第29話・クアココット領の小麦が五倍の値で売れた?
クアココットの屋敷に珍しいお客が来ていた。
ガルドである。
小麦事件から一週間後、アーノルドとメルリア宛に手紙が届いた。
実はこの前の小麦が非常に評判だそうだ。
夏の長雨のせいか、ここ最近、粗悪品の小麦が多く出回っているらしいのだ。
そのせいもあって、メルリアたちの小麦の値段を叩いたのは余談なのだが。
大雨の降ったところは家屋が傾いたり、家畜が流されてしまったり、被害が多いと聞く。
そしてガルドの用件は何だったかというと、“領民の受け入れはしているか”だった。
クアココット領がどんなものかも知らないガルド。
ここに来てもらったほうがいいだろうと、ここへ呼んだのだ。
皺一つないスーツ姿のガルド。
簡素な平民服スタイルのアーノルド。
それに対して、この前買ってもらった可愛らしいワンピースにリボン姿のメルリア。
(女の子にとって、ドレスは戦闘服よね)
メルリアは物々しい考えを刻み込む。
脳内で、ファイティングポーズを取る。
一方、ガルドは前のような威圧的な態度はなかった。
もしかすると、メルリアがそう思っていただけなのかもしれない。
そう思わせるほど、ガルドの雰囲気は柔らかかった。
「先日の件は誠に申し訳ございませんでした。また寛大な処遇、心から感謝しております」
メルリアは会釈しながらアーノルドを盗み見る。
アーノルドはもう怒っていなかった。
隣のバルドは無表情なので分からない。
「ガルドに常識があることは、分かった」
メルリアは変なことをいうアーノルドを不審に思う。
たしかにこの一週間で、アーノルドは出掛けていたことがあった。
アーノルドは明らかに怪しい素振りをしている。
バルドは石像のように直立している。
「アーノルド様、あれ以降、何かあったのですか?」
メルリアは問いただす。
ガルドは乾いた笑いをしている。
実はまたオランに行っていたそうだ。ガルドのギルド以外にも行ってきたそう。
「野菜ギルドっていうのがあってな──」
ギーヴという大男がギルド長をしているそうだが、アーノルドとバルドはあえて平民服で会ったそうだ。
アーノルドは思い出したのか、嫌悪の表情を浮かべる。
「とにかく、鼻持ちならん男で、偉そうで、話も聞かなくて」
ガルドの時は平然としていたアーノルドが、それだけ言うということは、かなり横柄な態度だったのだろう。
でもすっきりしない顔をしているアーノルドに疑念の意を抱く。
「でもそれならアーノルド様が、何かしちゃったのではないですか?」
メルリアはやんわり伝える。
アーノルドが初めて頭を抱えた。
男の横柄な態度に手を上げたのは、バルドだった。
「当然です。ギルドごと、(物理的に)壊しても良かったくらいです」
「バルドが、ギルド長は物理的にボコボコにしたな」
アーノルドは不自然なくらいバルトがやった部分を強調する。
脱穀の時に、殻竿で小麦を粉砕させた腕力の持ち主は、さぞや高尚な主への忠誠心をお持ちなのだろう。
それを聞いた途端、メルリアとガルドは不自然なほど背筋を伸ばした。
(バルドが味方で本当に良かった⋯⋯それにしても、バルドにとっては、当たり前なことだったのね)
悲しいが、メルリアはバルドの無表情な理由が分かった。
そしてガルドとの摩擦の際、バルドが同席していなくて良かったと心から思ったメルリアだった。
「あんな派手なことやったら、俺たちの異名がバレるだろ」
アーノルドは大いに嘆いている。
珍しい光景にメルリアは興味深く視線を投げかける。
(俺たち? アーノルド様とバルド様の異名?)
「失礼しました」
メルリアが異名について、詳しく聞こうと思った矢先に、ガルドに話を変えられてしまった。
これ以上は危険と判断したのだろう。
ガルドはあっという間に話題を変えると、お土産を持ってきた。
アーノルドたちへのお土産はワイン。
メルリアたちへはフルーツがたっぷり入ったフルーツケーキ。
リコルディでは、プディングケーキと呼ぶ。
「そういえば、小麦も評判が良かったと行っていたな」
ガルドの相槌があると思ったら、なかった。
皆、ガルドの方を見た。
「実は最後の小麦が昨日売れましたが、予想の五倍で売れました⋯⋯」
「「「五倍!?」」」
この前、修繕した二代目穀物庫に加えて、一代目穀物庫も種類ごとに仕分けした。
(もし、これを全部売ったらあっという間に屋敷が直せて、牛も羊も豚も飼えるかもしれない⋯⋯)
メルリアは頭の中で計算しようとする。
しかし、メルリアはあることを思い出し、キーワードを並べる。
“領民の受け入れはしているか”とのガルトからの打診。
粗悪品の小麦が多く出回っていること。
それからクアココット領の小麦が通常の五倍の値で売れたこと。
(そうだ!)
メルリアは強い目で、アーノルドを見た。
「うちからも余分な小麦はどんどん売りましょう」
「そうだな」
メルリアにはある考えがあった。
「ですが、通常の値で売ります」
次回の二角的イチオシの台詞は
「小麦が五倍で売れたんですよ。これはラッキーと喜ぶことではありません。異常事態です」
「オラン町では、小麦が足りない。これは事実です。だから私たちは同じ値で売るのです」
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メルリアは何を思いついたのでしょう?




