第26話・敵を選び間違えたな
「名前はなんと言う?」
「ガルドと申します」
アーノルドは強い瞳で刺すようにガルドを見た。
「ガルド、敵を選び間違えたな」
先程の雰囲気とは大きく違い、獅子のような大きな威圧にガルドの肌はひりついた。
「私はアーノルド・バルディーニ。隣のクアココット領の新領主にもなる。この対応はリコルディ男爵にも抗議させていただく」
「バルディーニ子爵家⋯⋯」
そこまで言い切ると、ガルドの目の色が変わった。瞳は光を失っていく。
目の前のアーノルドは、ここに納めているリコルディ男爵よりも上の爵位のご令息。
それはガルドにとって雲の上の存在でもあった。
だが、気がついても、もう遅かった。
ガルドは血の気のなくなった唇を震わせている。
それは目の前に死神でも現れたような怖れ。
ガルドは力なく頭を垂れた。
喉から絞り出すようなか細い声が聞こえる。
「この度は大変申し訳ございませんでした。なんとか、なんとか私に挽回の機会を与えてもらえませんか?」
最敬礼よりも深いお辞儀をしているガルド。
アーノルドは冷たい視線をガルドに投げかけ続ける。
そこへ先ほど、自分のせいだと頭を下げたメルリアの姿が鮮やかに頭の中に浮かんだ。
アーノルドは苦しそうに目を強く閉じる。
『メルリア、俺はお前にそんなことをしてほしいんじゃない⋯⋯でも今、俺が勝手に決めたら⋯⋯ぐ⋯⋯』
アーノルドは小さく呟くと、大きく深呼吸する。
優に息を吐き切った後、感情を抑えて、ガルドに告げた。
「⋯⋯それはメルリアに任せる」
メルリアは待っている間に先程のことを考えていた。それでも激しく感情を高ぶらせたアーノルドの真意を測りかねていた。
* * *
扉が開くと、アーノルドが顔を出した。
先程の怒りが滲み出ている顔ではなかった。
それでもあの怒りを二人きりで直接ぶつけられているはずだ。
メルリアが緊張の面持ちで入るとガルドは体調が悪そうに血の気のない顔をしていた。
(アーノルド様、何をやったのかしら?)
メルリアが扉を閉めると、ガルドは立ち上がる。
「私はガルドと申します。この度はメルリア様に多大なるご不快な思いをさせてしまい、誠に申し訳ございませんでした」
目の前でガルドは頭を下げた。
それはとても、とても深いお辞儀だった。
先程会った時とは、大違いの態度にメルリアはどうしたらよいか、何も浮かばなかった。
真っ先にアーノルドを見た。
「俺はガルドの、そしてこのギルドの処遇はメルリアに任せると伝えた」
メルリアの助けを求めた視線をもろともしないアーノルド。
腕組みをしてさも当然のような姿だった。
(アーノルド様、平然としてないで助けて!)
メルリアは心の中で叫んだ。
「俺としては、今後一切このギルドとは付き合わなくてもいい。取り潰したいなら協力する」
メルリアは青ざめた。
こんな揉め事に巻き込まれたことはない。
しかも今回は当事者だ。
メルリアは何か言わなきゃと頭をフル回転させる。
(この際、自分の感じたことより、一番良い方法を探すことに集中しよう)
メルリアの額から汗が流れる。
「つまり、このギルドを切り捨てても良いということですね?」
ガルドの緊張が空気を伝わって感じるようだ。ガルドの喉が大きく上下する。
「そうだ」
アーノルドは短くはっきりとメルリアに伝える。
「ならば、保留にしましょう。今感情のままに切り捨てる選択ももちろんできます。ですが、クアココット領から一番近い隣領の町です。今後は優遇してくれるのでしょう。決めるのはそれからでも遅くないはずです」
ガルドはアーノルドの言葉を待たずにメルリアに返事をした。
「寛大な処置、誠にありがとうございます! 必ず、メルリア様とアーノルド様を優遇いたします!」
メルリアはガルドに頷いた。
「アーノルド様、それでもよろしいですか?」
そして気になるアーノルドは⋯⋯難しい顔はしているが、メルリアの言葉に頷いた。
「ガルド、一つ条件がある」
アーノルドの固い言葉にガルドの身体が飛び上がる。
「この町で一番人気の服飾店に案内しろ。もちろんすぐに注文もかける」
今度、難しい顔をするのはメルリアの番だった。
次回の二角的イチオシシーンは
長い間、メルリアはシエルの温かさを感じていた。
そしてそして、第一章があと2話で終わります〜!(第二章は、一章が終わった次の日から始まります!)




