第10話・えっ、屋根がないままなのかな!?
メルリアは気持ちのよい朝を迎えていた。
夜空を見ているとまどろんできて、夜風とともに夢の中へと沈んでいってしまった。
それもこんな経験は二度とできないから、貴重だと思える。
「あっ、ニックおはよう」
溢れるような笑みのメルリアとは違い、ニックは深刻そうな顔だった。
「お嬢様、雨漏りは直せないかもしれません」
「えっ!?」
屋根が直らないなんて、考えていなかった。
一度だけのはずの屋根なしの夜を二晩も経験したメルリアたち。
この先、雨が降ってきたら、二階が崩落して一階部分も住めなくなるかもしれない。
「どうして⋯⋯?」
「瓦がなければいくら木材があっても雨で腐ってしまいます。それに今のクアココットでは、瓦は作れません。瓦が足りるかどうか⋯⋯」
メルリアは慌ててニックの服を引っ張った。
「ニック〜、探しに行こう」
「じゃあ、物置を見に行きますか」
メルリアは心配な面持ちでニックの後ろをついて行った。
物置はメルリアたちが寝れそうなほど大きかった。
「ニック、私たちが旅人だったら有り難くここに寝ているんじゃないかしら」
「お嬢様が六人なら問題ありませんが、さすがに狭いです」
ニックは雑談をしながらも、資材を探している。
何かを見つけたようで、数え始める。
ニックの後ろから覗き見ると、それは瓦だった。
「屋根に使う瓦! 良かった、屋根は直るのね」
「数が足りればですが」
そうか、補修に必要な枚数がなかったら、屋根が歯抜けになってしまう。
それこそここに竈を作って一から瓦を作るのは難しい。そうしたら隣の領地まで行かないと行けなくなる。
何日かかるのだろうか。
ニックの言葉に浮かない顔をするメルリア。
ニックの指は止まった。
「ギリギリ足りました」
「良かった!」
「ただ⋯⋯」
雨漏りの最低限の応急処置に必要な木材が足りないようなのだ。
梁や細い木で組んだ天井に板を乗っけて、その上に瓦を並べる。
木材がなければ屋根は出来上がらない。
メルリアの唇は乾いてしまった。
ニックは何かを思い出すように腕を組んだ。
しばらくすると何かを思いついた。
「先代が遺した物置があったはず」
ニックもおぼろげな記憶のようで、足先を頻繁に変えながら庭を横切った。
メルリアも来たことがないところだった。
物置は予想より大きくしっかりしたものだった。
古い錠前。
もちろん鍵はない。
ニックは大きめの石を探すと錠前を叩いた。
錠前の周りが壊れたので、扉を開ける。
大きな角材から平たい板までいろんなものが置いてある。
メルリアは不思議そうに見渡していた。
(何でも揃っているのね)
それを見たメルリアは先代領主はしっかりとしていた人だと感じた。
「予想以上にいろんな物が置いてありますね」
「じゃあ屋根は直るのね! 良かった」
「お嬢様、屋根はちゃんとは直せません。私一人では出来ることが限られています。今回は雨漏りの応急処置だけです」
「さすがに俺もこの土地を買うからな。あんまり高い買い物はできねぇ」
屋敷が直るのはまだまだ先のようだ。
その前にメルリアたちは貧乏という問題に直面していた。
(ここの生活はこのままで大丈夫かと思ったけど、屋敷の修繕のことを考えると、稼ぐことも必要よねぇ)
アーノルドも目についた木材を触っている。
ニックと何やら話し始めた。
雨漏りしているということは屋根が壊れているのか、屋根に穴が開いているのか、天井部分なのかいろいろとあるのだろうと思った。
忙しそうな二人を置いて、メルリアはシエルの手伝いをすることにした。
雨漏りした部屋には比較的物がないので、いつものように洗濯を始める。
大きな窯に水と灰と服を入れて火にかける。
大きな木べらでかき回すのだが、これが一苦労なのだ。いつもカイルと一緒に手伝いをする。
「屋根直るといいですね」
「うん、応急処置はできるみたいよ」
洗濯が終わるとアーノルドとニックのために野菜を取ろうと意気込んだ。
トマトと胡瓜ならすぐに食べられるだろう。
グルドフの料理が一段落すると、一緒に庭に出る。
トマトと胡瓜はすぐに見つかった。
しかし、少し奥には背が高い植物が見える。
細長い何かがなっている。
それはメルリアも知っている野菜だった。
「グルドフ、とうもろこしがなってる!」
グルドフは一週間前に種を植えたといっていた。
メルリアは少し焦っていた。
とうもろこしは肥料食いといわれる。
とうもろこしをたくさん食べたい気持ちもあるし、鶏も喜んで食べそうだが、このままとうもろこしの勢力が広がると、他の野菜が駄目になるかもしれない。
(堆肥もよく混ぜなきゃいけないわね。それに──)
たくさん出来上がっていく野菜は保管庫が必要なほどだった。それに成長の仕方からすると、もう少し畑を大きくしないと野菜同士が近すぎて実りが悪くなる。
(あとで皆に相談しなきゃだわ)
* * *
また屋根のない二階だった。
ただ木枠は増えている。
ニックが慌てて「明日には瓦まで入りますから」と慌てて告げた。
この日も部屋に皆集まっていた。
メルリアは口にはしなかったが、こんなふうに寝るのも悪くないと思っていた。
そしてこんなことが二度とないと思うと、少し寂しい気持ちになった。あれ、昨日も同じこと思っていたな。
そして疲れた身体は休みを取ろうとする。
メルリアは夜空の下で眠りについたのだった。
次回の二角的イチオシシーンは
「実はマーラからメルリアのことは聞いていたんだ。その⋯⋯大変だったな」
「アーノルド様、どの部分が大変なのかは分かりません。でも私には母よりも大きな愛を持っているシエルがいて、頼もしい兄と美味しい料理を作ってくれるグルドフに、何でも褒めてくれるニックがいます。楽しい生活ですよ」




