第25話・まさかメルリアを見て、値切ってきた?
建物が見える前から道は平らになっていた。
町が見当たらないなんてことは全く無かった。
城壁に囲まれた大きな町が平野に出現した。
「着いたぞ」
アーノルド曰くオランという町だそう。
城壁を抜けると石畳の道に変わる。
ガタンッ、ガタンッと規則的に揺れる馬車。
両脇には綺麗に家が並んでいる。
中心部には二階建ての建物が多く、品物を軒先に出しているお店も多かった。
そして町のシンボルの時計台。
中央部には城があった。
メルリアたちの住む屋敷も大きさだけなら同じくらいかもしれない。
住んでいる人数はずっと少ないが。
馬車で町を一周すると、広場の端に馬車を着けた。
バルドは慣れた手つきで馬の手綱を柱に括り付けている。
メルリアは馬車から降りる。
シエルが白い布で新調してくれたワンピースの裾を揺らした。
石畳を靴の裏で感じる。
硬い人の手で作られた道。
メルリアにとって初めてだった。
メルリアは辺りを見回し、家の見た目も賑わいも明らかに違うことを観察していた。
アーノルドはそれを止めようとしなかった。
メルリアにとって目新しいものばかりなことはアーノルドも分かっていたから。
「アーノルド様、これからどこに行くのですか?」
「見るかぎり大きな町ではないから、グローサーズギルド(食品商会所)に行く」
メルリアは目を点にさせた。
(これは“大きい町”じゃないの!?)
メルリアはアーノルドについて行くと、広場の一軒の建物に入った。
メルリアは空気が変わったように感じた。
“招かれざる客”
そんな言葉がメルリアの頭にふと浮かんだ。
奥から視線を感じ、メルリアはそちらに目を向けた。
部屋の奥の男はじろじろと、舐め回すようにメルリアを見ている。
メルリアの心には冷たい泥水が無遠慮に流れ込んでくるように、不快感を覚えた。
アーノルドは用事を告げると、その男がいる部屋へと通された。
メルリアは上手く身体を動かせなかった。
まるで歩き方を忘れてしまったようなぎこちなさ。
このギルドの責任者だろうか。
スーツを着ている。
それに比べてアーノルドは上質な布で作られた簡素な服。
そして、メルリアも質素な平民が着るようなワンピース。
二人が席に着くまで、男は静かに見ていた。
「ご用件はなんでしょうか?」
言葉遣いは丁寧に聞こえるかもしれないが、高圧的な言い方。
両手を前に出し、拒絶を表す姿勢。
自己紹介もせずに、相手にしないとでも言うような態度にメルリアは腹の底で怒りを感じる。
「小麦二十袋分だ。いくらになる?」
アーノルドは気にならないのか、いつもの調子で答えた。
「そうですね、金貨二枚で、どうでしょうか?」
考える時間もないほど、早い返答だった。
(金貨二枚ってどれくらいなのかしら?)
メルリアは首を傾げた。
アーノルドが机を叩いた。
メルリアは驚いて椅子から飛び上がる。
「ふざけているのか、金貨二枚のわけがない!」
アーノルドは語気を強めた。
怒っているのは明瞭だった。
すると、目の前の男はメルリアからアーノルドに視線を変えた。
(珍しくアーノルド様が怒っている⋯⋯)
メルリアは信じられない光景を少しでも理解しようと無礼な男とアーノルドを交互に見ている。
「では金貨二枚と銀貨五枚では?」
アーノルドが怒っている意味をまだ汲み取っていない無礼な男。
アーノルドの顔の血管が浮いている。
(法外に安い金額を突きつけられたのかしら)
値段交渉をしているのは分かったが、アーノルドが怒った理由が分からなかった。
そこへ無礼な男がメルリアを見た。
(あ⋯⋯!)
メルリアは、なぜアーノルドが怒っているのか、理由が分かった気がした。
(あの人は私を見て値段を決めたのね。アーノルド様があれほど怒るということは、かなり値切られている。私さえついてこなければ⋯⋯)
メルリアは立ち上がり、アーノルドに頭を下げた。
「アーノルド様、ご迷惑をおかけしてすみません」
「メルリア、そうじゃない!」
アーノルドは目頭を押さえて深呼吸している。肩は大きく上下している。
感情がかなり高ぶっているのだろう。
それは爆発しそうな感情を必死で抑え込もうとしているように見えた。
「メルリア、五分だけ部屋の外にいてくれないか?」
アーノルドは目頭を押さえたまま、メルリアに告げた。
「は、はい」
メルリアは小走りに部屋を出た。
* * *
建物内の人々の視線がメルリアに一気に集まる。その不自然な現象に、アーノルドと男とのやりとりが漏れ聞こえていたのだろう。
メルリアは心を落ちつけるのに時間がかかっていた。
前世でもなかった経験──。
今まで露骨に見た目や身分で値踏みされることはなかった。
それは前世でもそうだった。
そういうことがないという前提が、今後もそうならないと慢心していたのだ。
もしかするとメルリアからそういう雰囲気でも漏れていたのだろうか。
だから相手に値踏みされた以上に怒っていたのかもしれない。
今頃、あの男はアーノルドにこってり怒られているのか、脅されているかもしれない。
メルリアはそんなことをぼんやり考えていた。
次回の二角的イチオシシーンは
「名前はなんと言う?」
「ガルドと申します」
アーノルドは強い瞳で刺すようにガルドを見た。
「ガルド、敵を選び間違えたな」
先程の雰囲気とは大きく違い、獅子のような大きな威圧にガルドの肌はひりついた。
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アーノルドが噛みつきます!(「`・ω・)「
そしてそして、第一章があと3話で終わります〜!(第二章は、一章が終わった次の日から始まります!)




