第19話 影の裂け目と、始まりを越える者
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恒一の影は、エイルが光を取り戻した瞬間、
まるで逃げるように闇へと溶けていった。
だが――ただ逃げたわけではない。
影が消えた場所には、
“黒い裂け目”がぽっかりと開いていた。
空間そのものが破れ、
向こう側には何もない“虚無”が広がっている。
「……なんだ、これ……?」
リオが震える声で呟く。
エイルは裂け目を見つめ、
その表情を強張らせた。
「……“始まりの裂け目”です」
「始まり……?」
恒一が問い返すと、エイルは静かに頷いた。
「つなぎ手の影は、
あなたの“終わり”だけでなく――
あなたの“始まり”にも触れようとしている」
◆始まりを越えるということ
「始まりって……俺が生まれた瞬間とか、そういう話か?」
恒一の問いに、エイルは首を振った。
「いいえ。
つなぎ手にとって“始まり”とは――
物語が動き出した瞬間のことです」
「物語が……動き出した瞬間……」
恒一は思い出す。
雨の夜。
少女を助けた瞬間。
自分の物語が一度終わり、
そして“つなぎ手”として始まった瞬間。
「……あの夜、か」
「はい。
影はあなたの“終わり”を奪えなかった。
だから今度は――
あなたの“始まり”を奪おうとしている」
残響が険しい表情で言った。
「始まりを奪われたら……
お前の物語は“存在しなかったこと”になる」
恒一は息を呑んだ。
「存在しなかった……?」
「そうだ。
つなぎ手としての存在も、
少女を助けた記憶も、
リオと出会ったことも――
全部、消える」
リオが叫ぶ。
「そんなの絶対にダメだ!!
恒一さんがいなかったら……
俺は勇者になれなかった!!
俺の物語は……始まらなかった!!」
エイルも強く頷いた。
「恒一さん。
あなたの“始まり”は、
多くの物語を動かしたのです。
影に奪わせてはいけません」
◆裂け目の向こう側
黒い裂け目の奥から、
恒一の影がゆっくりと姿を現した。
――つなぎ手よ。
――おまえの“始まり”は……脆い。
影は恒一と同じ姿をしているが、
その瞳は深い闇に沈んでいる。
「……何が言いたい」
影は微笑んだ。
――おまえの始まりは“偶然”だ。
――少女を助けたのも、
――つなぎ手になったのも、
――すべて偶然の産物。
「偶然でも……俺は選んだんだよ」
影は首を振る。
――選んでなどいない。
――おまえは“終わりを恐れて”動いただけだ。
恒一は拳を握りしめた。
「違う。
俺は……あの子を助けたかった。
それだけだ」
影は笑う。
――ならば証明してみせよ。
――“始まりを越える”ということを。
影が裂け目の奥へと消える。
その瞬間、
裂け目が恒一を吸い込むように揺れた。
◆つなぎ手の決断
「恒一さん!!」
リオが手を伸ばすが、
裂け目の吸引力は強く、
恒一の身体は引き寄せられていく。
「リオ、エイル……!」
エイルが叫ぶ。
「行ってください、恒一さん!!
“始まり”を取り戻せるのは、
あなた自身だけです!!」
「でも――!」
「大丈夫です。
あなたは……必ず戻ってきます。
私は信じています」
恒一はエイルの瞳を見つめ、
そしてリオの必死な表情を見た。
「……わかった。
俺は行く。
俺の“始まり”を取り戻すために」
恒一は裂け目へ飛び込んだ。
光と闇が混ざり合う空間へ――
自分の“始まり”が眠る場所へ。
◆始まりの世界
恒一が目を開けると、
そこは雨の匂いが漂う夜の道路だった。
あの日と同じ。
少女の泣き声が聞こえる。
車のライトが迫ってくる。
だが――
そこには“もうひとりの恒一”が立っていた。
影ではない。
残響でもない。
“始まりの恒一”だった。
彼は振り返り、
恒一を見つめて言った。
「……お前は誰だ?」
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次回予告
始まりの恒一は、
少女を見つめながら呟いた。
「……俺は助けない。
だって、俺が死ぬのは嫌だから」
恒一は息を呑む。
影の声が響く。
――さあ、つなぎ手よ。
おまえの“始まり”を、どうする?




