第39話 過去の檻と、“救われなかった自分”との対面
総集編もあるので、テンポよく読みたいかたはそちらがおすすめです。
落下の感覚は一瞬だった。
だが着地した世界は、恒一がよく知る“あの夜”だった。
雨。
アスファルトの匂い。
泣き声。
車のライト。
――少女を助けた、あの始まりの夜。
だが何かが違う。
空気が重く、色が薄い。
まるで“過去の影”だけを切り取ったような世界。
リオが周囲を見渡す。
「ここ……恒一さんの過去……だよな……?」
エイルは震える声で言った。
「いえ……これは“過去そのもの”ではありません……
“過去が閉じ込められた檻”です……
未来の影が作り出した……
恒一さんの過去の“負の可能性”……!」
影は眉をひそめる。
「つまり……
ここには“救われなかった恒一”がいるってことか……」
その言葉に応えるように、
闇の奥から足音が響いた。
水たまりを踏む音。
ゆっくり、確実に近づいてくる。
姿を現したのは――
恒一と同じ顔をした“もうひとりの恒一”。
だがその瞳は、
光を失い、
世界を拒絶していた。
「……お前が……“救われた恒一”か。」
リオが息を呑む。
「これが……
“救われなかった未来の恒一”……!」
もうひとりの恒一は、
少女を見捨てた夜の自分そのものだった。
「俺は……助けなかった。
怖かった。
逃げた。
そして――
誰にも救われなかった。」
影が低く呟く。
「……こいつ……
未来の影よりも……ずっと重い……」
ナギは一歩前に出た。
「あなたは……
“選ばれなかった未来”じゃない。
“救われなかった過去”……
その痛みが、今もあなたを縛っている……」
もうひとりの恒一は、
恒一本人を睨みつけた。
「お前は救われた。
仲間に出会い、
影を救い、
ナギに名前を与えた。
だが俺は――
何も得られなかった。」
恒一は静かに言った。
「……だからこそ、
俺が“お前を救う”。」
もうひとりの恒一は笑った。
乾いた、痛みだけの笑い。
「救えるわけがない。
俺は“過去”だ。
変わらない。
変われない。
変わる資格もない。」
恒一は首を振った。
「変われる。
過去は変えられないけど――
“過去の意味”は変えられる。」
その瞬間、
世界が震え、
過去の檻が軋むような音を立てた。
ナギが叫ぶ。
「恒一!
この世界……
あなたの言葉に反応している……!」
影も叫ぶ。
「恒一!
こいつを救えたら……
未来の影も……救えるはずだ……!」
恒一はもうひとりの自分へ手を伸ばした。
「俺は救われた。
だから今度は――
“お前を救いたい”。」
過去の恒一は震えた。
その瞳に、
初めて“揺らぎ”が生まれた。
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