第34話・「アーノルド様は褒められて、満更でもない様子です」的確な翻訳をするバルドは平民出!?
ガルドには伝書鳩を持って行ってもらった。
この場所は覚えているので、ガルドがいる場所を覚えたら行き来が出来る。
ガルドが出発してから三日後に返信が届いた。
おそらく向こうに戻ってから、すぐに皆に掛け合っていたのだろう。
ガルドには余分の小麦を持たせていた。
新しく領民になる人のために、使ってほしい。
水の被害が大きく、穀物も濡れてしまったりしているようで、あまり時間が取れないようだった。
二週間で領民の受け入れとなった。
その手紙にはそれだけではなかった。
「『次に行くときには、息子を連れていきたい』だと」
「ガルド様って息子がいたんですね」
ちょっと意外だった。
いつも眉間に皺を寄せている堅物のイメージがあったので、家族がいるとは思っていなかった。
「俺より年上なんだから、家族くらいいるだろう」
アーノルドはなぜか怒ったように言い放った。アーノルドは、メルリアの言葉からガルドが見た目より若く見えると勘違いしたのだろうか。
(アーノルド様より年上?)
メルリアはガルドとアーノルドは同じ歳くらいだと思っていた。だって髭だし。
「アーノルド様って何歳なんですか?」
その言葉にその場にいたニック、グルドフ、シエルは聞き耳を立てる。
「俺は三十一歳だ。それでガルドは三十八歳」
メルリアは繕うことも出来ずにアーノルドを二度見した。
「えぇ!? アーノルド様って三十一歳なんですか!?」
メルリアは非常に驚いた。
強面のおじさんだと思っていた。
「おい、その反応はちょっと失礼じゃないか?」
「いやだって、顎に髭を蓄えているし、初対面で“髭のおじさん”って自分で言ってたもの!」
「それは社交辞令だろうが!」
なぜかアーノルドは顔を上気させて怒っている。
「社交辞令なの!?」
五歳児の庶子に社交辞令とは、どういうことだろうか。
「アーノルド様はメルリア様の反応に拗ねてらっしゃいます」
的確な翻訳をしてくれるバルド。
そのバルドの存在に心から感謝する。
(あれは、拗ねているの? だって⋯⋯)
メルリアは言い分を探そうとする。
でもよく見ると肌も綺麗だし、皺もない。
ちょっとしたことで、すぐに反応してしまうアーノルドに、納得できる気がした。
でもそうなると、前世の自分とほとんど変わらない。
「アーノルド様は年相応に格好良いと思いますよ」
アーノルドは何か言いたげに口を開いたが、そのまま動かない。
悔しそうに「ふんっ!」と言い残して部屋を去っていった。
「アーノルド様は褒められて、満更でもない様子です」
冷静に観察し、またもや的確に伝えてくれるバルドに感謝するメルリア。
部屋を去っていくアーノルドの耳は少し赤かった。
メルリアのことをなんだかんだ気にしてくれる割に、メルリアの一言に一喜一憂してくれるアーノルド。すごく近くなったように感じる。
それでも可笑しい⋯⋯。
メルリアは盛大に笑ってしまった。
そのうち目尻から涙が溢れそうになった。
* * *
二週間と聞いて慌てたのはニックだった。
二週間と言っても、残り十日。
二階には客室もあるが、修繕が終わっていないところも多い。
「旦那、十日は無理です」
「使えるようにするのは五部屋に絞ろう。それからバルドはニックの手伝いをしてくれ」
「承知しました」
バルドはニックの後ろについていく。
手燭を持って部屋に入るニック。
部屋の中は扉を開けていても薄暗いが、慣れた足取りで板の継ぎ目に近づく。
そこに手燭を近づけると炎が揺れる。
隙間風がある証拠だ。
ニックは指を板の縁にゆっくりと這わせる。
「ニックさん、それは何をしているんですか?」
「これは木の歪みをみています。どんな歪み方をしているか。近くでも同じ歪みが出るのか。隙間風のある傾向を調べています」
バルドも同じように指を這わせる。
それが終わると、今度は金槌と木槌を持ってきた。
先程の隙間風のある板とその周辺を金槌で叩いている。
金槌が木にめり込むところは木が腐っているので、板ごと変える必要がある。
ニックはリズミカルに叩きながら進む。気になったところは、バルドに説明しながら、金槌を渡す。
そしてバルドに木にめり込む感覚を体感してもらう。
「そちらの木槌は何に使うのですか?」
「こちらはですね──」
ニックはまた木槌で壁を叩く。
先程の金槌で平気そうなところももう一度叩いていく。すると中で響く音が違う部分があった。
「壁の外壁の間か、外壁に何かある証拠です」
それをひと通り行う。
これが一部屋だ。
それが終わる頃には夕方になっていた。
「そういえばバルド様は、アーノルド様の昔からの知り合いでらっしゃいますか?」
「いえ、王立軍の討伐隊一般募集がありまして、その時にお知り合いになりました」
「一般募集って──」
一般募集とは、足りない人員を平民から募るものだ。
バルドは雑談のように平然と言ってのける。薄暗かった部屋はさらに光を失っている。バルドの表情はよく見えない。
「えぇ、私は元平民です」
ニックは呆然とした。
口を開けたまま、言葉を探している。
(平民から、貴族令息の側近に……?)
バルドが一歩近づいた。
「バルドとニック、そろそろ切り上げろ」
下からアーノルドの声がした。
「そろそろ下に戻りましょう。暗くなってきて何も見えません」
次回の二角的イチオシシーンは
バルドは部屋のあるものに釘付けになっていた。
「ニックさん、これは⋯⋯?」
ワードローブだった。
使用人部屋のものなので、どの部屋にも同じ物が置いてある。
「見ての通り、ワードローブですよ。これはお嬢様の部屋に置こうと思って準備をしています。まだ完成しませんけどね」




