第27話・大事にされることを少しだけ分かった気がした
「今日は、本当に疲れた。もう動けない〜」
メルリアは屋敷の自室に戻ってくると、ベッドに横たわった。
メルリアの使っている部屋も使用人の部屋とそう変わらない。
ベッドとクローゼットがあるくらいだ。
「いろんなことが起きすぎて頭がついていかないよ〜」
メルリアは今日の出来事を思い出していた。
* * *
ギルドを出た後、バルドと合流した。
グルドフは小麦の移動などに出ているようだった。
ギルドであったことをバルドに話すと、「今からでも私が物理的に潰してまいりましょうか?」と丁寧に物騒な提案をされた。アーノルドが「いいぞ、バルド」と軽く返す。
「良くないです! アーノルド様、保留と言ったでしょう!?」
メルリアは心の中で『心臓が保たない!』と叫んだ。アーノルドは肩を竦めた。
そんなことがありながらも、紹介された服飾店にたどり着く。
中に入ると綺羅びやかなお姉様とおばさまたちが入口に集まっていた。
ガルドが早馬でも出して、何かを伝えたのだろう。
すぐに個室に案内される。
着替え用のカーテンが引かれた。
メルリアは服飾師たちに囲まれて、ありとあらゆるところを採寸される。
それからどんな柄が好きだとか、スカートのスタイルはどうだとか、刺繍の柄や量など質問攻めにあった。
体力を奪われたメルリアは、『色は水色』とだけ注文した。
どんどん、服が決まっていく。
アーノルドは「納品は最速で」と注文をつける。
メルリアが着ていたのは平民服でいうとかなり一般的な生地のワンピースだった。
それでもシエルに作ってもらった物なので持ち帰ると、アーノルドに強く主張した。
もちろん着替え用のカーテン越しである。
それを聞いた服飾師がメルリアのワンピースを持ち上げると、「見事な刺繍ですね」とまじまじと見ていた。
アーノルドが「最高級のリボンも十本ほど頼む」と言った。
服飾師は言葉に詰まらせたが、慌てて取りに行った。
メルリアが隣にいた服飾師にこっそりリボンの相場を聞いてみると、「リボン一本で平民の半年分の収入」というので驚いた。
メルリアは急いでアーノルドを呼ぶ。
「アーノルド様!」
「遠慮は受け付けない。それにこれは俺の持ち金で払う」
二人の押し問答が始まる。
それでも二人の可愛らしいやりとりに、店内は和やかな雰囲気だった。
メルリアは頬を赤らめて手をもじもじさせた。
声が小さくなる。
「ありがとうございます。絹糸と針も欲しいです。シエルが刺繍を好きなので。高かったらリボンの数を減らしてください」
「全部いただこう!」
アーノルドの言葉にすぐさま動いたのはバルドだった。
* * *
目覚めの良い朝である。
メルリアが起きるとすぐにシエルが顔を洗う水を持ってきてくれた。
メルリアは顔を洗い、気分も晴れやかになる。
シエルはクローゼットを開けて、服を取り出した。
新品のワンピース。
生地が何枚も重なっている。
「えっ、もう届いてる!」
それらは昨日注文した服たちだった。
メルリアは驚きに満ちた顔をしたが、シエルはとても嬉しそうだった。
(こんなに嬉しそうにしてくれるなら、新品のワンピースもいいものだわ。それに皆はどんな反応をするかしら)
身体を拭いてからワンピースに着替える。
シエルはメルリアをドレッサーの前に座らせると、メルリアの長い髪を櫛で梳いて整えてくれる。
メルリアは目の前の鏡で変わっていく自分を面白そうに見つめていた。
細い三編みを編み込んだ髪には滑るように艶やかなリボンが飾られた。
「お嬢様⋯⋯素敵です」
シエルは泣きそうな顔をしていた。
シエルはいつもメルリアのことを喜んでくれる。
「シエル、いつもありがとう。それから⋯⋯」
メルリアは絹糸と針を渡す。
「シエルは刺繍が好きでしょう? もし良かったら、私にも何か作ってほしいな」
シエルはハンカチで顔を隠すと嗚咽を漏らし始めた。
メルリアは今までそこまで酷い格好をしていないと思っていたが、かなりみすぼらしい格好をしていたようだ。
シエルはメルリアを優しく抱きしめた。
「いっぱい作って差し上げますね」
長い間、メルリアはシエルの温かさを感じていた。
* * *
シエルが落ち着くと、アーノルドたちの元へと向かう。
アーノルドたちがいる談話室にメルリアが入ると、皆が立ち上がった。
メルリアはアーノルドの前までいくと「メルリアでございます」と挨拶をしてスカートの裾を上げながらカーテシーをした。
メルリアは顔を下げたまま、アーノルドの軽口を待っていた。
しかし、いつまで経っても声はかからない。
メルリアは沈黙に耐えかねて顔を上げると、アーノルドの逞しい腕の中に収まった。
「わっ」
たかが自分が着飾っただけなのに、と思ったが、シエルの反応を思い出す。
メルリアの着ていた服はシエルが白っぽい布から作ったワンピースだった。
どれも汚れて土の色がないものはなかった。
今は上質な生地の空色のワンピース。
それに深い青色のリボンで薄桃色の髪を丁寧に纏めている。
着飾っただけなのにこんなに喜んでくれる。
メルリアは、大事にされることがどんなことかを少し分かった気がした。
温かいけど少しくすぐったい。
でも嫌じゃなかった。
「アーノルド様、ワンピースとリボン、ありがとうございます。私、嬉しいです」
そうメルリアが伝えた途端、アーノルドの抱きしめる力がさらに強くなった。
メルリアは苦しさに我慢できず、カエルが潰れるような声を上げた。
そしてそして、第一章が明日で終わります〜!(第二章は、一章が終わった次の日から始まります!)
次回は『第28話・転んでもただでは起きない』です!




