第15話・敷地って屋敷の周りだけじゃないの?
三角の耳をピンと立てた大きな獣。
口元から鋭い歯をちらりと覗かせた。
その瞳は、遠く離れた屋敷をじっと見つめている。
のちに、この獣と遭遇するなんて、メルリアは思ってもいなかった。
朝の支度が終わると、皆で屋敷の庭に集まった。
予定通り敷地を散策することにする。
アーノルドは地平線の方まで見渡す。
「開拓しているのは屋敷の周りだけか」
メルリアも前世の感覚が染み付いているのか、屋敷の周りまでが敷地のイメージをしていた。
そう思うと、メルリアも見渡す。
「もしかして敷地って屋敷の周りだけじゃないのですか?」
「地図がないから分からないが、確かあの森の奥までクアココット領だ」
地平線を隠すような森は遥か彼方まで広がっている。
手前の平民のお宅二軒分ほどの敷地の野菜畑と大型犬が飼えそうな大きさの鶏小屋しかない庭の奥には雑草が叢生している。
森までのすべての雑草を抜くように命じられれば、メルリアは一年以上かかるかもしれないと思った。
この雑草をどうするべきか⋯⋯、早速考え込んでしまった。
アーノルドは動きを止めたメルリアが心配になって覗き込む。
「どうした? お腹でも痛いのか、メルリア」
「いえ、雑草をどうするべきか、考えてしまいました」
「そんなもの家畜に食べさせれば、食事と運動の二役買える」
そうか、自分でやる必要はないのか。
メルリアはつくづく小市民の考えが染み付いていることを感じた。
この雑草が全部なくなれば相当な面積になる。
そうすれば牛だけではなく、違う家畜も飼える。
⋯⋯いや、飼わなくても鶏みたいに皆、勝手に住んでくれるといいのになと楽観した。
右手には丘があるが、もしかすると何かがあるのかもしれない。
「あの丘の向こうには何があるのでしょうか?」
「行ってみるか」
一時間も経つとメルリアの足は悲鳴を上げた。棒切れのように動きが悪くなる。
(この小さな身体はすぐに疲れるなぁ)
ちょうど丘に上がったところだった。
メルリアの足では一時間もかかったが、アーノルドの足なら半分もかからないだろう。
「メルリア、大丈夫か?」
同じ歳のカイルは平然としていた。
「ちょっと無理かも」
メルリアは肩で息をしながら本音を零した。
もたげた頭をなんとか上げると、見晴らしがよかった。
小高い丘からは屋敷が下の方に見えたし、反対側には土の道が少し見えた。
そして──。
「家があるわ」
ここの領地には民が住んでいたのだ。
メルリアはひどく驚いた。
前世の感覚だと、領民の名前は記録され、どこにどれだけの敷地を持っているのか管理されていると思った。
税金は高くないのかもしれないが、物品かお金で領民は支払わなければならないと思っていた。
なのに知らない領民がいる。
(もしかして物置に居着いた旅人⋯⋯なわけないか)
家は一階半くらいの高さがあるので天井近くは屋根裏があるのかもしれない。
それに煙突からは煙が出ていた。
誰かが火を起こして何かをしているはずだ。
メルリアは興味深く見ていたが、そこに点のように動くなにかがある。
「⋯⋯!?」
なんとなく目があった気がした。
風貌はピンと立った耳に大きな身体。
こっちに走ってきている気がする。
メルリアはあれがなにか分かりそうで分からずもやもやしている。
あそこからメルリアのところまでまだ距離がある。
それなのにあの大きさということは相当大きいはず。
予想通り近づくととても大きかった。
「オオカミ!?」
メルリアは足が竦んだ。
オオカミはまっすぐメルリアに向かって走ってきていた。
大型の動物がメルリアに飛びかかった。
「「メルリア!」」
アーノルドとカイルを安々と躱してメルリアに飛び乗った。
「わぁー!」
メルリアはそのまま倒れ込んだ。
きゃーとか可愛らしい声の出せないメルリアである。
次回の二角的イチオシシーンは
メルリアの全身が癒されていると主張している。
それは過激なファンのように『癒しー!』と言っている気がする。
癒されているはずなのに、メルリアの身体は忙しかった。




