第33話・ガルド、それでお前の救いたいやつは救えるのか?
「結論から言うとだな、全員の受け入れは難しい。土地はあるが、家がないからな」
大雨の降ったところは家屋が傾いたり、家畜が流されてしまったり、被害が多い。
ここまではガルドから聞いていた。
それだけの情報で推測しても、“さぁ皆さん、手ぶらで来てください”と気軽に言える状況ではないのは明らかだ。
家はおろか旅人が喜ぶ長年使われていない物置さえも、数が足りないだろう。
「そうですよね」
ガルドは小さな声で伝えた。
メルリアは悲しそうに見えるガルドの力になりたいと感じる。
「グルドフとニック、さっきの話で明確な人数を言わなかったが、領民の受け入れはおおよそで何軒分を予想していた?」
メルリアは先程のやりとりを思い出していた。
(よく考えたら、そうよね。何人分か予想して売る小麦の分を考えていたはずだわ)
グルドフとニックはお互い顔を見た。
「「五軒分です」」
グルドフとニックの声が重なる。
メルリアは目を丸くした。
(グルドフとニックは同じなのね!)
メルリアの胸が踊る。
「俺も同じだ」
メルリアは嬉しくて顔を綻ばせる。
だが、アーノルドは厳しい顔をしている。
アーノルドは何を思っているのだろうか。
三人の予想は一致していた。
アーノルドはその厳しい表情のまま、ガルドの方を見た。
「ガルド、それでお前の救いたいやつは救えるのか?」
メルリアは目を見開いた。
町長でもないガルドが“領民の受け入れ”について聞いてきたのだ。
その時は気が付かなかった。
小さな謎は言葉にならないほど小さく心の底に広がっていた。そののどの奥に引っかかったとても小さい骨のような違和感がようやく分かったような気分だった。
メルリアの心は、ようやく霧が晴れたようだった。
もし被害を受けたのが村だとしても、全部は受け入れできない。
そのうちの大切な誰かも被害を受けていて、何とかならないかとガルドが模索していたとしたら──。
メルリアはガルドに視線を移した。
感傷気味に歪めているガルドの横顔。
ガルドは静かに頭を下げた。
「温かいお心遣い、痛み入ります」
そう感謝するガルドの声は揺らいでいた。
それはまるで涙を堪えているかのように、喉が締め付けられている声だった。
そのガルドを見て、メルリアは領地の立て直しを再度決意する。
皆も強い瞳を持っているように見えた。
初めての領民の受け入れは、五軒分に決まった。
「それにしても五軒分家を用意しないとですよね。五軒も建てるお金がありませんね」
ニックは暗い顔をした。
それを聞いた他の人も小さくため息をつく。
周りに重い空気が流れ始めた。
「ねぇニック、家ってそんなに高いの?」
前世の感覚だと、絶対に無理だと思っている。平均的な人だって何年もローンを組んで、やっと支払うのだ。
だが、この世界なら違うかもしれない。
「平均的な平民の一年と半年分程かかりますかね」
予想よりは安かったが、それを五軒分となると、かなりの金額になるだろう。
(せっかくのクアココット領の門出なのよ。領地内で解決したいわ。領地内⋯⋯)
メルリアはクアココット領からリコルディ領に行ったときのことを思い出す。
ぽつん、ぽつんと見えていた家。
空き家があった。
「この前リコルディ領に行くときにいくつか空き家を見つけたわ。あれを直せばいいんじゃないかしら?」
皆の顔に光が差し込んだ。
(屋敷も直せたんだから、家なんて修繕できるよね)
「それならまずは空き家の調査に行かないといけませんね。ですが、屋敷の空き部屋の修繕が先です。ガルド様、木材の注文は手紙でも可能ですか?」と細かい話を詰めるニック。
「特殊な注文でなければ、大丈夫だと思います。私は急ぎ帰って、受け入れる領民の選定をいたします」
いくらこちらが受け入れを承諾しても、向こうが来ないと言ったら、それまでだ。
リコルディ領に帰ってガルドは一軒一軒説明をしに行くのだろう。
メルリアは大きく変わっていく領地でどんなことが必要なのか、分からないことだらけだった。
クアココットは冬でもほとんど雪の降らない地域だ。
冬になったからといって、来られないことはない。だが、冬支度を全て持ってくるのは大変だ。薪割りだってその日中に終わるか分からない。でも初日も薪は使う。
少しでも暖かい時期にした方がよいのだ。
それにせっかく人手が増えるなら小麦と野菜畑も大きくしたい。
やることは沢山ある。
冬になる前にある程度落ち着かないといけない。
だが、家の問題がそれを邪魔しているようだった。メルリアの心にも強く残っていた。
「屋敷の修繕だってままならないからな、空き部屋もどうにかしないとな」
そうだった。元父の部屋の屋根は雨漏りし、屋根と床を応急処置した。
クリスタルもはまっていない窓を木で塞いだのだった。
元家主の部屋だと言うのに嘆かわしいほどたった。
(あっもしかして窓のクリスタルは、父が待っていったんじゃないかしら!?)
気がついても遅い話である。
その答えは誰も知らなかった。
次回の二角的イチオシシーンは
「俺より年上なんだから、家族くらいいるだろう」
アーノルドはなぜか怒ったように言い放った。アーノルドは、メルリアの言葉からガルドが見た目より若く見えると勘違いしたのだろうか。
(アーノルド様より年上?)
メルリアはガルドとアーノルドは同じ歳くらいだと思っていた。だって髭だし。
「アーノルド様って何歳なんですか?」




