手で頭を押さえた。
メルリアの仮面の端がめくれた。
情報量が多すぎる。
それに変わっている。
チャラいイケメンなんて決めつけて、よくなかった。
根っからの商人だ。
前回別れ際に、メルリアがガルドへ試食してもらいマヨネーズの反応を見てほしいと告げていたのだ。
(この人は私の発想が気に入ったのね。それなら話は別よ。それにこの話の展開の速さ、嫌いじゃないわ! 表にまとめてくるなんて、有能ね!)
「素晴らしいですわ。私は表が大好きです」
その言葉に電気が灯りそうなほど明るい笑顔だった。
「良かった、それでしたらこの野菜が一番売れたところとマヨネーズの──」
また見切り発車で爆走をしかけるロアン。
「ちょっと待って。私はまだ何も追いついていないわ」
その後もメルリアの発言の端々で着火し暴走しそうになる。
止めてもロアンは話し始めるのだ。
話を聞いてみると、試食を提案しただけなのだが、なぜか大試食会が開催されていた。
町の三割の大衆食堂が参加したというのは、異例中の異例だとガルドが教えてくれた。
それほどまでにロアンには人を集める力があるのだろう。
それにただの試食で終わらず、持っていってもらった野菜は当日に完売。
試食会の開催ほどしかなかったマヨネーズ。
それを次回の購入に繋げてきている。
それぞれの店主に一瓶の希望価格を調査。
また欲しい量まで聞いているので、そのアンケート通りの量を用意してもすべて売れる可能性が高い。
調味ソースというのは一般的に店が各々で作るそうだ。
砂糖や塩、油などは問屋で買うが、ドレッシングや調味ソースとなると、その店の秘伝となる。
だが、“このグルドフ製のマヨネーズは、お金を払ってでも欲しい”というのだ。
グルドフにレシピは聞いていないのだが、マヨネーズと言ったら、卵黄、植物油、マスタードを混ぜてできるはず。
でもマスタードがなかったら、お酢で代用できそうだ。
「グルドフ、マヨネーズは作れそうかしら?」
「少し時間がかかるかもしれません。ソースを作る材料があまり採れないのです」
「そうなのね」
たしかマヨネーズは卵と油とマスタードで作ったことがあるわ。
卵と油はありそうだからマスタードになるものがないのかもしれないわね。
(今度、グルドフに聞いてみよう)
「あの、不躾なお願いで申し訳ありませんが、ロアンをこちらに置いていってもよろしいでしょうか?」
皆の目が点になった。
ロアンは真っ先にアーノルドの前に礼儀正しく立った。
「私、体力はありますので、こき使ってください。じゃがいもの皮むきから、野菜の収穫、荷物持ち、洗濯までなんでも手伝いができます。食費や生活費以上の働きをいたします。メルリア様のために!」
この長髪美形、体力があるらしい。
体力と言ったら、皆筋力にかけてはかなりある方だとメルリアは思っている。
この“なんでもやる”体質は好印象だった。
メルリアがアーノルドをちらりと見ると、“面白い玩具”でも見つけたかのような嬉しそうな顔をしている。
それにしても一言多い。
「メルリアのためだってさ」
アーノルドは楽しそうにメルリアの反応を見ている。
メルリアは頬を膨らませてアーノルドに対抗する。
「私はいいと思いますよ。この資料好きですし」
ロアンは公園にやってきた子犬のように面白いものを探したくて、しょうがないようだ。
「ロアン、早速グルドフの手伝いをしてもらおうか。グルドフ、なんでも手伝わせろ」
「はい、グルドフさんお願いします!」
「⋯⋯じゃあ早速そこの麻袋持ってくれないか?」
ロアンは麻袋を持ち上げる。
重たいのか袋の端は伸びるが、下から持ち上がらない。
「ぐ⋯⋯重たい⋯⋯」
「ロアン、グルドフはその袋を一度に三つは持つぞ。頑張れ」
ロアンは悲鳴を上げながら、グルドフの後ろを覚束ない足取りでついていった。
皆は二人を笑顔で見送る。
「それから領民になってもらう人で大工がおりましたので、先に連れてきました。腕は確かです」
ガルドの後ろから出てきたのは初老の男。
大柄で体幹がしっかりしている。
硬い表情で強面。
“頑固親父”という言葉がピッタリくる。
ニックがその男に近づいてきた。
「ベルン師匠!」
その言葉にメルリアは目を丸くした。
次回の二角的イチオシシーンは
「アーノルド様、強力な助っ人が現れましたね」
「ニックの師匠ということは、相当な腕の持ち主だろう」
「私の家もベルンさんに建ててもらったんです」




