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第6話 影の脈動と、案内人の罪

総集編もあるので、テンポよく読みたいかたはそちらがおすすめです。

神殿の奥へ逃げ込んだ恒一は、荒い息を整えながら壁に手をついた。

 腕の黒い傷が、まるで心臓のように脈打っている。


「……っ、これ……なんだよ……」

 痛みではない。

 だが、冷たい何かが血管を逆流していくような感覚があった。


リオが心配そうに駆け寄る。

「恒一さん、大丈夫……?」

「大丈夫じゃないけど……まだ動ける」


エイルは険しい表情で恒一の腕を見つめた。

 その瞳には、恐れと――罪悪感が宿っていた。


「恒一さん……その傷は、影が“あなたの物語に入り込もうとしている”証です」

「入り込む……?」

「はい。影は未完の物語を喰らい、形を得る存在。

 あなたの物語は、この世界では“未定義”……だからこそ、影にとって格好の餌なのです」


恒一は息を呑んだ。

 影が見せた“少女の父親に似た男”の姿が脳裏をよぎる。


「……影は、俺の後悔を知っていた。

 あれは……俺の記憶を読んだってことか?」

「影は“物語の隙間”に入り込みます。

 あなたの心の隙間――後悔や恐れに触れたのでしょう」


エイルの声は震えていた。


◆案内人の罪

エイルは二人を神殿の最深部へ案内した。

 そこには巨大な石扉があり、中央には“円環の紋章”が刻まれている。


「ここは……?」

「“物語の源泉”へ続く扉です。

 勇者の剣を完全に抜くには、この先へ行く必要があります」


リオが息を呑む。

「源泉……?」

「はい。すべての物語が生まれ、終わりへ向かう場所」


恒一はエイルの横顔を見つめた。

 その表情は、これまで見たどの表情よりも苦しげだった。


「エイル……お前、何か隠してるよな」

 エイルは目を伏せた。


「……私は、“案内人”としてあなたを選びました。

 ですがその役目は……あなたにとって優しいものではありません」


「どういう意味だ?」

「あなたは“物語をつなぐ者”。

 しかしその本質は――“他者の物語の犠牲になる者”です」


リオが目を見開く。

「犠牲……?」

「はい。物語が続くためには、誰かが“終わりを引き受ける”必要がある。

 勇者が結末を恐れれば、物語は未完となり、影が生まれる。

 だから、あなたのような存在が必要なのです」


恒一は拳を握りしめた。

「つまり……俺は、誰かの物語を続けるために“終わりを押し付けられる”ってことか?」

「……言い方は違いますが、近いです」


エイルの声は震えていた。

 その瞳には、深い後悔が宿っている。


「私は……あなたをこの役目に選んだことを、ずっと後悔しています」


恒一は言葉を失った。


◆影の囁きが近づく

そのとき、神殿全体が低く唸った。

 黒霧が扉の隙間から滲み出し、床を這う。


「もう追ってきたのか……!」

 リオが聖剣を構える。

 だが、刃の黒い染みはさらに広がり、光が弱まっている。


影の声が響いた。


――逃げても無駄だ。

 ――物語は、終わりへ向かう。


黒霧が集まり、再び“男の姿”を形作る。

 少女の父親に似た影が、恒一を見つめる。


――おまえは、まだ知らぬ。

 ――あの少女の物語が、どう終わったか。


「やめろ……!」

 恒一は影に向かって叫んだ。


「俺は……あの子を助けた!

 それで十分だろ……!」


影はゆっくりと首を振る。


――物語は、続く。

 ――救った後に、何が起きたか。

 ――おまえは知らない。


恒一の胸が締めつけられる。

 影の言葉が、心の奥に刺さる。


――だからこそ、おまえの物語は“未完”なのだ。


◆リオの決意

影が恒一に手を伸ばした瞬間、

 リオが叫び、影の前に立ちはだかった。


「恒一さんを……これ以上苦しめるな!!」


聖剣が光を放ち、影を押し返す。

 だが、光は弱い。

 影はすぐに形を取り戻す。


――勇者よ。

 ――おまえの剣は、まだ“結末を選んでいない”。


リオは歯を食いしばり、叫んだ。


「俺は……俺の物語を、自分で選ぶ!

 父さんの結末を恐れない!

 俺は俺の結末を、自分で決める!!」


その瞬間、聖剣の黒い染みがわずかに後退した。


エイルが驚きの声を上げる。

「リオさん……あなたの“覚悟”が、影を押し返している!」


影が苦しげに揺らぐ。


――覚悟……か。

 ――だが、勇者よ。

 ――おまえの隣にいる“つなぎ手”は、覚悟を持てるのか?


影は恒一を見つめた。


――おまえの物語は、どこへ向かう?


恒一は影の視線を受け止め、拳を握りしめた。


「俺の物語は……俺が決める。

 影なんかに、終わらせさせない!」


影が揺れ、黒霧が激しく波打つ。


――ならば、見せてみよ。

 ――おまえの“続き”を。


影が神殿を揺らし、扉の向こうへと消えていく。

 その残滓だけが、冷たい風のように残った。

面白かったらブックマークと高評価お願いします。また、noteにて紹介動画等を投稿中ですので、ぜひご覧ください。

次回予告

影が消えたあと、

恒一の腕の黒い傷が――

影と同じ声で囁いた。


――おまえの物語は、まだ“始まってすらいない”。

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